最近の僕は家の近所に馴染みの居酒屋を作るべく、日夜奔走している。目的はもちろん、店の女性客と自然な形で出会うこと。常連同士というきっかけで会話を交わすようになり、それがいつしか友人になり、ほどなくして恋人になる。そんな淡い夢を見ているからこそ、僕は先日、友人男性と二人で前回のような居酒屋調査を敢行したわけだ。

すると、本当に二人の若い女性客が来店し、僕らの隣に座ったのだ。はっきり言って、僕の目論みは大当たりである。さすが居酒屋のくせ(?)にスイーツやカクテルが充実しているだけのことはある。さすが二人の店員のうち、片方が20代後半の女性だけのことはある。この小さな居酒屋は、間違いなく女性だけの客が多いはずだ。

絶対、常連になってやる――。僕はそう心に誓った。

二人の女性客はどちらも20代半ばぐらいで、容姿もそこそこ可愛かった。この店に通い続ければ、黙っていても女性との出会いが増えるだろう。33歳独身男子にとっては、出会いカフェみたいなものじゃないか。

しかし、だからといって今日のところは、まだ隣の女性客に声をかけようとは思わなかった。大体、初めて行った居酒屋で隣に座った女性に気軽に声をかけることができる勇気なんか、僕は微塵も持ち合わせていない。しかも、いきなりそんなあからさまなナンパ行為をしても間違いなく女性に怪しまれ、ひいては軽蔑されるだろう。

したがって、僕は友人男性と協力して、まずはマスターと仲良くなることを目指した。繰り返すが、マスターは30代半ばから後半の気さくそうな男性。見た感じ、なんとなく仲良くなれそうな気がする。

「いい店ですねえ。料理も美味しいし、雰囲気もいいし」

僕がそう話しかけると、マスターは嬉しそうな笑顔で「ありがとうございます」と礼をしてくれた。その礼があまりに心地良かったので、僕らはさらに料理をいくつか注文する。料理が美味しいのは本当のことだ。

初回である今日はなるべく多くの酒と料理を満喫し、そこそこの金額を店に支払おうという密かな狙いもあった。そのほうがマスターも喜ぶだろうし、「今後、常連客になってくれるかもしれない」と、丁寧に応対してくれるような気がしたからだ。

実際、僕らがかなりの量の酒や料理を注文すると、マスターは明らかに上機嫌になった。「お仕事は何をされているんですか?」「家は近所ですか?」「出身は関西のほうですか?」などと、次々にパーソナルな質問を投げかけてくる。

月並な言い方だが、マスターは感じのいい人だ。僕の返答にも、ひとつひとつ「うんうん」とうなずきながら、興味深そうに聴いてくれる。もう一人の女性店員もなかなか気立ての良さそうな人だ。ますます、この店が気に入った。

その後、しばらく飲んでいると、隣の女性客二人は早々と食事を済ませ、「また来るねえ」と店を後にした。いかにも常連そうな口調である。

女性客が帰った後、僕はマスターに率直な質問をぶつけた。

「この店って、女性だけのお客さんも多いんですか?」

「うちは多いですよ。さっきの二人もよく来られますし」とマスター。

よしっ。心の中でガッツポーズを作った。正直、この情報を入手できただけで、初回としては充分な収穫だ。このマスターと仲良くなるまで何度か店に通おう。

次いで、今後の計画を頭の中だけで練った。

マスターと友達になったら、次は恋愛相談をしよう。内容は彼女が欲しいとか出会いがないとか、そういう他愛もないことでOKだ。

そうすることで、マスターの脳裏に「山田くんは彼女がいなくて寂しい」という情報がインプットされ、さらにマスターと仲良くなったことで「山田くんはいい奴だから幸せになってほしい」と思ってくれれば御の字だ。つまり、僕自身がマスターにとっての「女子にオススメできる素敵な男」になればいいのだ。

その夜、僕はそんな妄想を肴に大酒を飲んだ。帰りの記憶はあまりない。いきなりたちの悪い粗相をやらかして、マスターに嫌われていなければ良いのだが……。

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