前回までのあらすじ

33歳独身B型男子である僕、山田隆道は現在絶賛婚活中。馴染みの居酒屋で知り合った26歳OLのCと、ついに初デートが実現。金曜日の夜八時、渋谷のモヤイ像前で待ち合わせした僕とCは――。

ついにCとの初デートにこぎつけた。金曜日の夜八時、舞台は渋谷。会社帰りのCはOLを感じさせないラフなファッション。なんでも服装が自由な職場だという。

モヤイ像の前で落ち合った僕とCは、早速近場の居酒屋に入ろうと歩き出した。

まだ心が打ち解けていない女性と歩きながら雑談するのは少し気が引けるが、ここは無理をしてでもCを和ませねばなるまい。そこで僕は以前、恋愛巧者のバースから教えてもらった「失敗談作戦」を繰り出すことにした。初対面の人と打ち解けるためには、最初に自分の失敗談を自虐的に話したほうが良いという、『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』でもお馴染みの理論である。

「いやあ、さっき駅の階段で転んじゃってさあ」

しかし、Cはまったく和んだ表情を見せず、

「はあ、そうですか。大変でしたね」と至って真面目な返事。

しまった。失敗談がリアルすぎて、何のおもしろみもなかった。相手を和ませるためには、もっと洒落た失敗談を繰り出さないと。僕はかように頭をフル回転させるものの、新たな失敗談がなかなか浮かんでこない。しかも、その間、Cとの会話もほとんどなく、ますます焦りが募っていく。やばい。とりあえず早く店に入ろう。ゆっくり腰を落ち着ければ、もっとリラックスして会話ができるはずだ。

かくして僕は近場の居酒屋にCを誘導した。しかし、ここでハプニングが発生。

満席で入れなかったのだ。

やっちまった。金曜の渋谷を甘く見ていた。冷静に考えたら、混雑していて当たり前じゃないか。勝負デートなんだから、事前に予約を取っておくべきだったのだ。

その後、最悪なことにCを何軒かの居酒屋に連れ回した挙句、それでも入れる店を見つけることができなかった。八時に待ち合わせをして、八時半になってもまだ店が決まらない。完全に女子に嫌われるパターンである。

「ごめんね。段取り悪くて」僕は素直に謝った。けど、Cの顔をまともに見ることができない。口では「いえいえ、大丈夫ですよ」と言ってくれたものの、表情を見ていないから、まったく安心できないのだ。

こうなったら裏技である。これ以上、渋谷にこだわるのは諦め、思いきってタクシーで中目黒とか池尻あたりに移動しよう。あの辺の店だと、さすがに飛び込みでも入店できるだろう。Cさん、いかがですか?

「わたしは別にいいですよ」Cがそう快諾してくれたこともあり、僕はすぐさまタクシーを拾った。「中目黒までお願いします」運転手さんに行き先を告げ、ようやく車内で一息つく。おそらく隣に座るCは少なからず不機嫌になっているだろう。けど、それも致し方ないことだ。気を取り直して、ここから挽回するしかないだろう。

結局、午後九時近くになって、中目黒の某居酒屋に入ることができた。ちなみに散々迷いまくった挙句、最終的に落ち着いた店は大手チェーン店である。

テーブル席に対面で座り、早速、生ビールで乾杯した。この夜初めて、Cの顔を落ち着いて見た気がする。その表情からは、怒っているとか不機嫌だとか、そういった様子はまったく感じられない。Cは穏やかな笑みを浮かべながら、「金曜ってどこも混んでいるんですねえ」と和やかな口調で話してくれるのだ。

いい娘だなあ――。素直にそう思った。普通だったら初デートでこんな段取りの悪い男、その時点でアウトだろうけど、なんて心の広い女性だ。

僕がB型だからか、つい行き当たりばったりで行動してしまうところがあり、そのせいで時としてこういう失敗を犯してしまう。帰省ラッシュの年末に、切符を予約することなく馬鹿正直に新幹線に乗ろうとして、当然のように切符を取れなかった苦い経験が三年ぐらい連続してある。要するに学習能力も低いのだ。

そんな僕のだらしない性格を考えると、Cのような心の広い女性は理想的かもしれない。きっと彼女はあれだ。僕と同じB型か、あるいはおおらかで知られるO型なんじゃないか。いずれにしても、僕と相性はばっちりだろう。

しかし、ほどなくして真実が発覚した。Cがこう言ったのだ。

「わたし、A型ですよ。しかも、家族全員Aだから、生粋だと思います」

ガーン! ショ――ック!!

Cは僕が今まで大の苦手だと勝手に思い込んできた恐怖のA型女子だったのだ。

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