高校時代はバスケットボール部の主将だった。これは僕の中で、数少ない自慢の一つだ。従って、気になる女子の前でバスケをしているところを披露できれば、かなりのアピールポイントになるのではないかと勝手に思い込んでいたのだが、以前そういうチャンスに恵まれたとき、僕は不覚にも大失態を演じてしまったのだ。
今から数年前、僕は女子との出会いの場を求めて、街のバスケットボールサークルに入会しようと企てた。たまたま新メンバーを募集している某バスケサークルのHPを発見したのだが、そこに掲載されているメンバーの写真に心を動かされた。
かわいい女子が多かったのだ。
正直、絶好のチャンスだと思った。かわいい女子が多いバスケサークルなら、ごく自然に女子たちの前で僕のプレーを見せることができる。高校卒業以来、まともにプレーしたことはないが、バッシュをはいて、体育館で身体を動かせばバスケットマンの血が騒ぐはず。往年のプレーを身体が覚えているはずなのだ。
というわけで、僕は早速そのサークルに応募した。胸を高鳴らせて練習場所の区立体育館に向かう。すると、HPで見覚えあるメンバーがにこやかに迎えてくれた。
あら、本当にかわいい女子が多い――。僕は心の中で小躍りした。
なんで今までこういう出会いを実行しなかったのか。そういえば友人にわざわざ女子との出会いを求めて、興味のない料理サークルに入会した奴がいたが、奴の行動は非常に理に適っている。こっちのほうが合コンなんかより数倍健全で、金のかからない出会いじゃないか。僕はにやつきそうになる表情を必死でおさえながら先輩メンバーたちに自己紹介をすませ、早速プレーに参加することになった。
多少のウォーミングアップをすませ、いよいよ「5VS5」のゲームが始まる。
しかし、久々にプレーしてみて秒殺で気づいたことは「技術云々ではなく、とにかく僕は体力がない」ってことだ。酒や煙草に溺れ、お腹もゆるキャラになってしまっただけに、開始1分ぐらいで早くも息切れ。さらに全身からスプリンクラーのように脂汗が噴出し、顔面も死ぬ前みたいに蒼白していく。
はっきり言って、こんなんじゃ女子にかっこいいところをアピールできない。それどころか、初日で「情けないオッサン」のレッテルを女子たちに貼られてしまう。恋の予感など微塵もなくなり、後は笑い話の的になっていくだけじゃないか。
さらに数分後、僕はなぜか強烈な腹痛に襲われ、激しい便意までもよおしてしまった。前々からこのエッセイで何度も書いてきたが、僕はもともとお腹が弱い。ちょっとした刺激でやたらと大腸が悲鳴を挙げてしまう情けない体質の持ち主である。
従って、このゲームも便意をもよおした時点で過酷な試練に変貌した。僕は激しい腹痛と便意、そしてスタミナ切れから来る疲労と息切れに耐えながら、なんとか姿勢を低くたもって、ハーフタイムを待ち続けた。
「山田さん、もっと積極的に攻めていいですよ!」
他のメンバーが叫んだ。きっと僕が腰を低くしているので、周囲に気を使ってディフェンスばかりしていると思ったのだろう。けど、僕の真意はそうじゃなかった。 ただウンコを我慢しているだけだ。
次の瞬間、身長190cmはあろうかという大男が激しいドリブルで僕に突っ込んできた。強烈な体当たりを食らい、勢いよくコートに倒れこむ。腹痛と便意、疲労、息切れ、さらには全身をコートに強打。もしも本当に地獄があったら、きっとこんな感じなんだろう。子供の頃の想い出が一気に蘇ってきた。
「あ、ダメ……」
下半身から切ない何かがこみあげてきた。そして、その直後、区立体育館で繰り広げられた壮絶な闘いに、志半ばで終焉を告げられてしまったのだ。
数分後、僕はメンバーに深々と頭を下げ、トイレでパンツを洗った。一番可愛い菅野美穂似の女子が「次は漏らす前にちゃんと言ってくださいね」と優しくフォローしてくれたが、目は笑っていなかった。
こうして女子の前でのバスケットボールは僕の中のトラウマになったのだ。
山田隆道渾身の長編小説「赤ラークとダルマのウィスキー」がベースボールタイムズウェブサイトにてリニューアル連載中!
あの頃、虎は弱かった。
ダメ虎と呼ばれた阪神暗黒時代に生涯を翻弄された或る白髪のトラキチ。山田隆道が描く涙と笑いのベースボール浪漫!
山田隆道最新刊 全国書店などにて発売中!
山田隆道と小悪魔agehaの人気モデル・山上紗和によるコラボレーション作品。金、色恋、夢、人生……キャバクラを舞台に展開するキャバ嬢たちの幸せ探し。売れないキャバ嬢・リリコが駆け込んだ謎の占い部屋で、奇妙な占いババアに指導された「女の幸福論」とは!? 山上紗和が提唱する「小悪魔の幸福論」を山田隆道ならではの筆致で描いた自己啓発系小説の決定版です。
「Simple Heart~夢をかなえる嬢~」(ぶんか社)
作 : 山田隆道
監修 : 山上紗和
定価 : 1,200円(税抜)