先日、知人の女性から「B型の人って変わっているって言われたらちょっと嬉しいの?」と唐突に訊かれた。最初は「なんだ、いきなり!?」と少々眉間に皺を寄せてしまったが、そのあとすぐ「きっとB型関連本かなんかに書いてあったんだろうな」と気を取りなおした。実際、僕もそんな記述を何度か読んだことがあるのだ。
さて、自分に置き換えてみる。B型の僕は他人から「変わっている」と言われたら嬉しくなるのか。うーん、どうなんだろう。僕の場合、ちょっとニュアンスは違うけど、子供の頃から母親に「変態」って普通に言われすぎて、今じゃ何とも思わなくなっちゃったなあ。感覚が完全に麻痺してしまったというか、慣れすぎてしまったというか、「山田さんって関西弁だね」って言われるのと同じぐらい「ああ、そう」って感じ。大阪出身なんだから当たり前である。B型の人間は何かと独創的で個性的な精神性を好む傾向があると一般的に言われているように、「俺はB型だから変人なんだ!」と自覚的になりすぎているだけだと思うのだ。
そう思うと、「変わっている」と言われて嬉しくなるのは、きっとその人がそれをあまり言われ慣れていないからじゃないか。大体、僕の周りにいる本当に変な人は血液型に関わらず、みんな自分のことを変だとは思っていない。ちなみに友人に40歳にもなって自宅の庭で真剣に油田を掘っている男がいるが、僕が「変なことしているね」って言っただけで、彼に「失礼なこと言うな! 俺はいたって普通だ!」って激怒されたことがある。つくづく人間の個性とは無自覚の中から生まれる。「自分、不器用ですから」と眉間に皺を寄せる男が不器用だった試しがないのだ。
また、学生時代の友人の一人息子はまだ6歳なのだが、真剣に「将来の夢はサイドカーレースのサイドに乗る選手」と瞳をきらきらさせながら語っている。当然、狙っているわけではない。あくまで無垢な童心の純な夢として、サイドカーのサイドに憧れている。まったく変わった子供だなと思ったものである。
余談だが、サイドカーレースは数あるバイクレースの中でも、昔からどうも腑に落ちなかった競技の一つだ。バイクを運転している人がすごいのはわかるが、サイドに乗っている人は何がすごいんだろう。サイドカーレースの表彰台を見ていると、サイドに乗っている人まで普通にメダルをもらうのが不思議で仕方ない。あれって、僕が乗っても一緒だよね? え、違うの? 何が? どこからともなくお叱りの声が……サイドカーレースに詳しい方々、本当にごめんなさい。
というわけで、僕は冒頭の知人女性にそんな個人的見解を告げる。すると、彼女は深く納得した声色で、こう言った。
「そういうことかあ。実はわたしの彼氏ってB型なんだけど、わたしに『変わっている』って思われたい願望が強くて面倒くさいんだよね~」
ああ。いるな、そういう奴――。僕の脳裏に十個以上の心当たりが浮かんだ。
何でも、その彼氏は自分で「俺はよく変わっているって言われるんだけど~」と語るのが口癖のわりに、知り合いに「ライバルは誰?」って訊かれたら「自分自身」と答え、「好きなタイプの女性は?」って訊かれたら「好きになった人がタイプかな」と答え、「いくつ?」って訊かれたら「いくつに見える?」と切り返し、セピア色の写真を見るとすぐにアートだと感銘を受け、海外に行っただけですぐに視野が広がると思っているらしい。おまけに履歴書の趣味欄に「人間観察・妄想」と書いていたとか。
「ね? なんか超~月並でしょ! しかも、まったくお酒飲めないのに、なぜか外では酒好きの豪快キャラって設定になっているんだよ!」
うーん。確かに月並である。ここまで他人に個性的だと思われたい願望がひしひし伝わってくるケースも珍しい。別に何が悪いってわけじゃないんだけど、それが自分の恋人だと思うとちょっと辛い。かくして彼女は現在、変人願望が強いわりに実際は月並系男子な彼氏といかに別れるか、あれこれ思案に暮れている最中らしいのだ。
月並系男子。考えようによっちゃ子供っぽくてかわいいんだけど、その場合、女性のほうも同じ価値観じゃないと厳しいと思う。かくいう僕も大阪出身ってだけで、女の子から「関西人っておもしろいよね」などと月並なイメージを抱かれることがあるが、あれは非常に困る。おもしろいかおもしろくないかなんて、出身地で決まってたまるか。関西人には自分のことをおもしろいと思っている人間が多いだけなのだ。
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