ワークライフバランスの制度が注目されるスウェーデン。前回に続き、実際に子育て中のカップルがどのようにその制度を利用しているのか、どんな日常を過ごしているのかをお伝えしたいと思います。

登場するのは、スウェーデン大使館経で経済・貿易を担当する一等書記官のグスタフ・ヴィーンストランドさん(37歳)とフィアンセのサーラ・ファルホディさん(34歳)、生まれたばかりの娘リーヴちゃんです。

  • グスタフ・ヴィーンストランドさん(奥)、サーラ・ファルホディさん(左)、娘のリーヴちゃん

スウェーデンの保育所事情

リーヴちゃんは間もなく日本の保育所に通い始めます。これがスウェーデンでは、どうであったか尋ねてみると、同国では子どもが1歳になるとプリスクールに通わせる権利があります。

最低3つのプリスクールに申し込み決まるのですが、「近くの原則」というのがあり、たとえ自宅から一番近くのところでなくても、なるべく近い所を選んでもらえます。

プリスクールは学校と同じでコミューン(地方自治体)の負担となり、費用はコミューンごとによって違います。また両親の所得に応じて変わりますが、二人の合計の所得が多ければ利用費用は高くなりますが上限も設けられています。

例えば、ウプサラ市在住で、二人の合計所得が2万クローナ(約25万)であれば、第一子については所得の3%にあたる600クローナ(約7,500円)となります。

育児の負担は二人で補う

サーラさんに育休中で一番楽しかったことを尋ねると、次のように本音を語ってくれました。

サーラさん「とある週末、親友たちと大人だけでボートで諸島群に出かけました。子どもと二人だけで週末を過ごせるか、不安がなかったといえばウソになりますが、私たち家族にとってとても良い経験でした。私も逆に、グスタフが朝ジョギングをしたり、ゆっくり新聞を読んだりできるように、出勤するまで娘の世話をすることが何度もありました。同じように、彼も時間の融通がきく時、私が一人の時間を過ごせるよう気を遣ってくれます」。

二人の間では、分担できることは基本、交代制度をとるようにしているそうです。どちらが子どもを寝かして食事を与えるのか。どちらが食事を作り、車を運転するのか、などだと言います。

当然ながらフレキシブルに判断し、相手が疲れている時は2晩続けて子どもを寝かしつけるなど。重要なのは、そういった負担の軽減をお互いにお願いできること、と秘訣を語ってくれました。

グスタフさんにとって大変だったことは、女性たちとは違って男性の年配の人たちからアドバイスをもらうことでした。

そこで自ら、ファーデルシェッペット「空父」という名前のフェイスブックグループを立ち上げ、父親になったばかりの男性が交流できる場を設けました。約20人が参加し、ねかしつけの方法や、食べ物は何をあたえるべきか、どうやって慰めるのかなど夕食会を通じて話しあったそうです。

育休は義務ではなく権利

グスタフさん「子どもが親を知るのも権利ですし、子どもと一緒にいられるのは父親の権利です。私自身がそうであったように、話せたり、歩けたりする前に父親から世話をしてもらったことを娘は覚えていないでしょうが、それでも親子の絆は深まると思います。彼女の人生においてとても大切な時期に一緒にいられたことはとても貴重なことで、育休は"義務"ではなく、"権利"だと思うのです」。

なお、グスタフさんは1983年にウプサラ生まれました。当時、父親が育休を取得するのはまだ珍しいことではありましたが、育休制度が導入されたので、彼の父親は6ケ月取得しました。

父親が上司に育児休暇を取りたいと申し出たとき、「取るのですか」ではなく「いつ取るのですか」と聞いてきたそうです。当時すでに男性が育休をとるのは歓迎されていることであり、奨励されていたことが伺えます。

そして、自分にとって、人生で最も大切なものは何かと尋ねると、「精一杯生きること。間違えたり、やらなかったりすることをおそれないこと。それぞれの瞬間を大切にすること。人生を楽しむ。人間関係を大切にすること。死ぬ直前は働く時間が足りなかったと後悔はしないが、近しい人との関係、時間を大切にしなかったらとても後悔すると思います」とグスタフさんは話します。

またサーラさんは、「人生で最も大切なのは、自分自身の心の声、自分が何を求めているのかに耳をすますことだと思います。もしあなたの気分がよくなかったり、前向きにいられないことがあったり、家族との生活や仕事、友たちと一緒の時間を楽しむことができなければ、それは価値あるものではないのです。人生がうまくいかないと感じたら、一番大切なのは助けを求めることなのです」と教えてくれました。

二人を取材して思ったことは、それぞれが父親、母親である前に一人の個人として、自分自身を築き、そしてその上に「家族」という新しい形態が成り立っている、ということでした。

お互いを尊重し、常に相手への配慮を忘れないことが、ワークライフバランスの根底にあると。今回の記事がみなさまのワークライフバランスについて考えるきっかけとなりましたら幸いです。