15回目となる今回は、鈴木このみ、ReoNa (五十音順・敬称略)をご紹介。タイプの全く異なるふたりのアニソンシンガーが有する、それぞれの歌の魅力やパワーを中心に、この夏の必聴曲をご紹介していく。ぜひ今回も楽曲を聴きつつ、ご一緒に”予習”していただければ幸いだ。

【鈴木このみ】楽曲をいっそう魅力的なものにする、力強さの中に織り込んだ”弱さ”

2011年、"第5回全日本アニソングランプリ"にてグランプリを獲得し、アニソンシンガーの世界へと足を踏み入れた鈴木このみ。弱冠15歳にして、畑亜貴がリリックプロデュースを手掛ける「CHOIR JAIL」でアーティストデビューを果たした彼女の持ち味は、パワフルな歌声。聴く者を圧倒するような力強さは、年々増していくばかりだ。

その一方で近年加速度的な成長が感じられる、ファルセットやスッと引くような歌声の用い方の巧みさも要注目ポイント。これによってさらにボーカルワークにメリハリが際立ちより繊細な感情表現を可能にしたことで、楽曲の魅力をこれまで以上に引き出すことに成功している。

「アニサマ」にはデビュー年から出場継続中で、今年も含めれば9年連続出場となるはずだった。この夏3カ月連続リリース中であり、未だに成長著しい彼女の今の歌声に、今年も圧倒されたかったとつくづく思う。

☆この曲を聴け!……「Realize」(TVアニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』2nd season OPテーマ)

2nd seasonでも引き続き『リゼロ』のOPテーマを担当する鈴木が、1st seasonからの4年あまりの間に成し遂げた成長を全て叩き込んだ曲と言っても過言ではないだろう。最初にこの曲を聴いたときには、思わず心の中で何度も「わっ、すごい」とつぶやいてしまったことを覚えている。そう感じさせたのは、前述した加速度的な成長をみせている、彼女の歌唱表現の豊かさだ。

4年前に歌った、1st seasonのOPテーマである「Redo」は、物語自体も出発地点。なので、ダークさはありながらもストレートなロックナンバーに乗せられた、とにかくがむしゃらでまっすぐな歌声が物語にも主人公・スバルにも非常にハマるものだった。

だが、今回は2nd season。何度も何度も”死に戻り”を繰り返して、様々な事件を乗り越えてきた先の物語が描かれていくわけだ(もちろん2nd seasonにおいても、相変わらず様々な苦難に直面しているわけではあるのだが)。その幕開けを飾る楽曲においては、単なる踏襲ではなく”進化”も間違いなく求められてくる。

その要求に、彼女の歌声は見事に応えた。「Redo」以上に重低音強めのサウンドをパワフルさでしっかりと従えつつ、フレーズごとに的確な感情を乗せた歌声を響かせ、リスナーや視聴者を物語の世界へといざなっているのだ。特にこの曲で注目すべきなのは、Bメロだろう。

予測不能な未来への恐れのような感情と直後のサビで爆発をみせる決意を併存させ、それをギリギリこぼれさせずに心の内側に抱えたさまを見事に表現。TVサイズでは流れない2番においては、消え入ってしまいそうにさえ感じるか細い歌声で引きつけて引きつけて……からの感情の大爆発に、ゾクリとさせられた。

その他にもスバルがエミリアに語りかける姿を想起させる落ちサビと、それに続くブレイクのなか響く大サビ冒頭の全力の歌声との落差なども含めて、今作でも鈴木の歌声はスバルの感情とも強くリンク。エミリアの笑顔を守るために文字通り命のバトンを繋いできたスバルの、こらえるところはこらえて爆発させるところは爆発させるような想いは、まさにそんな鈴木の歌声と重なるものではないだろうか。その絶品のボーカルワーク、改めて『リゼロ』と合わせて味わい、凄さを感じてほしい。

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【ReoNa】激しいサウンドの中においてもぼやけない、柔らかくも確固たる歌声

2018年春、TVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』にて劇中アーティスト・神崎エルザの歌唱を担当した彼女は、同年夏に”ReoNa”としてソロデビュー。現在までに4枚のシングルと2作の配信シングルをリリースしており、10月には待望の1stフルアルバムのリリースを控えている。

彼女の歌声は、単純に力強さを希求するものではない。リスナーが心の内に抱える闇や葛藤に寄り添う”絶望系”シンガーである彼女は、とつとつと語っていくMCも含めて、音源のみならずライブにおいても一つひとつの言葉を非常に大事にしているアーティスト。少年性をもちつつもどこか丸みを帯びた独特な歌声を楽曲のもつメッセージに応じて硬軟自在に変化させることで、リスナーの心を震わせていく。

「アニサマ」には、今回が二度目の出場となる予定だった彼女。初出場となった昨年はアリーナ内のスペシャルステージに立って観客へ距離も心も接近していったが、今年はどんな”お歌”を届けようとしてくれていたのだろうか。

☆この曲を聴け!……「ANIMA」(TVアニメ『ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld』最終章 OPテーマ)

前述の『SAO GGO』の他にも、シリーズ10周年テーマソング「Till the End」や『ソードアート・オンライン アリシゼーション』EDテーマ「forget-me-not」などを歌唱し、活動のなかで本作と密接に関わってきた彼女が、満を持してTVシリーズのOPを担当。楽曲の主題はズバリ楽曲タイトルに掲げられた"ANIMA"、すなわち"魂"だ。

その中でも特に肝にあたるのが、冒頭から幾度となく歌われるフレーズ「魂の色は 何色ですか」。アリシゼーション編に入ってさらに作中で重みを増した”命”や”魂”といった存在から逃げずに主題として掲げつつ、その色を問うという形を取ることで、物語やキャラクターそれぞれの立ち位置や想いを想起させてくれる。加えてこの曲を一つの楽曲として聴いたときには、このフレーズはひとりの人間への問いかけへと変化する、大事なポイントである。

その問いかけから、胸ぐら掴んで揺さぶってくるような強引さを感じないのは、ReoNaの歌唱アプローチあればこそ。面取りをされたような丸みはそのままでありながらも、彼女の歌声は激しいナンバーのなかにおいても決してぼやけることはない。リスナーへと大切なメッセージを伝える役割を、しっかりと果たしてくれているのだ。

徹底的に作品やキャラクターと結びついたアニソンでありながら、リスナーの心にメッセージを届け寄り添うというReoNaらしい1曲にも仕上がったこの曲。きっと生では、音源以上にその場のオーディエンスに伝わる形で歌声を届けてくれることだろう。その機会が1日も早く実現することを、心から願うばかりだ。

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パワフルさと丸み――声質から受ける印象は本当に全く異なるふたりだが、いずれもベースにあるそのイメージのみに安穏とせず、様々な楽曲に取り組み歌声を磨くことで、自身の表現可能な世界を広げ続けている。彼女たちが2020年代以降もさらなる成長を続け、アニソンシーンを引っ張り続けてくれることに、大いに期待したい。

さて、次回は伊藤美来、内田雄馬、鈴木みのり(五十音順・敬称略)をピックアップ。歌声はもちろんのこと、ステージ上でのパフォーマンスやアーティストとしての魅せ方などに”スター性”さえ感じる声優アーティスト3人のイチオシナンバーをご紹介していく。どうぞ、お楽しみに!

●著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける
Twitter:@sunaken

記事内イラスト担当:jimao
まいにち勉強中。イラストのお仕事随時募集しております。Twitter→@jimaojisan12