ある日、朝起きたら全身に激痛が走った。いててて、なんだこれ。全身の筋肉が割れるように痛い。まさか筋肉痛なのか。けど、昨日も一昨日も運動らしい運動はなんにもやってないぞ。僕のような謎の文芸業者はパソコンのキーボードを叩くことが最高にして唯一の運動なのだ。

しばらく起き上がることができず、頭の中を過去にタイムスリップさせていく。どう考えても筋肉痛になる理由が見当たらない。一体、なにが原因なんだろう。すると、一週間前の出来事を思い出し、ハッとなった。

そういえば部屋を大掃除したな――。

最初はまさかと思った。いくら歳をとったからといっても、大掃除ぐらいでここまでの筋肉痛になるわけがない。それに一週間前だ。確かに最近は筋肉痛が二日後とか三日後にやってくるようにはなったが、それにしても一週間はタイムラグがありすぎる。そんなに間隔があいたら、なにが原因なのか忘れちゃうじゃないか。

しかし、他の原因は考えられない。朝から晩まで二日酔いの頭でタバコを吸いながら駄文を書き続ける日々に筋肉が悲鳴をあげるわけがない。ということは、やっぱり一週間前の大掃除か。うーん。でもなあ。かくして、謎は深まるばかりである。

また、こんなこともあった。

ある日、朝起きるとまたも筋肉痛になっていた。しかし、今度は全身ではなく、腹部だけである。とにかく腹筋が痛いのだ。

これは原因がすぐにわかった。ここ数日、外出する用事が増えたからだ。最近の僕は少しでも腹のでっぱりを隠蔽するため、常にお腹をへこませながら歩いている。腹筋にかかる負担は相当なはずだ。

勝手に推察するに、彼女がいない独身三十代男性の大部分は腹を気にしていると思う。もちろん、普段から腹筋や背筋をかかさない熱血アスリートタイプは別だが、のんべんだらりと二十代を謳歌してきた男の場合、三十代に突入すると多少の個人差はあれど、みんな腹部が"たれパンダ"みたいになってくるはずだ。

だったら体を鍛えればいいじゃないかという話もあるが、そんなストイックなことができるような男なら、最初から"ゆるキャラ"なんかになったりしない。ダイエットしたら痩せるのではなく、ダイエットできないから太るのだ。

かくして、僕が選んだ対処法は根本からの問題解決よりも表面的な隠蔽工作。腹のでっぱりをなるべく隠せる洋服を着て、さらに腹を常にへこませながら歩くという知られざる苦行に身を委ねる。それもまたストイックなのかもしれない。

しかも、タチが悪いことに極度に太ってさえいなければ、そういった「腹へこませ作戦」を使うことで、女子の目をごまかすことぐらいはできるのだ。わざわざピチッとしたシャツなんか選ばず、ゆったりしたシャツに鉄板のジャケットを着れば、女子を口説く際に大きな支障をきたすことはないだろう。

もちろん、裸になれば女子にばれてしまうことはわかっている。ココリコの遠藤章造しかり。あの端正なイケメンフェイスからは想像もつかない裸になったときの怠惰すぎる腹。千秋もさぞかし驚いたことだろう。

しかし、仕事で裸になることが当たり前の芸人は特別だ。一般的に考えると、男が女の前で裸になる状況は恋愛の初期目的をほぼ完遂したという意味に他ならない。最後の一線を越え、いったん女を自分に惚れさせてしまえばこっちのもの。そう考えているからこそ、僕は過酷な肉体改善よりも安易な隠蔽工作を選んでしまうのだ。 ちなみに、結婚している男性の場合は生涯の伴侶を得た余裕からか、無理に腹をへこませようとはせず、至って自然に振舞うことになっている。なんとなく、男としてもう「あがった感」があり、多少のメタボなんか健康への害さえなければどうってことないと大人の余裕をかますことにもなっている。

結婚男子は悟りの境地に達したかのごとく、男としての新たなステージに立っていると考えるのは、間違いなく僕の妄想である。

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