前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

結婚式の準備とは、これから夫婦になろうとする男女にとってのある種の修業だと思う。なにしろ平均して約半年間という長い時間をかけて、若く未熟な男女二人で様々なことを相談しあい、悩みながら決定していくことが何かと多く、さらに二人で協力して地道に作業していくことも数多くある。一般的に結婚式の披露宴でのケーキカットを夫婦の「ファーストバイト」と呼ぶが、いやいや本当の意味でのファーストバイト、つまり二人の最初の共同作業は結婚式の準備そのものだろう。

僕とチーの場合もそうだ。一口に結婚式の準備といっても、式と披露宴のことだけを考えればいいというわけではない。これはあくまでも僕らの場合だが、披露宴の後に二次会も開催する予定だし、式の1カ月前には引っ越しも予定している。以前はそれに加えて、結婚式終了後すぐに新婚旅行に行く計画も練っていたのだが、そこまで準備するのはさすがに時間がないということで、ひとまず断念した。新婚旅行については諸々が終了した後、少し落ち着いてから、あらためて仕切り直すつもりだ。

さて、まだ若い男女がそんな共同作業に追われる忙しない日々を送っていると、当然お互いの性格の様々な側面がより鮮明に浮かび上がってくるわけで、それは僕にとっても例外ではなかった。チーと一緒に作業を進めていると、僕個人としてはチー特有の"スローペースぶり"が気になって仕方ない。これは彼女自身も子供の頃から自覚していることらしいのだが、チーは何をするにもペースが少し遅いのだ。

最初、僕はこれをチーのA型ならではの几帳面さによるものだと思っていた。僕のような大雑把なB型と違って、チーはひとつひとつの準備をきっちり確認しながら丁寧に仕上げていくタイプだからだ。

例えば結婚式の招待状の宛名書きを例に挙げるとわかりやすい。チーが子供の頃から書道を嗜んでいたこともあり、僕らは招待状の宛名書きを業者に頼まず、チー本人が書くことを選んだのだが、これが驚くほど丁寧で慎重な作業ぶりだったのだ。

素直にすごいと思った。チーは一枚一枚の招待状の宛名欄にあらかじめ鉛筆などで薄く縦線を引き、縦書きの文字が斜めにずれないように工夫したうえで、さらに別の用紙に何度も宛名の名前と住所を書く練習をして、その文字列をようやく書き慣れてから、いざ本番の書に挑む。もちろん、その完成度も作業過程に違わぬ美しさ。さすが書道歴10年以上及び几帳面なA型だけのことはある。

だからして、作業ペースが遅いのは仕方ないのかもしれない。仕事が丁寧な職人みたいなものだ。大切なのはスピードではなく、仕上がりという考え方なのだろう。

ところが、そう自分を納得させたのも束の間、チーの日々の生活ぶりをじっと観察してみると、何かと作業が遅いことの理由として、もう一つ別の要素を発見した。 それは例えば、朝のチーの動きを紹介すれば一目瞭然だ。

  1. 目覚まし時計が鳴ったので、それを"丁寧に"止める。
  2. その後、約5分間ボーっとする。なお、チーは布団の中で完全停止。
  3. トイレに行く。もちろんトイレまで道のりを超ゆっくり歩く。
  4. トイレから出て洗面所の前で約5分間ボーっとする。
  5. 顔を洗う。もちろん、時間をかけてめちゃくちゃ丁寧に。
  6. その後、約5分間ボーっとする。
  7. 歯磨きをする。もちろん、めちゃくちゃ丁寧に。10分は磨いています。
  8. その後、約5分間ボーっとする。
  9. 化粧開始。
  10. 途中、何度かボーっとする時間を数分ずつ挟む。

ここまで書けば、どれだけ勘の悪い方でもお気づきのことだろう。要するに我らがチー様は、各行動の間にやたらと「ボーっとする時間」を挟むのだ。

傍から見ていると、実におもしろい動きである。食事をしているときのチーもそうだ。一回の食事の間に何度か動きが止まっているときがある。さしずめ電波の悪い中で再生されたインターネットの動画である。ちょこちょこと一時停止を繰り返しながら映像が進んでいく、あのなんとも煮え切らない感じがまさにチーの動きなのだ。

そう考えると、チーは決して動きが遅いというわけではないのかもしれない。正確には動き自体は人並みの速度なのだが、その動きと動きの間に一時停止を何度か挟むから結果的に遅くなるということなのだろう。

なお、この件についてチーに問いただしたところ、彼女自身も自分のそんな習性に気づいているようで、なぜかはにかみながらこんな逸話を打ち明けてくれた。

「以前、ソファーに座っただけなのに、気づいたら2時間経ってたことがあった」

つくづく不思議である。無意識に意識が飛ぶということか。さすがカレーを食べている最中に居眠りしただけのことはある。それもまた愛すべきチーらしさだ。

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