前回までのあらすじ
33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。26歳OLのCとの初デートは一軒目の居酒屋から二軒目のバーに突入。いよいよ本格的にCを口説こうとしたとき、店内で知人女性に偶然出くわすというハプニングが発生して――。
デートの最中に、友人・知人にばったり出くわすは誰だって嫌なものだろう。ましてや、それがまだ恋人関係になっていない女性との初デートだったらなおさらだ。ほとんどの男は「邪魔しないでくれ」と心の中で念じているはずである。
もちろん、そのときの僕も同じ心境だった。中目黒のバーで26歳OLのCを口説こうと思案している最中に、たまたま出くわした知人女性に遠慮なく話しかけられたのだからたまらない。しかも、「山田さん、かわいい女の子連れて~。もしかして彼女ですか?」などとKY極まりない無神経な質問までしてきやがったわけだ。
僕は動揺を隠しつつ、その質問に対してこう答えた。
「ま、まだ彼女ってわけじゃなくて……。あの……これからって感じで」
言った瞬間、後悔した。なんだ、この男らしくないしどろもどろとした答えは。しかも、さりげなくCに告白しているじゃないか。うわあ、恥ずかしい――。
それ以降、僕はCの顔をまともに見ることができなくなった。KY知人女性はようやく状況に気づいたのか、「あっ、ごめんなさい。そういうことだったんですね。頑張ってください」と、またもや無神経に僕を激励して、その場を離れていった。まったく。デリカシーの欠片もない。大阪のオバちゃんみたいな女性である。
しかし、もしかしたらこれが意外に功を奏したのかもしれない。さっきの僕の間接的な告白を耳にして、Cの様子が明らかに変わった。一転して口数が少なくなり、カクテルをちびちび飲みながら、心ここにあらずといった態度を見せるのだ。
ほどなくして、Cがトイレに立った。その間、僕は次の作戦を考える。さあ、どうしようか。ここまできたら告白するしかない。けど、ふられたらどうしよう。立ち直れる自信がない。30歳を過ぎて以降、僕はますます臆病になっているのだ。
すると、Cが戻ってきた。ふと彼女に目をやると、さっきと微妙に髪型とメイクが違う。これはきっとあれだ。Cはトイレでお色直しをしてきたのだろう。
そう思った瞬間、僕の中に自信が湧いた。これって、告白したらいけるんじゃないか。さっきの間接的告白で、Cは間違いなく僕の気持ちに感づいているはずだし、そのうえでお色直しをしてくるという女性心理を考えると……。
きっとこれは告白待ちだ――。僕はそう推察した。
Cは積極的な女性ではなく、わりと受け身に見える。すなわち、このお色直しは男性からの告白を誘導しようとしているということだろう。まさに据え膳(失礼!)。これを食わねば、いや、ここで告白しなければ男が廃る。よし、決めた。33歳にもなって告白するぞー。僕が勝手に算出した成功確率は90%以上だ。
しかし、結局バーの中では告白できなかった。だってさあ、勇気が出なかったんだもんっ。はああ。我ながら情けない。チャンスはいくらでもあっただろうに。
深夜3時過ぎ、中目黒の歩道で僕はCにこう言った。
「こ、これからどうしようか?」
僕の中にはある計算があった。バーの中で告白するのは他の客の目について恥ずかしい。やっぱり誰もいないところじゃないとムードも出ないというものだ。
「カラオケ行く?」もちろん、ダメ元で言ってみる。今まで散々飲んできた挙句、深夜3時からカラオケって大学生でもやらないだろう。けど、僕はそれだけ二人きりの空間を求めており、カラオケの個室なら堂々と告白できると踏んだわけだ。
「いいですよ。カラオケ好きだし」Cは僕に好意を寄せてくれているのか、それとも単に元気なだけなのか、とにかくどこまでも付き合いがいい。これだけ煮え切らない態度を見せる僕に不快感を一切見せることなく、朝までカラオケに付き合ってくれるという。Cさん、君は天使だ。最高でーす。
その後、カラオケに移動した僕らだが、なんとなく歌を唄う雰囲気にはなれず、ただお酒を飲みながら時間だけをやり過ごしていった。
いつのまにか、時計の針は深夜4時を回っていた。曲をリクエストしていないカラオケ画面には、見知らぬ最新ヒットソングのPVが流れている。なんでも、このわけのわかんない楽曲が最近の若者には大人気だという。
深夜4時半。僕はCにこう切り出した。
「ぼ、ぼ、僕の……か、彼女になってください――」
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