前回までのあらすじ
33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。26歳OLのCとの初デートも三次会のカラオケに突入。深夜4時半、僕はCにストレートな愛の告白。しかし、Cはずっと黙ったままで――。
深夜4時半、カラオケの中で僕は26歳OLのCに愛の告白をした。しかし、Cは俯いたまま、なかなか返事をしない。僕はだんだん不安になってきた。おかしい。告白する前に僕が勝手に算出した成功確率は90%だったというのに、まさか計算違いだったのか。僕はCに振られてしまうのか。
すると、Cはようやく重い口を開いた。
「ちょっと考える時間をください」
ああ、このパターンか……。僕はがくんと肩を落とした。恋愛において、この手の返事はほぼ「ノー」を意味している。考える時間=「断わる理由」を考える時間。それが女の常套句ということぐらい、卑屈な33歳独身男子はお見通しなのだ。
「どれくらい?」僕は一応訊ねてみる。3日か、あるいは1週間か。「ノー」の判定が下されることはわかっていながらも、執行猶予の期間が気になってしまう。
ところが、Cは意外な言葉を放った。
「9時までには必ず!!」
は――? なんだそれ。9時までって午前9時のことか。僕はすかさず時計に目をやった。只今、5時ちょっと前。あと4時間ほどじゃないか。
呆然とした。今まで33年間生きてきたが、こんな具体的且つ短期間の執行猶予は聞いたことがない。普通は「数日間」とかアバウトな期間を告げて、男を惑わすのが女の常というものだろう。あるいは、「また今度デートしましょう。もっとたくさんお話してから返事しますね」などとお茶を濁しつつも、結局次のデートは一向にやってこないというパターンもありがちだ。Cはいったい何を考えているのか。
なぜか頭皮から汗が噴き出してきた。まったく、育毛の敵だ。そんな場違いなことを考えてしまう。よし、こうなったら9時まで待つしかない。とりあえず……、
カラオケだ――。
その後、僕とCは人生で最も落ち着かないカラオケを楽しんだ。数時間後には告白が成功するかしないかの判定が下されるわけだから、この期に及んで甘いラブバラードなんかを朗々と唄いあげる勇気はない。熱すぎて引かれたら困るじゃないか。
かくしてカラオケ店が閉店する朝6時まで、僕は開き直ってウルフルズとかを唄いまくった。ついでにアニメ『タッチ』の映画版テーマソングであるラフ&レディの『背番号のないエース』も唄ってやった。Cはちょっと引いていたかもしれない。
カラオケ店を出ると、外はすっかり明るくなっていた。なんとなく体力の限界を感じる。眠い。腰が痛い。目がしょぼしょぼする。髭が濃くなっている。全体的な顔相が気になって仕方ない。33歳のオッサンに三次会までのオールは厳しいのだ。
しかし、Cが「9時までに答えを出す」と約束してくれた以上、ここですごすごと帰宅するわけにはいかない。9時までは頑張って起きておかないと!
こうなったら勇気を出して、僕の自宅にCを誘うしかない。自宅で9時まで時間を潰し、あわよくば○△×□なんてことになったりして――。そう思った僕はタクシーを拾い、「とりあえず三茶方面に行こうか」とCに乗車を促した。酒のせいか疲れのせいか、それとも単にハイになっているのか、僕はすっかり開き直っていた。
「はあい」Cは素直にタクシーに乗った。い、いけるぞっ。心の中でガッツポーズした。僕の自宅が三茶にあることをCは知っているわけで、それにもかかわらず「三茶行き」を快諾したということは、すなわちCも‘その気’ということだろう。
そうか、そうか。なあんだ、Cさん。途端に僕は大船に乗ったつもりになった。要するに、Cの返事は「イエス」ということだろう。じゃないと、「朝9時までに返事をする」なんて具体的なことは言わないだろうし、僕の自宅にも来ないって。まったくもう、Cさんたらっ。もったいぶっちゃってさ。心配させんなよなあ。
ところが、Cはタクシーの中でこう言った。
「三茶に朝6時から開いているカフェがあるんですけど、そこに行きません?」
ええっ――。その瞬間、まさかまさかの四次会が決定した。Cは若いからか、それともトレーニングでもしているのか、とにかくまだまだ元気いっぱいだ。無邪気な笑顔で「コーヒー飲みたい」を連呼している。天真爛漫だが、罪深い女性だ。
一体いつまで引っ張るんだ。このときの僕の心境と、この連載を読んでくれている方々の心境は、たぶんどこかシンクロしていると思う。けど、僕は別に引っ張っているつもりじゃないんですよ。なぜか本当にこうなったんです……。
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