今回はいつもと少し趣向を変えて、僕の甘酸っぱい恋愛の想い出を書き綴ろうと思う。えっ、誰も興味ないって? まあ、そこはみなさん大人になってくださいな。

さて、何を隠そう僕は中学・高校を共に男子校で過ごした。いわゆる6カ年教育というやつである。従って、当然のように全校生徒の大多数は女子とあまり縁のない生活を送っていた。一部のおマセな生徒たちは近隣の女子校と学校外で交流を持ち、それなりに青春を謳歌していたが、それでもほとんどの男子たちは六年間ほぼ恋愛から隔離されていたわけだ。

思春期の男子にそういった禁欲生活を強いるというのは、今から考えるとあまり健康的じゃなかったと思う。実際、登校中に痴漢で捕まった生徒もいたほどで、生徒たちの女子に対する渇望感は半端じゃなかった。休み時間ともなると、恋愛経験なんかほとんどないくせに、やたらと恋愛談義に花が咲くのだ。

もちろん、複数の童貞野郎たちが脳内だけで妄想する極めてヴァーチャルなラブファンタジーである。実経験が何にもないもんだから、恋愛対象となる女子はかなり高い確率で芸能人女子。特に高校時代、僕が一番仲良かったTくんは本気で裕木奈江に恋をしていた。裕木奈江。ああ、懐かしい。

Tくんの裕木奈江好きは常軌を逸していた。そもそもドラマ『北の国から』にゲスト出演していた裕木奈江を見て、そのあまりの可愛さに衝撃を受けたらしく、それからは寝ても覚めても裕木奈江のことばかり考えるようになったという。完全に一目惚れだったと、16歳のTくんは真剣に語っていたものだ。

もちろん、Tくんは童貞のうえ、今まで恋愛経験もまったくないという完全な無菌状態。だから、女子に過度な幻想を抱いていたのだろう。Tくんは裕木奈江の清純そうなロリータフェイスに童貞ならではの清らかな妄想を働かせ、本気で裕木奈江を「処女」だと思いこんでいた。

正直、僕は「んなアホな」と笑っていたが、Tくんはかなり本気だった。

「裕木奈江も普通の女の子なんやから、セックスぐらいしてるって」

僕が呆れ顔でそう言うと、Tくんは舌鋒鋭く反論してくる。

「そんなことないわ! 裕木奈江は間違いなく処女やって!」

ちなみに処女だと思う理由を聞いたところ、Tくんは胸を張って「勘や!」と言った。どうやら根拠はないようだ。何かのインタビューで裕木奈江がそういう発言をしていたとか、『噂の真相』みたいなゴシップ誌にそう書いてあったとか言うのならまだわかるが、Tくんは裕木奈江のイメージだけで勝手に「裕木奈江処女説」を唱え、「あれはまだ男を知らない顔や」と頑なに信じていたのだ。

しかし、1993年、僕らが17歳になったときに異変が起こった。

連続ドラマ『ポケベルが鳴らなくて』で裕木奈江が略奪愛的な役柄を演じたことがきっかけとなり、週刊誌から「男に媚びる嫌な女」などと、愛しの奈江ちゃんがバッシングされるようになったのだ。

Tくんは裕木奈江を心配するあまり、バッシング記事に全部目を通した。普段は絶対に買わないような女性週刊誌やオヤジ系実話誌も買い漁り、そこに書かれている嘘かホントかわからないゴシップ記事ですらも、童貞ならではのピュアハートですべて鵜呑みにしていった。

その挙句、Tくんは根拠に乏しい裕木奈江の恋愛遍歴や下半身事情の記事(あくまで当時の噂です)を呼んで、ショックのあまり教室で号泣!!

今度は逆に僕のほうが「あんな記事嘘やって。きっと裕木奈江はまだ処女やと思うよ」とTくんを慰めるようになってしまった。

その後、高校を卒業し、Tくんとはすっかり疎遠になってしまったが、1999年に裕木奈江がヌード写真集を発売すると、再び彼のことが心配になったものだ。あのヌードにTくんは一体どんな感想を抱いたのだろうか。

男子校といういびつな環境がもたらしたTくんの初恋。先日、彼が結婚したという報せを聞いて、急に懐かしくなった。おまけに驚いたことに、奥様の名前は奈江だという。これもシンクロニシティの一種か。そういう偶然ってあるもんなんだなぁ。

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