恋愛において言葉とは大切なコミュニケーションツールの一つだ。僕も若い頃は寡黙な男のほうが女子にモテると思っていたが、実際は口がうまくてお喋りな奴のほうが圧倒的にモテると思う。黙っていても女子が寄ってくるイケメンくんは別だろうけど、顔面を武器にできない市井の男は"話術"という名の技術を駆使して、女子を落とすしか方法がないのだ。

さらに、いったん女子と恋愛関係に陥ると、ますます顔面の良し悪しは恋仲を維持するうえで効力を失っていく。イケメンは三日で飽きる。それならば、有意義な会話を繰り出すことで女子のハートを常に刺激できる饒舌な男の方が飽きないわけだ。

かくいう僕は生来のお喋り好きである。子供の時からペラペラペラペラよく口が回るもんだと大人たちから感心されていた。しかし、なぜかモテない。こんなに饒舌にも関わらず、まったく女子のハートを射止めることができないのだ。

理由は多分、僕の声質にあると思う。僕は生まれつき声が高いだけじゃなく、常に鼻が詰まったようなアニメ声の持ち主。セクシーフェロモン指数は限りなくゼロに近く、いくら女子の前でカッコ良く夢を語ったり、甘い口説き文句を耳元で囁いたところで、ヘリウムガスを吸ったドラえもんが喋っているみたいになってしまう。

さあ、想像してみよう。麒麟の川島くんみたいな渋いダンディボイスで「愛してるよ」と囁くのと、ヘリウムドラちゃんが「愛してるよ」と囁くことの違いを。

……モテるわけねえ!! 大丈夫か、ドラえもん!?

さて、そんなことを考えていると、友人のFくんのことを思い出した。

Fくんは身長180cmのスーパーイケメン。10代の頃からモデルをしており、30歳になった現在はモデルから俳優に転身したいと日々演技レッスンにも励んでいる。イケメンを鼻にかけた様子もなく、礼儀正しく物腰も柔らかい。明るく陽気な社交的キャラで、誰からも好かれる好青年なのだ。

しかし、Fくんはなぜかモテない。男の僕から見てもモテ要素がたくさん詰まっているはずなのに、なかなか彼女ができない。や、正確に言うと、第一印象は女子受け抜群で、わりと簡単に彼女はできるのだが、その後なぜかすぐに振られてしまうという惨劇の繰り返し。つまり、恋愛維持能力が極めて低い男なのだ。

僕は最初、その理由がわからなかった。一体、Fくんの何が悪いというのか。イケメンだけど、いざ付き合うと無口でつまらなく、言葉のコミュニケーションに欠けるということか。いや、そんなことはないと思うんだけどなぁ。僕が知る限り、Fくんって結構よく喋るイメージなんだけど……。

そこで僕は、以前Fくんと一回だけHしたことはあるが、その後付き合うことは丁重にお断りしたというアパレル店員女子に「Fくんの何が気に入らなかったの?」とダイレクトに質問。すると、彼女はこう答えた。

「だって、何言ってるかわかんないんだもん」

ガーン!! なるほど、そういうことか!!

僕の目から特大の鱗がボロボロと落ちまくった。言われてみればそうだ。Fくんは舌が短いのか、口の開きが悪いのかはわからないが、とにかくめちゃくちゃカツゼツが悪い。以前、僕の家に泊まりに来た時、「顔洗っていい?」と言いたかったんだろうけど、僕には「瓦割っていい?」と聞こえたため、困惑したぐらいなのだ。

「Fくんってデートしている時にずっと『野茂時効』って言うんだよ。最初、『野茂ってなんか事件起こしたっけ?』って戸惑ったんだけど、よく聞いてみると『飲みに行こう』って言ってたみたい。ちょっと付き合うのは厳しいよね」

いやぁ、Fくん辛いなあ。正直、Fくんは何にも悪くないし、それさえなけりゃ素敵な男なのに……。でも、友達付き合いならまだしも、恋愛となるとかなり辛いのだろう。やはり言葉とは男女にとって大切なコミュニケーションツールなのだ。

ちなみにFくんは先日、ある俳優オーディションを受けたらしい。そのとき、演技審査で一生懸命台詞を熱弁したのだが、審査員に「君はさっきから一体何を喋ってるんだ?」と言われて落とされたとか。合掌。

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