オジッパリ男子の生態学もひとまず最終回である。30代独身男子の滑稽なまでの若作り隠蔽工作。それらは一見、年齢を甘んじて受け止めない醜い行為であり、ともすれば現実逃避と思われるかもしれないが、逆に言うと、それだけ男子は幾つになっても恋愛を欲し、モテたいと必死になっているということだ。オジッパリ男子は人間の普遍的なテーマである老化問題に真っ向から挑んでいる栄光なき勇者なのだ。

もちろん、僕も一級のオジッパリ男子であるがゆえ、自分に容赦なく襲いかかる老化問題と依然として混迷を極める婚活問題の狭間で、激しい葛藤を覚えながら日々を過ごしている。このまま三十路男子の単品状態が続くと、そのうち恋愛から隔離された妖精オジサンになってしまうんじゃないかという危機感が3日に1度ぐらいのペースで襲ってくるにもかかわらず、それでも心のどこかで「いやいや、俺はまだ若いから大丈夫。幸せな結婚ができるはずだ」と血迷いごとをほざいているのだ。

さて、そんな僕であるが、先日、新たな恋のチャンスに恵まれた。某食品メーカーで営業をしている友人のシンジ君から突然電話が入り、カラオケに誘われたのだ。

「今ちょうど女子大生二人組とカラオケにいるんだけどさ、男が俺しかいないんだ」

僕はダッシュで現場に向かった。貴重な出会いの場である。しかも、相手は女子大生。哀しいかな、それだけで微妙にテンションが上がった。わかっている。いい年してみっともないことは重々承知している。しかし、これは男の人情だ。生命活動が活発に行われているような、若草の薫り漂う女子大生。それ以上は何も言うまい。

「♪~ナーナーナナナー」

カラオケ店に着くなり、僕の目に飛び込んできたのはDJ OZMAの曲を振りつきで熱唱するシンジ君の姿である。タイトルがどうしても思い出せない。

ちなみにシンジ君は36歳独身である。しかし、僕と違ってオジッパリな隠蔽工作を一切施さない。小太りで薄毛、ファッションもユニクロ。誰が見ても完全なオジサンなのだが、それにも関わらず女好きだから少々厄介だ。身の程知らずというか何というか、堂々と若い曲を唄いまくっては何の抵抗もなく女子大生にアタックし、清々しいほどあっさり振られまくる。ある意味、彼はとっても自然な男なのだ。年齢を甘んじて受け入れ、それでもなお欲求に素直に従っているだけなのだ。

一方の僕はこの日も隠蔽工作の連続である。ファッションはかなり若い。髭の剃り跡も薄いファンデーションで隠した。隠蔽指数はかなりハイレベルである。

「うそっ、33歳なの!? 超見えな~い!」

室内でそんな甲高い声をあげたのは女子大生のユキ(仮名)である。大きな瞳と垢抜けた雰囲気がかなりかわいい。いわゆる当たりというやつだ。

「若く見えるだけやって。明るいところで見たらオッサンやもん」

そんな軽口を叩きながら僕はユキの真正面に座る。隣ではなく、あえて正面。なぜならユキに横顔を見られたくないのだ。横顔は照明が反射する面積が少ないため、肌の衰えを隠蔽しきれない危険性があるのだ。

『オジッパリ 横から見ると 年相応』(山田隆道嘆きの一句)

さらに僕は白い皿を自分の顔の真下に移動させた。こうすれば皿が照明に対するレフ板の役目を果たし、肌質の衰えを隠蔽できるらしい。何かのテレビで川島なお美が言っていたから、間違いないと思う。あの人もあの人で、色々考えているのだ。

ついでに言うなら、僕はカラオケのとき奥の席には絶対に座らない。若い頃は気にしなかったが、今は必ず出入口近くに座る。30超えるとトイレが近くなるのだよ。

しかし、そんな努力もカラオケという移り行く風俗の前では残酷な影を落とす。何が辛いって唄える曲がほとんどないのだ。いくら若作りを頑張ってもGReeeeNとかオレンジレンジとか、まったくわからない。いつまでたってもサザンやミスチルばっかり。チェッカーズは唄っちゃダメなのか。安全地帯はもう安全じゃないのか。

かくして、オジッパリにとってカラオケは鬼門となる。ひたすら女子たちが唄う最新ヒットソングを聴きながら「この曲いいよね~」と心にもない台詞を連発し、ご機嫌を伺うことになっている。その結果、メルアドの一つも聞くことができず、カラオケ合コンはお開きとなるわけだ。全国の独身女性諸君、オジッパリ男子をカラオケに誘わないでください。合コン会場は居酒屋が一番だと思います。

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