連載『中東とエネルギー』では、日本エネルギー経済研究所 中東研究センターの研究員の方々が、日本がエネルギーの多くを依存している中東イスラム地域について、読者の方々にぜひ知っていただきたい同地域の基礎知識について解説します。
OPECの創設と石油ショック、カルテル化するOPEC
現在、オーストリアの首都ウィーンに本部を置く石油輸出国機構(OPEC)は1960年9月、イラクの首都バグダードで産油国5カ国が出席して設立された。出席したのは、イラク、イラン、クウェート、サウジアラビア及びベネズエラで、参加国の定期的協議を目的とした恒久的機関として、OPECの設立を決議した。2015年5月現在、加盟国は12カ国に増えている。
石油ショックが起きたのは1973年、今から40年以上前のできごとだ。同年10月、イスラエル軍とエジプト、シリア軍が武力衝突を起こし、これにより第四次中東戦争が起きた。OPECの中東6カ国は原油価格を2度にわたり引上げた結果、原油価格は10月以前と比べて約4倍に上昇した。その結果、石油製品価格が高騰し、消費国では石油の供給不足への懸念から消費者によるパニック買いを誘い、社会的な混乱が起きた。石油と紙とは無関係と思われるが、日本では、なぜか消費者がトイレットペーパーを買いだめしたことにより店頭から商品が消え、大混乱が生じる事態となった。
ここに至ってOPECは国際石油資本に代わって、完全に原油価格の主導権を握った。OPECは石油カルテルと呼ばれるようになった。そして、OPECのなかで主導的役割を果たしたのが世界最大の産油国サウジアラビアであった。
OPECの変遷、シェールオイルの登場
こうした状況は1980年代に入って一変する。消費国が石油備蓄を増やし、代替燃料への転換を進め、北海油田やアラスカなどで非OPEC産油国の生産が拡大した。OPECの生産シェアは1974年には50%を超えていたが、85年には28%まで低下した。原油価格は1985年から86年にかけて暴落し、OPECは価格支配力を大幅に衰退させ、影響力は減退した。
その後、OPECは協調減産を通じて需給の引き締めに努めた。2000年代に入って、中国など新興国の石油需要が拡大するなか、原油価格は2004年頃から上昇し始め、OPECは再び影響力を取戻した。2008年9月にはリーマンショックが起き、原油価格は一時1バレル30ドル台にまで低下したが、OPECが大幅な減産を行い、価格は徐々に戻した。原油価格は、2011年から3年間は平均100ドルを超える水準で推移し、産油国は石油輸出収入で潤い、オイルマネーを積み上げた。
米国で生産が開始されたシェールオイルは、水平掘りと水圧破砕の二つの技術革新により、2008年頃から生産性が向上し、生産コストが低下した。生産量は過去4年間で日量300万バレル以上の増加をみた。その結果、世界の原油市場は、需要の伸びの鈍化もあって大幅な供給超過の状態に陥り、2014年9月以降、油価は急落し、いわゆる逆オイルショックといわれる現象が生じた。
OPECのプレゼンスは低下するも、依然として影響力を保持
昨年11月27日のOPEC総会ほど近年注目を集めた会議はないだろう。原油供給の超過による油価急落のなかで開催され、OPECが減産を決定するかどうか、注目が集まった。OPECを主導するサウジアラビアのナイミ石油相はこの総会にあって、減産を見送り、現状の生産枠の維持を選択した。サウジは需給の調整役、いわゆるスウィング・プロデューサーを担ってきたが、その役割を放棄するかたちとなった。その結果、原油価格は一段と低下した。減産を見送ったサウジの思惑についてさまざまな憶測が飛び交った。特に、生産コストの高いシェールオイルを標的としたとの指摘が多かった。
サウジアラビアを始めとするOPECがスイングプロデューサーとしての役割を放棄したため、代わりに調整役として注目を集めているのが、米国のシェールオイルである。シェールオイルはコストが生産井ごとに大きく異なっていることから、原油価格の変動に合わせて生産が変動する。価格が下がれば、生産量は減り、価格が上昇すれば生産が増加する。
しかしながら、世界の原油市場において、OPECの生産シェアは依然42%に及ぶ。OPECは完全に世界の需給調整役を放棄したわけではなく、サウジのナイミ石油相によれば、非OPECの協力が得られれば、減産に踏み切る可能性がある。シェールオイルの登場でプレゼンスは低下したものの、依然として、OPECは世界の原油市場において影響力を保持しているといえよう。
<著者プロフィール>
永田 安彦(ながた やすひこ)
日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長兼研究主幹。石油会社勤務等を経て現職。専門はGCC諸国のエネルギーと経済の調査研究。特に、サウジアラビアとUAEに焦点を当てている。また、国際原油市場についても、長年調査研究に従事しており、OPECやサウジアラビアの石油政策の動向等と合せて、テレビ等のメディアで解説の機会を得ている。著書に、『米国投資銀行の事業概要と石油先物市場での戦略』(共著、日本エネルギー経済研究所)等がある。