前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女との愛と喧嘩のウェディングロードです。

僕の彼女はチーという。僕が33歳であるからして、当然いいかげんな付き合いをするつもりはなく、いつかの結婚をなんとなく想像しながら日々を過ごしている。

けど、それはあくまで僕の頭の中だけのことだ。もしかしたら、チーは結婚なんてまだ考えたことすらないのかもしれない。生粋のA型女子で何事も神経質なチーだけに、大雑把でマイペースなB型男子との生活は苛立ちとストレスの連続で、そのうち愛想を尽かされてもおかしくないと、僕はどこかびびっている部分がある。

もちろん、心当たりはある。日頃の生活においても、チーは僕のやることなすことが何かと気になるらしく、いつも僕の動向を鋭くチェックしてくるのだが、そんな日々によって、僕は自分の不甲斐なさをこれでもかと痛感するわけだ。

例えば洗濯物。ありがたいことに、いつもチーは僕の衣類を洗濯してくれる。しかし、乾いた衣類をタンスにしまうのは僕の役目であり、僕はその都度チーの鋭い視線にびくびくしてしまう。そして、チーは僕が衣類をタンスにしまった後、必ずといっていいほどタンスの中をチェックする。綺麗にたためているか、整理整頓できているかが気になるらしく、その結果、チーがやり直すというのが毎度のパターンだ。

だったら、最初からチーがたたんでくれよ――。人間ができていない僕は一瞬そんなことを思うのだが、だからといってそれを口に出してはいけない。チーは昔ながらの典型的な亭主関白を嫌う女性だ。そんなチーに嫌われないためにも、そこは僕が成長する必要があるだろう。衣類ぐらい綺麗にたためるようにならなければ。

また、食器洗いもそうだ。夕食をチーに作ってもらったときは、そのお返しとしてなるべく僕が食器を洗うよう心掛けているのだが、そんなときもチーのチェックビームは容赦なく襲ってくる。50センチほど離れたところで僕の食器洗いを観察し、洗い終わるとすかさず食器をチェック。結果、チーは「油汚れが落ちてない」などと呟き、その後自分で洗い直してしまうのだ。

さらに僕がたまに料理を作っていると、チーはこれまた50センチほど離れたところから観察。当然、随所で「野菜の切り方が違う」「調味料の量が違う」などと口が出てくるわけで、たちまちチー先生による料理教室に変貌してしまう。

しかし、ここまではまだいい。すべて努力で改善できる点であり、僕もある程度は受け止めているのだが、これが肉体に関することになってくると話は変ってくる。

例えば臭いである。チーは僕が帰宅すると、即座に僕の足の匂いをチェックし、さらに靴の匂いもクンクンかいだかと思うと、毎度必ず「くさっ」と叫ぶのだ。

「早く足を洗いなさい! どうしてこんなにくさくなるの!?」

チーは殺傷能力の高い言葉をずばずば発してくる。肉体から自然発生する臭いに敏感な33歳男子のデリケートな心など、20代女子にはわからないのだろう。僕は臭いを指摘されるたびに激しく落ち込み、ただ黙って風呂場で足を洗う。もちろん、洗っている様子もチーに観察されていることは書くまでもないだろう。

また、チーは僕の頭髪もじろじろ観察してくる。風呂上りの濡れ髪のときなど、「動かないで」と僕の動きを制し、髪の生え際を隈なくチェック。

「1センチ四方に髪の毛が5本しか生えていない箇所があるっ」

これは辛い一言だった。指摘された瞬間、血の気が引いた。33歳独身男子は頭髪の話題に敏感だ。できることなら、そこだけはチェックしないでほしかった。少なくとも7本は生えていると思っていたのに、まさかたったの5本とは……。

その他、チーは僕の微妙な体重の増減や肌質の変化、目の充血に至るまで、感心するぐらいチェックしており、ある意味、僕のことを僕以上によく知っている。

もちろん、そんな日々を窮屈だと感じるときも多々あるが、そのぶんチーは僕が気づかないうちに、古くなった僕の歯ブラシを新しい歯ブラシに取り替えておいてくれたり、僕のサンダルに消臭剤を噴射して中に新聞紙を詰めるなどして、なるべく臭いが消えるよう尽力してくれたり、何かと世話を焼いてもくれる。

かくして、トータルでは僕のようなズボラ人間にとって、チーは非常に助かる存在なのだが、その一方で自分のあまりの不甲斐なさに僕は情けなくなってしまう。家事の類は努力で改善できるとして、臭いと薄毛はどうすればいいのだろう。

今後、それらのチェックがどんどんエスカレートしていき、チーに振られたらどうしよう――。かような不安に苛まれる今日この頃である。

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