11回目となる今回は、井口裕香、東山奈央、TrySail(以上五十音順・敬称略)をご紹介。DAY2出場を予定していた声優アーティスト3組の必聴曲と、それぞれの楽曲の深堀りを通じて彼女たちの表現の魅力についてもチェックし、今回もともに”予習”していきたい。

【井口裕香】主人公・ベルの成長とともに変化する『ダンまち』主題歌での、優しさと芯

2013年に、自身がインデックス役を務める『とある魔術の禁書目録』の劇場版のイメージソングに起用された「Shining Star-☆-LOVE Letter」で、アーティストとしてもソロデビューを果たした声優・井口裕香。その後も『とある』シリーズをはじめ様々なアニメ作品の主題歌を担当し、今月リリースされたばかりの4年ぶりのフルアルバムとなる3rdアルバム『clearly』にも、早くも10月放送開始予定の『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅢ』OPテーマ「over and over」を収録している。

アニサマへの出場も、フルアルバム同様4年ぶり(ソロとしては3回目)。自身のワンマンライブやツアーといった経験を経ての久々の大舞台に期待していたアニソンファンも、間違いなく多かったはずだ。

☆この曲を聴け!……「over and over」(TVアニメ『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうかⅢ』)

1曲だけ選ぶならばこの曲だが、可能であれば4年ぶりの「アニサマ」であり『ダンまちⅢ』の放送開始も目前ということで、これまでの道のり――すなわち1期OP「Hey World」と2期OP「HELLO to DREAM」も改めておさらいしたうえで「over and over」を掘り下げたい。なぜならいずれも主人公・ベルのその時々の心情に寄り添う楽曲であるため、彼の成長とともに楽曲の色合いが徐々に変化してきているからだ。

未知の世界に対しての、満ちあふれるワクワクが主軸となっていたのが「Hey World」。続く「HELLO to DREAM」は、仲間を得てともに夢へと向かって歩み始めた姿を連想できるものとなっていた。その一方で「over and over」は、これら2曲と違い終始マイナーコードの楽曲。そしてそこには、明確に第3期のテーマとも結びついているであろう"強くなる"という確固たる意志が盛り込まれている。そう、コード感の違いに加えて歌詞が与える印象も真逆。

ぼんやりとしていた夢や目標が、一気に具体的な像となって楽曲に反映されており、その点からも物語の進行やベルの成長を感じることができるのである。

そうしたなかにある井口の歌声には、楽曲に沿ってベルの心情を代弁するかのような芯も持ちつつ、そっと見守るような観点からの優しさも備わっている。そこから本当にごくごく僅かにだが、ベルが眷属となった女神・ヘスティアの姿もチラつくのは筆者だけだろうか。そんなただ力強いだけではない歌声だからこそ、井口の歌声はどのシーズンにおいてもピタリとハマってくるのだろう。

この曲が『ダンまちⅢ』の物語と結びついて、オンエアとともにどう受け入れられ広がっていくのか――アニサマのみならずこの秋の"予習"としても、押さえておきたい1曲だ。

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【東山奈央】聴き手の心にスッと染み込む、素直で豊かな歌声

今年声優デビュー10周年を迎える、東山奈央。年々表現の幅を広げながら個性豊かなキャラクターを途切れることなく演じ続けた彼女は、これまでキャラクターとして約250曲ものキャラソンも歌唱。今月にはその中から25曲をセレクトしたキャラソンベスト『Special Thanks!』もリリースした。

一方、ソロのシンガーとしては2017年にデビュー。2018年2月には日本武道館でのワンマンライブも成功させると、2019年には全国ツアーも開催。2年ぶりの出場を決めていた今年のアニサマはこれらの経験をもって、声優活動10周年という記念すべき年に、シンガーとしてもさらにひとまわり大きくなった姿を見せてくれる舞台となるはずだったのだ。

☆この曲を聴け!……「歩いていこう!」(TVアニメ『恋する小惑星』OPテーマ)

今年2月にリリースされた最新曲は、彼女の声質とも相性良好なミドルポップということも相まって、もっとも肩の力がほどよく抜けた素直で自然な歌声を堪能できる楽曲。そのうえで、押し付けがましくならないような絶妙な塩梅でOPらしいワクワク感を付加していたり、息遣い一つひとつに優しさや温かさを込めたりと、10年以上にわたって磨き続けてきた声の表現力を活かして繊細に楽曲世界を作り上げている。

数々歌唱してきたアグレッシブなナンバーとは違った、こうした”引き算”の表現にもぜひ注目してもらいたく、今回この曲をチョイスさせていただいた。

また、楽曲自体アニソンとしても非常に良作。何よりまず、冒頭の掴みが素晴らしい。イントロのグロッケンできらめく星を、頭サビの「うつむいた先にも見上げている先にも」のフレーズで地面と空の両方を連想させることで、ものの数秒で作品の舞台となる"地学部"を描き出す。そのうえで全体をみてもしっかり『恋する小惑星』の世界観が表現されているため、作品から感じられるメッセージがより伝わるものとなっているのだ。

加えて温かな東山の歌声はそのメッセージをリスナーの心へと染み込ませてくれる役割を果たしているし、同時にキャラクターたちを俯瞰しながらそっと想いを寄り添わせているようでもある。

何かひとつの要素だけが極端に突出しているわけではなく、主題歌であることを大事に楽曲・サウンド・言葉といった一つひとつの要素が調和したことで生まれた、総合力の非常に高い名アニソン。遠出がなかなか難しいかもしれない今年の夏、この曲を聴きながら夜空を見上げてみてはいかがだろうか?

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【TrySail】TVシリーズ1期と2期の合間の今だからこそ聴きたい・観たい『マギレコ』曲

麻倉もも、雨宮天、夏川椎菜の声優3人によるトライアングルガールズユニット・TrySail。ユニットとしては2015年にデビューを果たし、今年は記念すべき5周年イヤー。「アニサマ」にもデビュー年から途切れることなく出場を果たし、6回目の出場を決めていた。

ユニットとしての活動に加え、3人がそれぞれソロのアーティストとしても活動。それぞれが異なる方向へと進化を続けることで、ユニットとして集結した際には楽曲ごとのカラーをよりビビッドに表現する存在となり、パワーアップし続ける姿を見せ続けている。もし今年「アニサマ」が開催されていたら、2019年のステージをどんなアプローチで更新してくれていたのだろうか。

☆この曲を聴け!……「ごまかし」(TVアニメ『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』OPテーマ)

サウンド感的には、『マギレコ』の源流にあたる『魔法少女まどか☆マギカ』のOP「コネクト」を正当に踏襲。作家陣も同一の面々が起用されており、"TrySailのシングル表題曲"と考えると珍しい部類にあたるものなのではないだろうか。シリアスさもありつつ力強くはなりすぎず、シンセストリングスの音色に起因するのか、サウンドからはどこか涼やかささえも感じられる。

そのなかにおいて、今回もメンバーそれぞれが歌・パフォーマンスの両面で輝きを放っているのだが、特にこの曲でポイントになってくるのは麻倉もものソロの歌声ではないだろうか。彼女の歌声には、何年経っても変わらぬあどけなさがある。

それは技術的には様々なものを身につけ、ユニット・ソロともに楽曲のテーマ性をしっかり反映しているなかでも変わらず存在する、天性のものである。それがサウンド的には涼やかで、歌詞には心中に抱えた葛藤のようなものも織り込まれた楽曲の中にぽつんと、しかしながら確固たるものとして存在すると、それがたまらなく印象深いものとして効いてくるのだ。

しかもそれが『マギレコ』のOPである――という点も含めて、そのリスナーの心に静かに、それでいて確かに強い印象を刻み込んでくる。だからこそ強く思う。ぜひアニメ第1期の放送が終わった今のタイミングで、それを生のパフォーマンスとともに体感したかった。

そしてもし制作中の第2期でも彼女たちが引き続き主題歌を担当するのであれば、もう一段深い、3人と『マギレコ』の組み合わせでしか生まれ得ない曲が誕生するはず。来年の夏にはこの2曲合わせて、大舞台での堂々たる披露に心から期待したい。

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楽曲や主題歌に起用された作品へと歌声でアプローチし、引き立て合う表現を実現してきた声優アーティスト3組。それは、今回ご紹介しなかった楽曲でも同様である。そしてそれが生ライブに寄って披露されることで、オーディエンスの反応とかけ合わさってさらなるミラクルも数々誕生してきた。2021年の夏こそはそのミラクルを、ぜひ体感したいものだ。

さて、次回は亜咲花、angela、オーイシマサヨシ (五十音順・敬称略)をピックアップ。DAY2出演のこの3組は、トリやテーマ曲制作の担当などを通じて”アニサマ魂”を受け継いできたアーティストたち。そんな彼らの楽曲のなかで、ぜひいま聴いてほしい曲をご紹介していきたい。どうぞ、お楽しみに!

●著者プロフィール
須永兼次(すながけんじ)。群馬県出身。中学生の頃からアニメソングにハマり、会社員として働く傍らアニソンレビューブログを開設。2013年フリーライターとして独立し、主に声優アーティストやアニソンシンガー関係のインタビューやレポート記事を手がける
Twitter:@sunaken

記事内イラスト担当:jimao
まいにち勉強中。イラストのお仕事随時募集しております。Twitter→@jimaojisan12