前回までのあらすじ
超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。
家の近所にチーと二人でよく行く馴染みの居酒屋がある。本連載の古い読者の方は覚えているかもしれないが、僕らの出会いの舞台となった居酒屋Mのことだ。
先日、そんな居酒屋Mのマスターが言った。
「山ちゃんとチーちゃんの会話を聞いていると、いつもひやひやするんだよ」
狭い店のため、僕とチーが食事をしていると、否が応でも会話がマスターの耳に入ってしまう。そのたびにマスターは僕らが喧嘩をしていると思うらしいのだ。
言われてみれば確かにそうかもしれない。僕は今まであまり意識したことがなかったが、僕とチーの会話は例えばドリンクを決めるときもこんな感じだ。
僕「マスター、おらビール。チーは?」
チー「うーん、どうしようかなあ。カシスウーロンは?」
僕「知らんよ。チーが飲みたいならそれでええやん」
チー「じゃあ、シャンディガフは?」
僕「いや、だから知らんって。早く決めえや」
チー「うーん、やっぱカシスウーロンにする」
僕「うん、そうしな」
チー「……」
僕「えっ、注文しないの?」
チー「いや、だからカシスウーロンだって」
僕「だったら自分で言えよ! なんで俺に言うねん!」
チー「いいじゃん、別にそれぐらいっ」
僕「良くないっ。自分のドリンクぐらい自分で注文せい!」
チー「ちょっと、大きな声出さないで!」
僕「おまえが出させるようなこと言うからやん!」
チー「興奮して鼻毛が出てるでしょ。恥ずかしい!」
僕 「てめえ、鼻毛は関係ないやろ!!」
マスター「山ちゃん、喧嘩はダメだよ~」
このようにドリンクを決めるという些細なことから、瞬く間に僕の鼻毛問題にまで大きく発展。僕の怒りポイントはドリンク部分のみなのだが、いつのまにかチーは僕の鼻毛について怒り出したため、二人の論点は一向に噛み合わない。結局、僕が「ちゃんと鼻毛を切ります」と約束したことで、その場がおさまったわけだ。
また、こんなこともあった。以前、僕とチーの二人でボーリング場に行ったときのこと。深夜二時ごろまで遊んで、さあ帰ろうとなったのだが、そこでチーが「トイレに行きたい」と言い出した。
「いいよ、待ってるから」僕はそう言って、トイレの方向を指差した。
「ねえ、ついてきてよ」とチー。
「なんでやねん、トイレすぐそこやん」
「いや、もしかしたら途中で誰かに襲われるかもしれないし」
「そんなんないって。ここからでもトイレの入口見えるし」
僕がそう言った瞬間、チーの下唇が豪快にめくれた。「じゃあ、もういい」低い声でそう吐き捨て、そのままボーリング場の出入口に一人で歩を進める。
「え、なんで怒ってるの?」僕は目を白黒させながらチーを追いかけた。チーは何も返事をしてくれなかった。「なあ、そんなことぐらいで怒るなよっ」と僕。それでもチーは返事をせず、一人でどんどん歩いていく。
「おい、なんでシカトすんねん!」たまらず僕は声を荒らげた。
するとチーはようやく立ち止まり、
「ちょっと、大きい声出さないで!」と明らかに怒り出した。
「おまえが出させるようなこと言うからやん!」
「興奮して鼻毛が出てるでしょ。恥ずかしい!」
「てめえ、鼻毛は関係ないやろ!!」
その後、いつのまにか二人の間でトイレ問題は風化していき、喧嘩のポイントが鼻毛問題にずれていったのは言うまでもない。最終的には僕が「ちゃんと鼻毛を切るからさ~」とチーを宥めて、その場はなんとか丸くおさまったわけだ。
世の大火事のほとんどは最初から大火事だったわけではなく、事の発端は些細な火の粉だったりする。男女の喧嘩もこれと似たようなものなのかもしれない。
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