PCゲームプラットフォーム「Steam」――。

電脳世界の奥深く。そこは“無限”が眠る場所。

今宵もゲームに魅せられた冒険者を、出口のない迷宮へと誘い込む。

この連載では、そんな「Steam」という名の魔境にある、無料インディーズゲームをご紹介。隠れた名作や、いままで知らなかった傑作タイトルなど、思わぬ秘宝が見つかるかもしれません。少しでも興味が湧いたら、まだ見ぬ秘宝を目当てに、トレジャーハンティングしてみては?

際限なく積み上がる荷物と怪しい挙動

Steamを検索すると見つかる無料ゲームタイトルは、アプリ内課金への誘導があるものから完全に無料で遊べるものまでさまざま。内容も、独創的であったり、実験的であったり千差万別です。ときに、思わぬ掘り出しものを見つけられることも醍醐味でしょう。

今回紹介する『Walking Simulator 2020』は、第三次世界大戦によって文明が崩壊した世界で、主人公が「人類最後の配達人」として人々に荷物を届けるミッションクリア型の完全無料アクションゲーム。どこかで聞いたような設定に、どこかで見たようなビジュアルで“出落ち感”が否めない同作ですが、実際は印象のよく似た別タイトルとは、似ても似つかぬ内容でした。

  • Walking Simulator

    どこかで見たようなゲーム画面

基本的な流れは、ゲームの開始直後に表示されるミッションに従って対象の荷物を拾い、指定されたポイントへの移動を繰り返すというもの。移動手段は基本的に徒歩ですが、移動時間を短縮できる乗り物もあります。

荷物を所定の場所まで届けると、親指をサムズアップさせたアイコンの「Like」値が増加。Likeは実質的に通貨の役割を果たしており、一部の乗り物や、移動速度を向上させるエナジードリンクの購入に使えます。

マップによって登場しないものもありますが、同作の主な乗り物は、スノーモービル、ジェットパック、四輪トラック、三輪バイクの4種類。乗り物が登場する時点で『Walking Simulator』というタイトルの主旨から外れてしまっている気もしますが、ミッションではかなり長距離を移動するので、この際細かいことは気にしてはいけません。なお、前述のエナジードリンクを飲むと、非常に短時間ではありますが、どの乗り物よりも速く走れるようになります。

  • Walking Simulator

    荷物を受け取って、所定の場所まで運ぶという、どこかで見たミッションスタイル

  • Walking Simulator

    QUESTをこなすと通貨にあたる「Like」の値が増加して、次のミッションが表示される

もしかすると、この段階で気づいた人もいるかもしれませんが、実は、同作は本質的に「バカゲー」。エナジードリンクもそうですが、それだけでなく、配達する荷物は重量の概念や所持可能量の制限がないので際限なく積み上げられますし、ジェットパックを装着して荷物を背負ったたままトラックの運転席に座ることもできます。また、体力値が設定されていないため、フィールド上に配置されている敵キャラに殴られても倒れることはありません。ただし、その一方でなぜか能動的に倒れ込むキーバインドが用意されています。そして、すべてのNPCにはセリフなどが用意されておらず、せっかく遠路はるばる移動して納品してもガン無視……。

このようなトンチキは、無料ゲームなりのクオリティといってしまえばその通りですが、そうした「雑さ」にツッコミどころを見いだせるプレイヤーであれば、逆に楽しめる要素と捉えられなくもありません。実は筆者自身、キャラクターや乗り物の怪しい挙動に「そうはならんだろ」と言いながら、そこそこ楽しめてしまいました。

  • Walking Simulator

    走るよりは速いスノーモービル

  • Walking Simulator

    空中を跳ねるように移動できるジェットパック。装着したまま荷物を背負うこともできる

  • Walking Simulator

    四輪トラック。雪原のマップは南極大陸の設定のはずだが、どう見ても普通の平ボディトラック

  • Walking Simulator

    トラックには、ジェットパックと荷物を背負ったまま乗り込める。たまに走行中でもドアが開きっぱなしになる

  • Walking Simulator

    NPCも存在するが、存在するだけで話しかけることはできない

洗練されてない「味」を楽しむ

ゲーム開始時に選べるマップについても言及しておきましょう。記事執筆時点では「ANTARCTICA」「ALASKA」「ASTORE」の3つが用意されており、それぞれのマップで異なるミッションが遊べます。とはいっても、それぞれのマップに用意されているミッション数は少なく、しかも各マップのミッションを最後までクリアすると自動的に最初のミッションがループして始まるため、事実上このゲームに明確なクリアは存在しません。プレイヤーがクリアだと思ったらクリアです。

一応、Steamには同作について9つの実績が用意されているので、実績の全取得をゴールに設定する手はあります。地の果てまで走り抜けたり、敵キャラクターをスノーモービルでロードキルしたり、荷物をどこまで積み上げられるかを試したりすることに飽きたら、実績の取得を狙ってみてもいいでしょう。それもいくつかの隠し要素を探すくらいで、難しいものではありません。

  • Walking Simulator

    マップ選択画面

  • Walking Simulator

    拠点にある自販機では、Likeを消費して高速で移動できるエナジードリンクを購入できる

  • Walking Simulator

    敵キャラクター。攻撃を受けても倒れることはないが持っている荷物をすべて落としてしまう

  • Walking Simulator

    なぜか自発的に倒れ込むショートカットキーが用意されている

体力や重量といった概念がなく、ゲームらしいパラメータは移動速度と通貨の「Like」のみ。進行度を保存するセーブ機能も非搭載で、どことなくキャラクターや乗り物の挙動も怪しい同作は、シンプルゆえのとっつきやすさはあるものの、コンテンツ量の少なさから、長時間のプレイは難しいでしょう。

身も蓋もない書きかたをしてしまえば、無料ゲームにありがちな、洗練されていない、怪しい挙動を楽しむゲーム。おもしろいかどうかは別として、それこそ『Walking Simulator』の名前通り、広大なマップを意味もなくうろうろすることはできます。要はそういった垢抜けなさに「味」を見いだせるかが、同作を楽しめるかどうかの分岐点でしょう。

Steamの無料で遊べるゲームのなかには、デベロッパーの技術デモや体験版、ジョークソフト、あるいは習作とも呼ぶべきタイトルが多く存在します。同作はリリース当初、人気の超大作に便乗した(明らかにそう見える)出落ち感の強いビジュアルで話題になりました。どちらかといえばジョークソフトの部類に入ると思いますが、それでもゲームとしては最低限遊べる形でリリースされ、のちにいくつかのアップデートも提供されています。

ミッション内容やマップの広さを考えると、まともに遊べるのは雪原の「ANTARCTICA」と森林地帯の「ALASKA」だけですが、茫漠とした自然風景と点在する構造物は、アンビエントなBGMとあいまってなかなかいい雰囲気。ガッツリ遊ぶには物足りませんが、ちょっとした暇つぶしには堪えるタイトルです。

  • Walking Simulator

    森林・丘陵地帯の「ALASKA」。なにげに植生が豊かで景色もきれい

  • Walking Simulator

    ロボット犬に「AIコア」を届けるミッション。背負っているのがAIコアらしいのだが、ペットフードにしか見えない

  • Walking Simulator

    3つあるマップのうち、「ASTORE」はオマケ的な位置付け

  • Walking Simulator

    バックヤードに入ると防護服姿の人物がコフィンダンスを踊っている