アメリカでの初の心臓移植が行われたのが42年前、1967年の12月。それ以来、移植の手順と言えば:

  1. ドナー(多くの場合、脳死患者)から心臓を摘出
  2. 氷詰めにし、専用のクーラーボックスに入れる
  3. 医師付き添いで、チャーター(プライベート)ジェットで空輸
  4. 氷で冷えた状態の「心臓」を体温程度まで復元
  5. 患者に移植

といった流れで行われ続けてきています。そして輸送の間「移植用の心臓」は氷詰めで仮死状態、勿論鼓動はストップしたまま。この状態で、移植され心臓に鼓動が戻るまでの許される時間は、せいぜい6時間。最大でも8時間が上限だそうです。

それにこの時間には輸送に要する時間以外にも、氷詰めになっている心臓の解凍時間(体温ぐらいまで戻す時間)も含まれ、解凍には氷詰めになっていたのと同等の時間が必要だとか。つまり摘出されてから移植される病院までの輸送時間が2時間だったら、解凍にも2時間、輸送時間が3時間だったら解凍も3時間かかるということ。そしてこの輸送と解凍に要する時間が一分一秒増すごとに、移植患者への移植後のリスクも増すと言われています。

つまり、従来の方法では理想的な提供者が現れても、遠くてはダメ。近隣の移植希望者を優先せざるを得ないのが現状です。

ところが、この度テスト的に行われた新しい移植方法では、輸送と解凍にかかる時間の制約が大幅に減少。今の段階ではだいたい24時間程度までならオッケー。より改善され確立されれば、時間の制約自体ゼロにもなり得るんだとか……。で、その画期的な新しい方法とは……:

摘出した心臓を氷詰めする代わりに、「暖かく保ち、ドナーの血液を使い、鼓動もそのまま保つ」というもの。"doctors can now keep a human hearat beating from the moment it's removed from a donor's body all the way until installation in its new recipient"とあるように、この方法ではドナーから摘出された直後から患者へ移植するまでの間、心臓はずーっと鼓動したまま。暖かいまま輸送可能なので解凍に要する時間も不要。

それに従来の方法では移植用の心臓が、移植に耐えうるものかどうかは患者の体内に入れてみるまで分からないというのが現実だったところ、この新しい方法では心臓の鼓動が保たれることから、患者の体内に移植する前に、その心臓が移植に耐えうるものかどうかまで体外でしっかりチェックが出来てしまうんだとか。つまり、"like a test drive outside of a body"「体外でのテストドライブ」とでもいうことが可能になるんだそうです。

この新方法はまだテスト段階。これからまだ色々多くのことを乗り越えていかなければならなく、移植手術の費用もその一つ。今アメリカで一般的な心臓移植手術にかかる費用は$787,000と言われており、それには施術費、輸送費とアイスボックス代などの諸経費全てが含まれます。ところがこの新方法では$35で手に入ると言われているアイスボックスの代わりに必要となる装置(心臓を暖かく保ち、鼓動も保つ)は何と$200,000もするんだとか。その上使い回しも不可なんだとか。

経費のことも含め、今後のさらなる改善に期待しつつも、この新しい技術が確立される暁には世界中のドナーから世界中の患者への臓器提供が可能になり、アメリカにいるドナーが日本にいる患者に臓器提供するなんて日もそう遠くないことなのかも……是非そう期待したいものです!!

今回のURLは2つ、 Experimental Heart Transplant Procedure Keeps Organ Beating from Donor to Recipient - ABC NewsWarm, beating hearts offer transplant hope - Health - Heart health - msnbc.com

興味がある方は是非チェックしてみてください。一つ目では体外で鼓動する心臓の動画を見ることが出来ます。

英語ワンポイント:

臓器の提供者のことは英語では"donor"、提供を受ける患者のことは"recipient"と言います。 また日本語では心臓の鼓動を表すとき「ドク、ドク」と言ったりしますが、これを英語では"Lub-dub. Lub-dub. Lub-dub(ラブ-ダブ)"と言い表します。

ではまた次回。