前回までのあらすじ
超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の最愛の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイはちょっとダメ系の独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女との愛と喧嘩のウェディングロードです。
僕の彼女は家族全員A型というA型界のサラブレッドだ。名前はチーという。お互いの家が徒歩数分という超近所同士のため、付き合い始めた頃からチーは頻繁に僕のマンションを訪れ、ほどなくして半同棲状態となった。だからして、現在の僕はA型女子特有の生態を目の当たりにしながら日々を過ごしており、僕自身がマイペース且つ大雑把で知られるB型男子のため、何かとA型女子との衝突が絶えないわけだ。
チーと付き合う前、僕がA型女子に対して抱いていたイメージは、万事に細かいということだった。洋服はすべて「ショップたたみ」にしてジャンルごとに分かれたタンスの中に美しく敷き詰め、下着は驚くほど小さく丸め込む。お茶を飲んだコップを洗うことなく、そのままコーヒーを注ぐなんてことはありえない。だったら軽く水洗いするのはどうかというと、それもまだ甘いわけで、正解は飲み物の種類によってコップを変えるか、洗剤でコップを綺麗に洗うかのどちらかだろう――。とにかく僕はそれぐらいA型女子は几帳面だと思い込んでいた。
ところが、実際に付き合ってみたA型女子のチーは、それまでの僕の勝手なイメージを見事に裏切ってくれた。といっても、予想に反して意外に大雑把な女性だったというわけではない。僕が想像していた以上に、几帳面な女性だったのだ。
まず驚いたのは「コロコロ」に対する執着心である。チーは僕のマンションに大中小と大きさの異なる数種類のコロコロを持ち込み、朝から晩まで部屋中の至るところを飽きるぐらいコロコロする。もちろん、僕も今までコロコロぐらい使ったことがあるけど、チーのように数分に1回という異常なハイペースでコロコロする人を見たことがなく、さらに言えばコロコロする箇所に応じて大中小のサイズを使い分ける人も初めて見た。おかげで僕はずいぶんコロコロの種類について詳しくなった。
そんなある日の夜。仕事が終わって僕の部屋に帰ってきたチーは、いつものように真っ先にコロコロを手に取ったのだが、次の瞬間、大きな叫び声が聞こえてきた。
「ないっないっ。紙がない!」あいにくコロコロの紙が切れていたのだ。
チーは途端に狼狽した。アニメにみたいにわかりやすく頭を抱えている。
「なんで切れてるのっ。昨日の時点で5、6回分は残ってたのに!」
そんなチーに僕は平然とこう説明した。
「ああ、チーが仕事に行っている間に俺が使っちゃったんだよ。着ようと思った洋服に毛玉がたくさんついてたし、ついでに床とか布団とかもさ」
すると、チーはギラリと僕を睨みつけ、低いトーンで言った。
「なんで新しいコロコロ買ってこなかったの?」
「えっ……。いや、また今度買えばいいかなって。忙しかったし……」
「だったら、なんでコロコロがなくなったってメールしてくれなかったの? メールしてくれたら、あたしが買ってきたのに」
「あ、ああ……ごめん、ごめん。け、けど、それってそこまで大事なこと? 」
僕のその言葉はチーにとってキラーワードだったようだ。次の瞬間、チーの怒りのマグマが大噴火。鬼の形相でコロコロの重要性を訴えたのだ。
「コロコロは大事に決まってんでしょっ。コロコロがないせいで、部屋が埃と毛玉まみれになって喘息になったらどうすんのよ! コロコロしたいときにコロコロがないと、あたしはストレスがたまって夢にコロコロが出てくんのよ!」
結局、その夜はチーの剣幕に恐れをなし、僕は急いで近所のスーパーにコロコロを買いに出かけたのだが、なぜかチーはそれから三日も口を聞いてくれなかった。チーはいったんブー垂れると、機嫌が直るまでしばらく時間がかかる女性なのだ。
正直、最初はカルチャーショックに苦しんだ。確かにコロコロは便利だが、僕の中では1日でも欠かしてはいけないほどの必需品ではないわけで、ましてや日常会話の中でコロコロというワードがそんなに頻繁に登場するとは思っていなかった。
しかし、チーと付き合って、僕の部屋が前より格段に綺麗になったのは確かだ。紙切れが怖いため、常にいくつかのストックを常備しておかなければならないという面倒くささはあるものの、清潔という喜びを僕に教えてくれたのは間違いなくチーであり、だから今ではチーのコロコロ信者ぶりをありがたく受け止めている。
それにチーはコロコロをしていると嬉しそうな笑顔を見せる。「コロコロ~♪ コロコロ~♪」わけのわからない歌を口ずさみながら、我を忘れてコロコロしているチー。それが無性にかわいく感じるのは、僕が彼女を愛しているからだろう。
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