前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

結納が終わると、いよいよ結婚式の準備が本格化する。僕とチーの場合はすでに日程と式場が決定しているので、次に着手しなければならないのは衣装選びだ。

といっても新郎の衣装なんてしょせん刺身のツマであり、肝心なのは新婦のウェディングドレスとお色直し後のカクテルドレスを選ぶことだ。一般的にこれらの衣装は結婚式の華とされており、新婦の両ドレスが決定したら、それに合わせて新郎の衣装を選ぶことになっている。結婚式とはつくづく新婦が主役なのだ。

だからして、世の多くの新郎はこの衣装選びで心身が疲弊するという。

ただでさえ洋服選びが大好きな女性だ。それが一世一代の結婚式となったら、ますます気合いが入って当然だろう。中には数か月間かけて何十着も試着して、じっくり熟考を重ねた末、それでもなかなか衣装が決定しない新婦もいるらしい。それに新郎がすべて付き添うことを考えると、うんざりして当然かもしれない。

しかし、僕らの場合は違った。いとも簡単にチーの両ドレスが決まったのだ。

その理由はたぶん僕にあると思う。結婚式場が提携するドレスショップで行われた衣装選びのとき、僕はチーを差し置いて大はしゃぎ。「これはダメ」「あれがいい」と僕が率先してチーに似合いそうなドレスをリストアップしたことで、チーは数少ない候補の中から効率的に決定することができたわけだ。

僕の中でのこだわりは「チーの肩を出す」ということだった。基本的にチーは骨格がしっかりしており、普通の女性より肩幅がある。それが彼女にとってはコンプレックスらしく、当初は肩を出すことに難色を示していたが、僕が「コンプレックスは隠しちゃいけない。ヅラをかぶっているハゲより丸坊主のハゲのほうが潔いだろ? それと一緒だ」と説得すると、渋々折れてくれた。屁理屈である。

果たしてそれを踏まえてどんなドレスを選んだのかは結婚式当日まで明かすつもりはないが、僕としては文句なしだ。たぶんチーも気に入っていると思う。ドレス姿を撮影した写メを見ながら、いつもニヤニヤしているのだから間違いないだろう。

ただし一つだけ、結婚式までの課題が残った。それはドレス用の髪形である。

これは前から薄々思っていたのだが、なぜに多くの女性はウェディングドレスを着るとき、髪をアップにしてカチッと固めようとするのだろう。チーの衣装選びのときもそうだった。担当の女性店員が勝手にチーの髪をアップに固めたのだ。あたかもドレスにはアップと最初から決まっているかのような、迷いのない行動だった。

断っておくが、僕はアップが無条件に苦手というわけではない。世の中にはアップが似合う女性もいるだろう。しかし、その一方でどの髪形もそうであるように、それが似合わない女性も存在しているわけで、そういう女性は無理にドレス用の髪形をしなくてもいいのではないかと思ってしまう。これは僕の意見だ。

ちなみにいわゆる"夜会巻風"に髪をカチッと固めたスタイルに関しては、僕ははっきり苦手だと断言できる。ウェディング用のヘアカタログを見ても、夜会巻のモデルにときめいたことが一度もない。香里奈だって佐々木希だって北川景子だってそうだ。夜会巻にすると一気にげんなりしてしまう。もし日本に『夜会巻協会』みたいなものがあったら、僕は間違いなく目の敵にされるだろう。ごめんなさい。

そして、僕が思うにチーは髪を固めないほうが似合う女性だ。生まれつき髪質が硬いので、ただ下ろすよりもどこかで結わえたほうがまとまるとは思うが、結わえるにしても全体をふんわり柔らかくするとか、あるいはあえてルーズに結ぶほうが絶対に似合う。いつもチーを見ている僕が言うのだから間違いない。衣装がドレスであろうが着物であろうが、彼女が一番かわいくなる髪形を望むのは男の本能だ。

しかし、それなのに世のヘアメイク諸氏は、なぜか女性がウェディングドレスを着ると勝手に髪形を固めてしまう気がする。僕としては何もウェディングドレス用のカチッとした髪形にこだわらず、いつもの髪形でウェディングドレスを着たっていいと思うのだが、世間の見解は違うのだろうか。もしや女性はせっかく衣装を非日常的にしたのだから、髪形も非日常的にしたいと考えているのかもしれない。うーん、なんだかなあ。僕としては「髪形は日常、衣装は非日常」がいいんだけど。

衣装が決まった後、僕はそんな見解をチーに説明した。すると、チーは「結婚式までまだ時間があるから、髪形をどうするか考えるね」と言った。

うん、それもいい。確かにまだまだ時間はたっぷりあるんだから、色んな髪形を試したらいいだろう。しかしその一方で、僕は内心こうも思っていた。

いつものチーの髪形でいいんじゃないかなあ――。

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