以前、歌舞伎町の某ホストクラブに在籍する人気ホストの方に「狙った女の落とし方」についてレクチャーを受けたことがある。彼が言うには、いくらホストといえども世の中のすべての女性を確実に落とせるわけではなく、腕のいいホストほど"落ちやすい女"を見極める目に長けているとのこと。つまり、自分が落とせる女をシンプル且つ確実に落としていくことが、彼なりの恋愛必勝法らしいのだ。
なるほど。これは野球にも通ずる部分があると思った。いくらイチローといえどもピッチャーが投げるすべてのボールをヒットにできるわけじゃない。しかし、一流打者になればなるほど、"打てるボール"と"打てないボール"を見極める選球眼に長けている。つまり、ストライクとボールの見極めが打撃の基本。ボール球に平気で手を出す打者に一流打者はいないのだ。例外もあるけど。
そのホスト氏は女性のストライク(落とせる女)とボール(落とせない女)の見極めを選球眼ならぬ、「選女眼」と読んでいるそうな。彼は自身の経験と研究に裏打ちされた独自の選女眼を、僕にこう解説してくれた。
「女の子のお箸の使い方を見るんですよ。あくまでも傾向ですけど、お箸の使い方が下手な女の子は男の優しさに弱いというか、人から目いっぱい愛情を注がれることに飢えていることが多いんじゃないかって思うんです」
お箸の使い方の下手な女の子は愛情に飢えている。一見、めちゃくちゃな仮説に思えるが、そこには次のような彼独自の理論があるらしい。
普通、日本人は幼い頃、意識をしていなくとも、気づいたらお箸を使えるようになっているものだ。それはつまり、物心がつく前から両親がお箸の使い方を指導してくれたからであり、ほとんどの日本人は両親から基本的な食事作法を学んでいく。したがって、お箸の使い方が下手ということは、逆に考えれば幼い頃に両親の指導をちゃんと受けてこなかった可能性があるのではないかとホスト氏は考察しており、そこから「お箸の使い方が下手→両親の指導を受けなかった→両親の愛情が薄かった→愛情に飢えている→優しい口説きに弱い」という五段論法を展開しているわけだ。
正直、笑っちゃうぐらい強引な理論である。半分ぐらいは彼の偏見であり、極度の妄想もたぶんに含まれていることは誰が聞いても明らかだが、それでも彼はお箸理論をかたくなに信じ、それを自身の恋愛ビジネスに役立てている。
ちなみに、その他の選女眼としては「NHKの受信料を払っている女性は落ちやすい」や「新聞を購読している女性は落ちやすい」などがあるという。彼曰く、NHKも新聞も第三者からの執拗な勧誘を断われなかった結果という可能性が高く、すなわち「押しに弱いはずだ」と結論づけているわけだ。無茶苦茶だ。
とはいえ、これらの理論の真偽はともかく、ここまで色々なことを考えながら擬似恋愛を生業にしているという点については素直に感心した。恋愛とは男女の心のコミュニケーションであり、本来ならば余計な駆け引きなどをせず、女性を想う自分の心に正直になって、誠心誠意ぶつかっていくだけが理想である。
けど、33歳になった最近は「考える恋愛」も必要だと思うようになった。今までの恋愛に満足できていないのなら、考え方から根本的に変える必要がある。今までは「狙った女性を落とす」ことばかりを恋愛術だと考えていたが、本当はそれよりも「自分に落とせる女性を見極める」ことのほうが重要なんじゃないか。それは決して妥協ではなく、そうすることで結果的に「自分に適した最高の女性」を注視することにつながっていくとも考えられるのだ。
これは男性だけでなく女性にも当てはまる婚活の極意かもしれない。理想の結婚相手を探し、それを口説き落とすことばかりを考えるのではなく、自分のことを好きになってくれそうな人を見極めることで、結果的に自分にとって最適の結婚相手を見つけていく。最高の結婚相手よりも最適の結婚相手。人生のパートナーには最適という言葉のほうが似合っている気がするのだ。
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