前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。かねてから狙っていた26歳OLのCと中目黒の居酒屋で初デートが実現したのだが、生ビールで乾杯するなり、Cの血液型がA型であることが判明して――。

中目黒の居酒屋で僕はいきなり凍りついた。やっとの思いで初デートにこぎつけた26歳OLのCが、恐怖のA型女子だったのだ。

血液型A型の女子。それが僕みたいなダメダメB型男子にとって、いかに天敵であるかは連載第一回目を読んでいただければわかるだろう。ただの女友達なら別に気にならないのだが、それが恋人、あるいは未来の花嫁になるかと思うと、僕は途端に怖くなってしまう。例え付き合うことができたとしても、そのうちA型女子に「だらしなすぎるっ」と愛想を尽かされるか、僕自身がA型女子に怒られすぎて心を壊してしまうかの、どちらかになるはずだ。

もちろん、血液型の相性問題なんて一つの傾向に過ぎず、「A型女子が怖い」と怯えてしまうのも偏見なのかもしれないが、それでもA型女子を前にすると、僕は一瞬たじろいでしまう。もはや条件反射みたいなものだ。

CがA型女子であると判明した直後、僕は動揺を隠すようにトイレに立った。大便コーナーでタバコを吸いながら、落ち着いて頭の中を整理する。

さあ、どうするべきか。血液型のことはひとまず置いておいて、とりあえずこのままCを口説くべきか。それとも「A型女子だから、例え付き合えたとしても結婚は無理だろう」と先読みをし、無難にCをリリースするべきか――。

タバコを二本吸った。シンキングタイムが長引いてしまう。

散々悩んだ挙句、僕は結局、前者を選択した。当たり前のことかもしれないが、たかだか血液型がA型という理由だけで、Cを諦めるにはあまりに惜しい。大体、それ以外は文句がないのだ。33歳という今の僕の年齢を考えると、この先、彼女ほどの女性に出会えるかどうかも疑問である。よし、決めた。ここは後先考えず、Cを口説きにかかろう。未来は神のみぞ知る。大切なのは今の自分の気持ちじゃないか。

というわけで、僕は気合を入れ直してテーブルに戻った。まだ料理をあまり注文していなかったので、Cと相談しながらメニューをめくる。

「Cさんって辛いもの好き?」そう訊ねると、Cは笑顔でうなずいた。好き嫌いはほとんどないらしい。お酒もビールからカクテル、焼酎、日本酒、ワインなど、結構なんでもいける口だという。

僕は豚キムチやエビチリなど辛い系の料理をいくつかと、飲みやすい赤ワインをデキャンタで注文した。もちろん、これには女性を口説く際に効果的な下衆な計算がある。辛い食べ物は喉が渇くため、お酒が進みやすく、さらに赤ワインは飲みやすいわりにアルコール度数が高い。つまり、酔いを促進する黄金のセットなのだ。

さらに、デキャンタで注文するというのもポイントである。一般的に女性はグラス何杯で自分のアルコールの許容量をはかるタイプが多い。だからして、グラスごとにワインを頼んでいくと、女性のグラスが空いたときに男性が「もう一杯いく?」と訊いても、「いや、この辺にしとく」と制御されてしまうことが多々あるわけだ。

しかし、これがデキャンタだったらどうだろう。女性のグラスが空いたら、男性のほうから、しれっと注ぎ足せばいいじゃないか。すると、女性は自分が何杯飲んだかわかんなくなるし、甘くて飲みやすいワインだから勝手に注ぎ足されることへの抵抗感も少ないはず(と、僕が勝手に分析している)。それどころか、「わざわざ気を遣ってくれてありがとう」と女性に感謝されるかもしれないじゃないか。

ちなみに、ワインを二種類頼むのもいいかもしれない。そうすることで、注ぎ足していくときにナチュラルなちゃんぽんが完成していったりして。ちょっとやりすぎかもしれないが、いずれにせよ、女性の泥酔確率が上昇するのは間違いないだろう。

わかっている。女性を酔わせて口説こうなんて、自分に自信がない最低男が考える汚い作戦だ。男たるもの、本来ならシラフで堂々と求愛すべきである。

けど、今の僕は藁をも掴む気持ちで酒の力を借りたいのだ。Cが少しでも酔っぱらって、いつもより楽しい気分になってくれたら、それだけでも自分の評価がちょっとは上がる気がする。酒で楽しい気分になったのを、僕と一緒にいるから楽しい気分になったんだと勘違いしてくれたら、それはそれで最初のデートとしては上出来だ。

かくして、僕は自分の魅力をアピールすることより、まずはCを楽しませることに重点を置いて、中目黒の酒宴を続けていくのだった。

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