現在、絶賛婚活中の山田隆道、33歳。職業はしがないエッセイストであったり小説家であったり、決して売れっ子の人気作家というわけではないが、それなりに微妙なポジションで執筆活動を続ける謎の文芸人。血液型はB型である。

現在は東京都内の賃貸マンションで独り暮らしをしているが、実家は大阪府の吹田市だ。昭和9年築という恐ろしく古い純日本家屋に還暦過ぎの老夫婦(両親)が二人だけで住んでおり、いずれその家を受け継ぐにせよ、受け継がないにせよ、とにかく何らかの対策を僕が考えねばならない。僕は姉と妹に挟まれた長男坊なのだ。

以上のように客観的に自分のことを分析してみると、ふと思うことがあった。

女性の結婚相手の条件として、僕はそんなに悪くないんじゃなかろうか――。

……えっ、てめえ自惚れんじゃねえだって? 仕事は不安定だし、血液型は意味不明のB型だし、何かと面倒くさそうな古い家柄の長男だし、はっきり言って結婚相手としてはマイナス条件だらけじゃねえか。大体、微妙にチビだし、手足が微妙に短いし、微妙になで肩だし、腹は微妙に出ているし、頭髪は微妙に薄くなっているし、鼻の両脇から豊齢線が微妙に伸びているし、おまえは何もかもが微妙なんだよ。

――な、何もそこまで言わなくてもいいじゃないか、君たち!!

けど、確かに冷静に自己分析をすればするほど、僕はいわゆる条件云々で未来の花嫁を釣り上げられるようなタマじゃないと思ってしまう。

だから、女性陣にダイレクトに品定めされる合コンが苦手だ。30過ぎの独身男と合コンをするような女性(特にアラサー女子)は、合コンの席につくなり、最初は明らかに男性陣の条件面を吟味してくるような傾向があると思うのだ。

それは先日、知人男性に誘われたある合コンに参加したときも強く実感した。

その合コンは5対5で行われ、女性陣はみんな仕事を持つ20代後半女子。僕のことを誘ってきた知人男性が広告代理店勤務だったためか、男性陣はみんな広告系、IT系、テレビ関係と、一般的に華やかとされる職業だった。

正直、開始10分ぐらいで早くも挫折した。なにしろ、高級スーツを着こなしたビジネスマンたちの中に一人だけ大学生みたいなカジュアルファッションに身を包んだ謎の自由業者がまじっているのだ。おまけに何を血迷ったのか、僕はなぜか頭髪にターバンまで巻いてしまった。完全に場違い。明らかに僕だけが浮きまくっている。

女性陣の冷ややかな視線が痛かった。あんただれ? 浮き草生活の世捨て人がセレブ合コンに迷い込んでくんじゃねえよ。そう顔に書いてあった。

話題にもついていけなかった。広告マンやITマンたちが繰り広げる華やかな仕事の話。有名企業や有名人の名前がバンバン飛び交い、仕事で海外に行った話に華が咲く。そんな彼らにあからさまなシナを作る女性陣。「自分が注目されていない」ということが、こんなにも伝わってくる合コンは人生で初めてかもしれない。

「山田さんってどんなお仕事されてるんですか?」女性陣にそう訊ねられたので、僕は戸惑い気味に「いやあ、エッセイと書いたり小説書いたり……」と答えた。

「へえ。それだけで食べられてるんですか?」

「一応、なんとか」

そこで会話が終了した。「それだけで食べられてるんですか?」かあ。なんとも殺傷能力の高い台詞だ。作家は有名じゃないと意味がない。自作をいちいち説明しなきゃいけないレベルの作家なんか、一般の人からしたらピンとこないのだろう。

また、「本とか出されてるんですか?」と訊かれたことも辛かった。そんなことを訊かれる作家なんか、情けないにもほどがある。美容師が「髪とかも切られるんですか?」って訊かれるようなもんじゃないか。

かくして僕は婚活のための手段として、合コンという選択肢を捨てた。短時間で女性から吟味される合コンというシステムにおいては、わかりやすい肩書きや条件を携えた男性のほうがはるかに有利だと思う。僕のような謎の自由業者は、女性ともっと自然な出会いを果たし、会話をじっくり積み重ねていったほうが良いのだろう。

自然な出会いねえ……。きっとそこに活路があるはずだ。

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