――夕焼けに染まるすすき、舞い上がるイチョウの葉、一面に咲き乱れる彼岸花。およそ1年ぶりに足を踏み入れた対馬には、相変わらずみごとな勝景が広がっていた。
だが、そんな美しい景色の裏で、不穏な影が忍び寄る。ある集落で異変が起きているというのだ。
風(馬の名前)を走らせて噂の地点へたどり着くと、そこにあったのは狂気にとらわれた民の姿。蒙古の仕業か……。外道め。
辺りを調査した結果、どうやら壱岐に新手の蒙古が侵攻しており、間もなく対馬にやってくることがわかった。美しい対馬を蒙古に汚されるわけにはいかぬ。こちらから攻め入って、刀の錆にしてくれよう――。
『Ghost of Tsushima』は、日本の原風景を描く映像美と、時代劇のような剣戟アクションが魅力のオープンワールドゲーム。演出や色使い、BGM、効果音など、あらゆる要素が和の情緒をみごとに表現していて、サブクエストが始まるタイトルカットイン1つ見るだけでも感嘆の息がもれる。
物語の舞台は元寇の対馬。主人公の境井仁は、冥府から蘇った「冥人(くろうど)」という異名で、島を占領した蒙古兵に立ち向かう。
2021年8月20日には、さまざまな要素の加わったPlayStation 5(PS5) / PlayStation 4(PS4)用ソフトウェア『Ghost of Tsushima Director’s Cut』が発売された。新たな追加ストーリーとして「壹岐之譚」を収録。ある蒙古の一族が壱岐に侵攻したと聞いた仁は、蒙古の支配から壱岐を救うべく、対馬を離れ、彼の地へ向かう。
すでにPS4用『Ghost of Tsushima』を持っている場合、2,200円でPS4用『Ghost of Tsushima Director’s Cut』へアップグレードできる。PS5を持っていれば、1,100円でPS4用『Ghost of Tsushima Director’s Cut』から、PS5用『Ghost of Tsushima Director’s Cut』へアップグレード可能だ。筆者は2020年にPS4用『Ghost of Tsushima』をプレイ済みなので、今回、PS5版へアップグレードして、追加ストーリー「壹岐之譚」を始めた。
新たな敵の呪師と、複数武器を使う蒙古兵が手強い
『Ghost of Tsushima』のゲーム本編は、襲来したコトゥン・ハーン率いるモンゴル帝国軍から対馬を奪い返す物語。一方「壹岐之譚」では、対馬から少し離れた壱岐を舞台にストーリーが展開する。敵は“オオタカ”と呼ばれるアンクサー・ハトゥン率いる蒙古の一族だ。
壱岐に足を踏み入れると、対馬にいる蒙古兵とはタイプの異なる「呪師(シャーマン)」が立ちふさがる。呪師は経を唱えることで仲間の士気を高める能力を持ち、後方から蒙古兵を強化してくるのでかなりやっかいだ。放っておくと、斬っても斬っても倒れないタフな蒙古兵たちに囲まれて、苦戦を強いられるだろう。
そのうえ、前衛で攻めてくる蒙古兵も手強い。仁は、剣兵と相性のいい「石の型」、盾兵と相性のいい「水の型」、槍兵と相性のいい「風の型」、剛兵と相性のいい「月の型」など、敵の武器タイプに合わせて複数の型を使い分けて戦うが、壱岐には1人で複数の武器を切り替えて攻めてくる蒙古兵が多く、素早く型を変えるか、同じ型で押し通すテクニックが必要になってくる。壱岐の奪還は一筋縄ではいかない。
だが、実際にプレイしてみると、対馬にいる蒙古兵に物足りなさを覚えていたこともあり、むしろ“ちょうどいい手強さ”だと感じた。本編をすべてクリアしている冥人でも、新鮮な気持ちで楽しめるのではないだろうか。
強くなったのは敵だけではない。仁には旅を共にする愛馬がいるのだが、壱岐へ渡り、特定のイベントをクリアすると、俺の愛馬がずきゅんどきゅん走り出すようになる。馬に乗っている間、L1ボタンを長押しして、ばきゅんぶきゅん駆けていくと、突進攻撃「馬力」を使えるようになるのだ。
馬力攻撃は、L1ボタンを押している間継続し、ぶつかった敵に大ダメージを与える。徐々に仁の気力を消費していくので、使いすぎるとのちの戦闘を少ない気力で戦うことになるが、馬での移動中に突然敵とエンカウントした場合など、蒙古兵の集団に初撃をぶちかます方法としてはかなり有効だと感じた。馬力は冥人の暗具や兵術と同様に強化可能だ。
なお、壱岐は、仁の父親がかつて支配下におこうと襲撃した島でもある。境井家の進軍で多くの島民が殺されたこともあり、壱岐の人々は侍をひどく憎んでいる。同時に、仁の父親が命を落とした地だ。壱岐を巡るなかで、「父の死」や「境井家の過去」と対峙することになる。「母との思い出」が語られることもあり、本編では明かされなかった仁の生い立ちが垣間見られるだろう。
猿に鹿に猫。いい冥人ってやつは動物に好かれちまうんだ
対馬には各地に「狐の巣」があり、狐が案内してくれる稲荷の祠で手を合わせると、さまざまな効果を得られる「護符」の装備枠が増えた。そのうえ、「狐をなでる」という癒やし要素もあったのだが、残念ながら壱岐には狐がいない。しかしその代わりに、猿と鹿と猫がいる。
壱岐の猿や鹿や猫は、もちろん言葉こそ通じないが、仁の奏でる笛のメロディによって心を通わせることができる。音階に合わせてコントローラーを傾け、うまく演奏できれば成功だ。
笛の音色に動物が心を開き、近寄ってきたら、お待ちかねのモフモフタイム。愛らしい猿や鹿や猫が、蒙古兵の返り血で汚れた冥人をやさしく癒してくれる。次の未踏の地では、どんな動物と出会えるのか、毎回ワクワクした気持ちになった。
さらに、演奏に成功すると、それぞれの動物の護符も手に入る。弓の強化や闇討ちの強化、受け流しの強化などさまざまな効果を持っているので、壱岐の動物と仲良くなって損はないだろう。
霊地と同様に、壱岐には弓の修練を行う場所も各地に存在する。弓の修練では、設置された複数の的をすべて射るまでのタイムを測定。規定の時間内で射つくせば、クリアタイムに応じて護符が手に入るのだが、これがなかなか難しい。ゆっくり狙いを定めてから射ると到底間に合わない時間に設定されている。
最も高い目標クリアタイムはだいたい7秒以下。6つから7つ程度の的を7秒ですべて射抜くには、1つあたり1秒前後で射抜かなければならない。弦を軽く引いてスピーディに射るなど、練習が必要だろう。何度か挑戦してみたが、20秒の壁を超えるだけでひと苦労だった。
また、剣技を磨く闘技場のような場所も用意されている。「刀競べ」と呼ばれるミニゲームでは、壱岐の島民と木刀を使って勝負。相手に打ち込めれば1ポイントで、先に5ポイント取ったほうが勝利だ。
なかにはカウンター攻撃を狙ってくる使い手もいて、そこらへんの蒙古兵よりも手強く感じた。
もちろん、対馬にあった「和歌」「稽古台」「秘湯」「伝承」「神社」なども要素もある。険しい断崖絶壁を登っていくアクションも楽しめるだろう。「文と書状 壱岐」「境井家の旗」といった新たな収集要素も加わった。対馬とはまた違った美しさがある壱岐を巡り、これらを探すのも楽しいものだ。
DualSense ワイヤレスコントローラーでさらに臨場感アップ
PS5といえば、「DualSense ワイヤレスコントローラー」(以下、DualSense)による臨場感あるゲーム体験だ。PS5版『Ghost of Tsushima Director's Cut』でも、さまざまなシーンをハプティックフィードバックの振動で伝えてくれる。地面によって変化する馬で駆けるときの“パカラパカラ”という振動や、鍔迫り合いの“ガイン”という振動など、冥人の人並外れたアクションを両手で感じることができた。
L2/R2ボタンの抵抗力を変化させるアダプティブトリガーは、弓を引く際のリアリティを高める。威力の異なる半弓と長弓ではトリガーの重さが微妙に変化するうえ、ハプティックフィードバックの振動でも違いを再現。しかも、弦を最大限引いた状態でいると、細かくR2ボタンが振動し、キリキリと張りつめている様子を指で感じられた。
鉤縄を障害物に引っ掛けるアクションでは、R2ボタンで鉤縄を引っ掛けたあと、L2/R2ボタンが重くなる。グッと力を入れて2つのボタンを押し続ける必要があり、仁が力を入れて縄を引いているゲーム内の体験を味わえた気がした。
「PlayStation Plus」加入者であれば、コントロールセンターから攻略のヒントを教えてもらえる。どんなヒントがあるのか見てみると、蒙古の拠点を攻める際、敵に見つかりにくいような闇討ちの順序を動画で教えてくれたり、迷いやすそうな場所で道を示したりしてくれた。
また、意外とうれしかった機能は「ドリフト現象の補正」。ドリフト現象とは、コントローラーのスティックに触っていなにもかかわらず、操作が行われてしまう不具合のことだ。
残念ながら筆者のDualSenseもドリフト現象が確認されており、細かいスティック操作が求められるシーンではかなり困る。『Ghost of Tsushima』では、左スティックに触れていない状態でも仁が勝手に少しずつ移動してしまった。
だが、この「ドリフト現象の補正」をオン(有)にすると、常時左へ微動していた仁がピタリと停止。意のままに動かせるようになった。
そのほか、もちろん映像美にも磨きがかかる。4K解像度や60fpsにも対応しており、ディスプレイの環境が整えば、より美しい対馬が眼前に広がるだろう。
和が織りなす雅さと粋な演出でプレイヤーの心をつかんだ『Ghost of Tsushima』。『Director’s Cut』ではさらにパワーアップした演出で仁の新たな旅路が描かれる。さてもさても、素晴らしきゲームであることか。未プレイの人はぜひ一度体験してほしい。
(C)2021 Sony Interactive Entertainment LLC. Ghost of Tsushima is a registered trademark or trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.
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