前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。馴染みの居酒屋で出会った26歳OLのCとの初デートも三次会のカラオケに突入。深夜4時半。僕は意を決して、Cに愛の告白をしたのだが――。

僕は26歳OLのCに愛の告白をした。33歳のオッサンになった僕だが、やっぱり告白は緊張しますね。中学生の頃から本質的には何も変わっていない。頭髪のボリュームも変わらなければいいのに。

「ぼ、ぼ、僕の……か、彼女になってください――」

カラオケの個室の中で、僕はそう切り出した。

しかし、Cは不思議そうに目を見開き、何も言葉を発しない。

「僕とお付き合いしていただけませんか?」もう一度、言葉を重ねてみる。

すると、Cがようやく口を開いた。

「どうしてですか?」

えっ。一瞬、全身が固まった。口の中が渇いてくる。僕は目の前のウーロンハイをひと口飲み、なんとなく視線を宙に彷徨わせた。

「どうしてって……。それは……」

次の言葉を考える。「好きになったから」と答えるのは、なんとなく軽薄な気がした。実質Cとゆっくり話したのは今夜が初めてであり、そんな短時間で「好きになった」と言っても説得力に欠けるだろう。

だからして、僕は正直に気持ちを打ち明けた。

「まだ出会って間もないから、好きになったとかそういう言葉を吐くのは自分でも抵抗があります。けど、Cさんのことを素敵な人だなと思っているのは間違いなく事実で、あなたとお付き合いしたいという言葉に嘘はありません」

「試しに付き合ってみて、そのうち好きになったらいいってことですか?」とC。

「いや、違います。そんな曖昧な気持ちで告白なんかできないです。なんだろ。うまく言えないけど、なんとなくCさんとは末永く仲良くしていけそうな気がする。話が合うとかそんなんじゃなくて、人間が合うっていうか、同じ星に住む人を見つけたっていうか、とにかく僕にとってCさんはすごく貴重な女性だと思うんです」

「それは……今じゃないとダメなんですか?」

「えっ?」

「もっと何度も会ってみてとか、時間をかけてゆっくりとは思わないんですか?」

Cにそう言われると、僕は返す言葉がなかった。確かにごもっともです。別に焦ることじゃないだろう。次のデートがあるじゃないか。

思わず天井を見上げた。吐息が口をつく。天井には小さなブルーライトがちりばめられていた。プラネタリウムみたいだ。そんな場違いなことを思った。

「いや、今日じゃないとダメな気がするっ」僕は語気強く言った。自分でもなんでそんなことが口をついたのかわからない。頭よりも体が反応したのだ。

「僕は焦っているのかもしれない。確かにもっと何度かお会いしてみて、気持ちが固まってから告白するのが筋だと思う。けど、なぜか焦ってしまう。今、気持ちを伝えないと、この出会いを失ってしまいそうな気がして怖くなってしまう」

そんな僕の言葉をCは黙って聞いていた。

「たぶん、僕はそれだけ必死なんだと思う。子供が母親にオモチャをねだっているときみたいに、次の機会を待てないんだ。みっともないけど、理性で自分の気持ちを鎮められるほど僕は大人じゃない。きっとそれだけ……」

そこで一瞬、躊躇した。僕はゆっくり深呼吸をして、次の言葉を切り出す。

「きっとそれだけCさんに魅力を感じているんだと思う。焦ってしまうほど、本気であなたのことを求めているんだと思う」

言った瞬間、顔面が一気に紅潮した。血中のアドレナリンが小躍りしているかのような、そんな異常な興奮に全身が熱くなる。いつのまにか、手といい脇といい、汗でぐしょぐしょだ。心臓の鼓動がみるみる速く、そして大きくなってきた。

うわあ、恥ずかしい。さっき俺、すごいこと言ったぞ。勢いでかなり甘い台詞を吐いたぞ。大変だあ、てーへんだあ。やばいよ、やばいよ。タモさん、やばいよっ。

33歳独身B型男子による一世一代の大勝負。これが吉と出るか凶と出るかはわからないが、いずれにせよ、精一杯の人事は尽くした。後は天命を待つのみだ。

Cはずっと黙って、下を向いていた。

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