わたしがイラストやマンガの仕事をデジタル環境で行うようになって、かれこれ20年以上になります。当初はデジタルはまだ発展途上でみな手探りでしたが、今や、イラストもグラフィックデザインも、デジタル環境なくしては成り立たない時代になりました。また、iPadなどのタブレット端末や、Windows8の登場により、ペンや指による直接操作も一般的になってきています。

グラフィック制作に欠かせないペンタブレットもこの20年、どんどん性能が進化しました。わたしが最初に買ったモデル「UD II」は筆圧検知の精度が256段階だったのですが、最新型の「intuos Pro」では2048段階と、なんと8倍にもアップ。昔は「いかにもデジタル」な表現や、スキャンしたアナログイラストを加工するためのツールだったのが、今ではアナログ画材と見分けがつかないような表現も可能となりました。低価格な「Intuos(旧BAMBOO)」も充実し、プロだけでなく、学生やホビーユーザーもどんどん増えていきました。

アナログで絵を描くことと、デジタルで絵を描くことの大きな違いは、その「ノウハウ」が伝達しやすいことです。アナログでの描き方は、指南書を読むだけではなかなか自分で再現できないものですが、デジタルではアプリケーションの機能の使い方、セットの仕方など、だれでも自分で再現できる技法がたくさんあり、調べたり習得しやすいのです。

イラスト投稿サイトのpixivやコミケの盛況を見れば明らかなように、デジタル時代になってから、イラスト人口は爆発的に増えました。イラストやマンガを描いて楽しむことは、現代日本を代表するひとつの文化として定着しています。

そんなデジタルペイントの世界で、「あこがれのツール」と言えるのが「液晶ペンタブレット」です。Intuosのようなペンタブレットは、「画面」と「描く場所」が異なるので、慣れないうちはどうしても思うように描けないものなのですが、その点、液晶ペンタブレットは画面に直接、ペンで描ける。絵を描く人間が欲しがらないわけがありません。

ワコムの液晶ペンタブレットの歴史は古く、1990年には業務用の「HD-640A」(モノクロ)が発売されています。1996年に出たカラーの「PL-300」が最初の一般向け製品でしょうか。このモデルに搭載されていた10.4インチのカラー液晶は、800×600ドットということで、今のスマホ以下の表示しかできなかったものの、ペンの機能はちゃんと筆圧検知ができるものでした。

しかし、当時の液晶ペンタブレットはとても高価であることに加え、液晶の性能がまだまだ発展途上で画面が見にくかったり、今のものと比べると本体が大きかったり熱を持ったりと、画材としてはまだまだでした。

そんな液晶ペンタブレットも、液晶の性能がどんどんアップし、価格も下がってきました。昨年登場した「Cintiq 13HD」はその低価格と高スペックで、絵を描く人の間で大きな話題となり、わたしのまわりでも「購入した!」という声をよく聞くモデルです。

わたし自身も興味を持って見ていたのですが、実はこの前のモデルである「Cintiq 12WX」を持っているため、すぐに購入には至りませんでした。「Cintiq 12WX」は一時、よく使ったものの、色々と不満もあったため、今はあまり使わなくなっていたからです。「Cintiq 13HD」ははたして、使い物になるのか?

そんな時、マイナビニュースさんから「Cintiqの記事を書きませんか?」と声をかけていただき、この連載が始まることになりました。

改めてCintiqのことを調べてみると、現在、7つのモデルが販売されています。色々と機能が違うのですが、大きく分けて画面が24インチのもの、22インチのもの、13インチのものの3シリーズです。

液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」

そのすべてが1920×1080ピクセルのフルHD液晶を搭載しています。22インチ、24インチがこの画素数なのは標準的ですが、13インチでも同じだとは思っていませんでした。ワコムさん、見くびってました。

「Photoshop」や「ClipStudio Paint」などの高機能なデジタルペイントアプリはパネル類が多く、表示エリアが1280×800の12WXでは正直、手狭でした。横1920ピクセルあれば、どんなグラフィックアプリでも「狭い」感じはしないでしょう。

また、13HDのペンはIntuos Proと同じシステムで、筆圧感知2048段階。前モデルがIntuos3同等の1024段階だったので、こちらも期待できそうです。

考えてみれば前の12WXは2007年11月発売開始。6年ぶりのモデルチェンジということになります。2007年といえば、MacはLeopard、WindowsはVista、まだ日本でiPhoneは発売されていなかった、という時代。そりゃあCintiqのスペックも大きく変わっているはずです。

そうこうしているうちに、編集部からCintiq13HDが届きました!次回からこのCintiqを実際にセットアップ~使ってみてのレポートをお届けします。