α7 IIIの後継となるα7 IVが、2021年12月17日に発売されました。α7 IIIからは4年近く、α7R IVから2年以上……長かったですが、かなり強力な内容になっています。筆者が特に注目しているポイントをまとめてみます。
扱いやすさと高画質を両立、“ちょうどいい”3,300万画素センサー
CMOSセンサーの有効画素数が約3,300万画素に、最大記録画素数も7,008×4,672ピクセルとなりました。α7 IIIの約2,420万画素からワンランクアップ。最新のカラーフィルターを採用し、色再現性も向上しています。像面位相差AFの測距点も693点から759点に増えて、AF性能も強化されています。
ソニーのα7 IIIなどに搭載されている約2,420万画素センサーは非常にデキがよく、データサイズ的にも扱いやすいため、α7 IIIのベストセラー/ロングセラーに大きく貢献したと思いますが、そろそろステップアップしてもいいかなと感じていたところですので、大歓迎です。画素数が多くなると高精細な写真が撮れる一方で、データ量が大きくなるため、データのハンドリングが懸念されるところです。
筆者としてはα7R III(約4,240万画素)をはじめて使った2019年には、当時使っていたPC環境(Core i7-8750H、6コア12スレッド)では少し負担に感じたものですが、それからもう2年半経っています。クリエイターPCに搭載されているCPUの処理性能は2倍くらいになりましたし、ストレージのコストも下がってきていますので、客観的に見ても3,300万画素くらいならばデータのハンドリングは問題ないかなと感じます。
また、センサーサイズが変わらないままの高画素化では画素ピッチが小さくなりますので、ダイナミックレンジや高感度撮影時のノイズに影響する可能性があります。もっとも、このあたりは技術で解決できるものです。同じ画素数、画素ピッチだからといってノイズの出方も同じと考えるのはあまりにも乱暴です。すでにα7 IIIで約4,240万画素、α7 IVで約6,100万画素、α1で約5,010万画素という高画素の実績があるだけに、3,300万画素でそのあたりは心配無用でしょう。技術的にもちょうどいい具合ではないかと感じます。
画像処理が8倍に高速化、操作のレスポンスも向上
見逃せないのが、画像処理やシステムの制御を司るプロセッサーの進化です。画像処理エンジンは「BIONZ X」から「BIONZ XR」へとパワーアップしました。従来は「フロントエンドLSI」と連携して行っていた画像処理をBIONZ XRのみでできるようになり、ソニーによれば、処理性能は従来比で8倍に向上しているということです。詳細は不明ながら、ユーザーインタフェース、ネットワーク、ファイル管理などの処理を分散できるようになったことで、リアルタイム処理の負荷が大きくなっても快適な操作レスポンスを維持できるということです。
今やデジタルカメラは「撮るPC」のようなもので、こういうフロントエンドLSIや画像処理エンジンの性能は、デジタルカメラにとってはかなり重要な部分です。普及機のα7Cではちょっと物足りないと感じているところでもありますが、高画素になってデータ容量が大きくなると同時にプロセッサーが強化されているのは心強いところです。
背面液晶モニターは待望のバリアングルに
背面の液晶モニターはバリアングル仕様になりました。バリアングルについては以前にも書いたとおり、今のミラーレスカメラに欠かせない要素だと感じていますので大歓迎です。
液晶の表示ドット数は「少しマシになった程度」です。α7R III(初期型=ICLE-7RM3)の144万ドットくらいまではがんばってほしかったところですが、確認用にはより精細な表示になったEVFがありますので、許容できる要素ではあります。EVFは筆者はあまり使いませんが、これが強化されたことはプラスには違いありません。
Wi-Fi 6/USBビデオクラス対応でPCとの親和性アップ。USB PDも
αシリーズとしてはじめてWi-Fi 6に対応したこともうれしい点です。Wi-Fi 6は電波が混雑した状況でも遅くなりにくく安定した接続ができる仕組みになっているので、無線でのリモート撮影がより快適になるはずです。
UVC(USB Video Class)、UAC(USB Audio Class)に対応しているのもポイント。別途ツールやキャプチャデバイスを経由せず、α7 IVをPCのWeb会議用カメラ、マイクとして利用できます。Vlog用のZV-1やα7Cには備わっている機能ですが、α7 IVもこれでPCやスマートフォンとの親和性がグッと高まりました。
また、USBの拡張電源仕様であるUSB PD(Power Delivery)に対応しているのも見逃せません。9V/3A(27W)または9V/2A(18W)に対応するものが推奨されています。市販のUSB PD対応ACアダプターやモバイルバッテリーなどを接続しての充電/急速充電が可能です。撮影中も、USB PD対応のACアダプターやモバイルバッテリーを接続していれば、α7 IVを給電しながら(バッテリーを消耗せず)使えます。
高速書き込みのCFexpressに対応
α7 IVのメモリーカードスロットは、デュアルスロットです。どちらのスロットもSDメモリーカード(UHS-II)対応ですが、スロット1のみは、より高速なCFexpress(Type A)も使えます。この点ではα7R IVやα7S IIIを超えてしまいました。
CFexpress(Type A)カードはソニーからも出ていて、最大書き込み700MB/s、最大読み出し800MB/sです。同じくソニー純正のSDメモリーカードは最大書き込み150MB/s、最大読み出し277MB/sですから大幅に高速です。
メモリーカードへの書き込みが速くなると、バッファが速く開放されますので、連写を長く続けられます。筆者もポートレートなどで自然な表情を撮りたいというときによく連写しますが、α7CとSDメモリーカードの組み合わせだとかなり待ち時間が長いので、このあたりのテンポが良くなるのはうれしいですね。
また、メモリーカードへの書き込み中は、フルサイズとAPS-Cクロップの切り替えができません。APS-Cクロップを実質ズームとして使っている筆者にとっては、この待ち時間が短くなるのはとても大きいです。
ただし、CFexpress(Type A)は、メモリーカードの価格も高いのがネック。ソニーストアの直販価格は、160GBで50,600円です。10〜15%引きで買えることがほとんどだと思いますが、それでも容量単価はSDメモリーカードの2倍以上します。すでに普及しているSDメモリーカードを使いつつ、CFexpress(Type A)にもステップアップできる……という点で、両対応にしてくれたのはありがたいですね。
整理されたタッチ操作対応メニュー。4K動画撮影も
新しいメニュー構造も魅力です。メニュー構造はα7S IIIから導入されたものですが、その後に投入されたα7Cでは、以前のメニュー構造のままでした。「マイメニュー表示」などを利用してうまく使えてはいますが、新しい画面のほうが整理され、わかりやすく、希望の機能にアクセスしやすいのは明らかです。今回はさらにタッチによるメニュー操作にも対応しています。
ただ、モデルごとにこうしたメニュー構造が違うのはいかがなものかとも思います。ファームウェアのアップデートなどで統一することはできないのでしょうか……。
動画撮影に関しては専門外にはなりますが、動画機能もかなり進化しています。30p/24pの4K映像は、全画素読み出しによる7K相当の情報からオーバーサンプリング出力ができるので、ジャギーなどが少なく高い解像感の4K映像が出力できます。APS-Cクロップ状態では4K/60pの記録も可能です。
フルサイズ約3,300万画素の全画素読み出しを4K/60pで処理するには画像処理エンジンの負担が大きすぎることからこのような制限になっていると思われますが、どちらも選択できるのはメリットでしょう。
4Kで最大2.5倍、フルHD最大5倍のスロー記録、α7S IIIから採用された色を美しく見せるスキントーンを中心としたルック「S-Cinetone」なども試してみたいですね。圧縮率が高く低容量で高画質を記録できるMPEG-H HEVC/H.265コーデックに対応したことも魅力に感じます。
実売約33万円は高いか? 安いか?
ソニーストアでのα7 IVの直販価格は、クーポンなどの割引なしで32万8,900円(ボディ単体)です。これだけ聞くとあまりに高いようにも見えますが、機能的にはα7 IIIから全面的に、はるかに強化されており、十分対価に見合う内容です。
実売価格ではキヤノンのEOS R6と同じくらいであることも考えると、むしろ価格設定はがんばっていると思えます。α7 IIIの後継機種のつもりで考えているとちょっとハードルの高さを感じますが、上位モデルとして見ると納得できるのではないでしょうか。
さて、筆者が買うか買わないかの問題……。欲しいと思っていた機能はほぼほぼ搭載されているので、資金に余裕があれば即買いしていたところではあります。しかし、そもそもα7Cを買った経緯が「バリアングル液晶が欲しくてα7 IVを待ちきれなかった」、「α7 IVはもしかしたら出ないんじゃないのかと思った」というもので、今はα7Cで足りています。執筆時点で納期が3月上旬以降と、注文してもすぐ手に入らない状況であることもあり、ひとまずは様子見しています。