ここ数年、急速に「ウェルビーイング」というワードを耳にする機会が増えたが、まだその正確な意味を把握していない人も多いはず。具体的には「Well」(良い)と「Being」(状態)を組み合わせた単語で、要するに「心身ともに満たされた状態」を指す言葉だが、これが働き方の次なるムーブメントとして注目を集めているのだ。

では実際、ウェルビーイングを推進している企業ではどのような取り組みが行われているのだろうか。今回は総合人材サービスを提供する、パーソルホールディングスで働く中山友希さんに話を聞いた。

  • パーソルホールディングス グループコミュニケーション本部 はたらくWell-being推進室 中山友希さん

「はたらいて、笑おう。」をかけ声だけ終わらせない、から始まった“はたらくWell-being”推進

――まず、現在のお仕事について教えていただけますか?

パーソルホールディングスのグループコミュニケーション本部はたらくWell-being推進室で働いている、中山友希です。よろしくお願いします。

パーソルグループは転職の支援や派遣など、いろんなサービスや事業を展開し、いくつかのグループ会社が存在しているのですが、それらを統括するのが私のいるパーソルホールディングスで、その中のグループコミュニケーション本部というのが、グループ全体の広報やブランディングなどを担当する部署となっています。

――「ウェルビーイング」という言葉は割と最近聞くようになったと思いますが、はたらくWell-being推進室はいつ頃発足したんですか?

この部署自体は去年の4月に立ち上がったばかりなんですけど、プロジェクト自体は2019年頃から進んでいたんです。まだ「ウェルビーイング」という言葉が出始めたばかりでしたし、今もまだウェルビーイングというワードの認知度は4割くらいなので、対応としてはかなり早かったと思います。

――パーソルホールディングスが考えている、ウェルビーイングの定義や考え方、目的などについて教えてください。

パーソルホールディングスはグループビジョンとして「はたらいて、笑おう。」を掲げているのですが、これを単なる“交通標語”のようなかけ声で終わらせるのではなく、本当に実現したいよね、という話になったんです。役員たちも前向きで、これを実現するには現状を可視化する必要がありますし、そもそもわたしたちは50年くらい「はたらく」という領域で事業を展開しているので、当然のように“はたらくWell-beingを推進するようになったという経緯があります。

――役員の皆さんは、なぜそこまで前向きになれたのでしょう?

創業の頃からそういった思いが強い会社だったんだと思います。パーソルテンプスタッフの創業者である篠原欣子は、かつてオーストラリアで仕事をしていたのですが、帰国後、日本の女性の社員たちの待遇に驚いたんだそうです。なぜ、こんなに優秀な人たちがたくさんいるのに、お茶汲みやタイピングといった仕事しかしていないんだろうって。約50年前の話なので、確かに当時はそういう時代だったのだと思います。

パーソルは、篠原が「日本の女性たちもどんどん活躍してほしい」という思いからスタートしたビジネスですし、その思いは脈々と受け継がれているので、自然とウェルビーイングに関心を持つのも早かったのかもしれません。

約150カ国で “はたらくWell-being”の実現度を測る調査を実施

――実際、パーソルではウェルビーイングについてどんな活動やサポートを導入しているんですか?

対外向けという意味で、世界最大の世論調査「Gallup World Poll」などと連携し、約150カ国を対象に「はたらいて、笑おう。」の実現度を測る調査を実施しています。

  • 3つの質問で”はたらくWell-being”の状態を測っている

設問は①「あなたは、日々の仕事に、喜びや楽しみを感じていますか?」、②「自分の仕事は、人々の生活をより良くすることにつながっていると思いますか?」、③「自分の仕事や働き方は、多くの選択肢の中から、あなたが選べる状態ですか?」の3問で、”はたらくWell-being”の状態を測っています。

――なぜ国外の状況まで調査しているんですか?

  • 「はたらいて、笑おう。」グローバル調査結果

大きな理由のひとつは、日本でウェルビーイングに対する関心を喚起するためです。世界の “はたらくWell-being”の現状を知ることで、日本の立ち位置が相対的に見られるので、関心も高まっていくと期待していますし、もちろん調査データはすべて公開しています。現在は福岡市と提携し、この3問を「福岡市Well-being&SDGs登録制度」の申請要件の一部として活用していただいています。が、今後はもっといろんな自治体などとも提携していきたいと考えています。

グループの社員向けには、例えば「キャリアチャレンジ」といって、挙手制でグループ内の別部署に異動できるという仕組みがあるのですが、これまで400人くらいがこの制度を使って異動しています。あとは、インターンシップに近いのですが、「ジョブトライアル」といって、自分がチャレンジしてみたい部署や、学んでみたい部署にエントリーし、業務時間の一部を利用して実際にその仕事を体験できるという仕組みもございます。

――それは素晴らしいですね。「転職したけど、思ったのと違ったから戻りたい」が通用しにくい社会なので、こういう制度があると安心してチャレンジできそうです。

  • キャリアオーナーシップ支援策

ノーリスクでいろんな仕事へチャレンジできるというのは大きなメリットかと思います。ちなみに、IT人材に限ってはグループ内での副業が解禁されているので、社内版のデータベースに自分の情報を登録しておくと、「こちらの部署で働きませんか?」と連絡がくるような仕組みも用意しています。グループ全体で考えれば本当にいろんな事業が幅広くあるので、会社としては「選択肢はこれだけあるから、その中から自分で好きなように考えて選んでね」というスタンスをとっています。

働き方改革、人的資本、健康経営……次々に登場する新ワードに、日本の人事は疲れている!?

――ウェルビーイングの推進前と現在で、変化はありましたか?

社外的な話としては、明らかにウェルビーイングの認知度が高まっているのは間違いありません。日経新聞主催の「Well-being Initiative」という企業コンソーシアムがあって、パーソルも参画しているのですが、
企業の中でウェルビーイングをどう実装していくかという議論を重ねてきました。また、政府に対しても調査結果の公表や提言をしています。

岸田首相が昨年の所信表明演説の中で、「国民のウェルビーイングを高めるのは政治の役割だ」と言及したのですが、これも私たちを含むさまざまな団体が政府に対して働きかけをしてきたことが決実した結果なのかなと思っています。


――「ウェルビーイング」を推進したことで得られたメリットはありますか?

社内については、「キャリアチャレンジ」や「ジョブトライアル」を利用することで、転職せずに自分のキャリアを見直せたり、逆に今の自分の仕事の価値に気づけたりするなど、いろんな面でプラスの効果が表れていると思います。

――今後の課題はありますか?

他社の人事の方とお話をしていて思うのが、人事の現場の方々って、次々に出てくる人事関連の新ワードに疲れてしまっているんだな、ということ。「働き方改革」「人的資本」「健康経営」など、毎年のように新しいワードが出てくるので、ウェルビーイングもその一種だと捉えられている傾向にあって、人事のみなさんはもう疲れていて対応できないという印象がありますね。

私たちとしては、もっとわかりやすい形でウェルビーイングを支援するサービスやコンテンツを作っていかなければいけないと思っています。

――ちなみに、ウェルビーイングを推進するうえで、気になっている他企業や他団体などもあったりするんですか?

EY JAPANさんや住友生命さんですね。EY JAPANさんはウェルビーイングに関するプロジェクトに関わっている社員数が一番多い会社なんじゃないかと思います。住友生命さんは企業CMでもウェルビーイングを明確に謳っていたり、ウェルビーイングに関する商品も扱っています。

それから、通販事業のフェリシモさんは、「する」だけでなく「いる」だけで許されるような村を目指している、と公言しているのですが、これもユニークだなと思っています。つまり、会社は仕事を「する」場所ですが、会社に「いる」だけでもとても価値があることだと。組織図の他に社員同士の「関係図」も作ろうとしているそうなんですけど、そういう取り組みはすごく面白いなぁと感じています。

――最後に、読者のみなさんにメッセージをいただけますか?

パーソルは昨年創業50周年 を迎えましたが、一貫してずっと「はたらく」というドメインで事業を展開してきました。パーソルでは働くことが好きな人が多いのですが、SNSなどを見てみると、「まだ月曜日」「やっと金曜日」といったワードが毎週トレンド入りするなど、働くこと=ネガティブに捉えている人が多い気がします。

私たちとしては、“はたらくWell-being”というワードを使って、どんどんウェルビーイングへの関心を高め、早く“はたらくWell-being”が当たり前のコンセプトだという時代にしたいなと思っています。


「はたらく」ことに誰よりも長く、真摯に向き合ってきたパーソルホールディングスだからこそ、誰よりも早くキャッチした「ウェルビーイング」の重要性。中山さんは、「これからもパーソルが実験台となって、さまざまな取り組みにチャレンジし、失敗例も成功例もどんどん公開していきたい」とも言っていたが、今後もその動向から目が離せなさそうだ。