「『3年で辞める若者』『3年は続けろ』と言われるけれど、現実に3年前後で退職・転職した人たちは何を考え、どう過ごしているか」がテーマのこの連載。

会社に入ると選択を迫られる機会が多くありますが、中でも退職や転職という選択には、少しばかり勇気が要ります。

特別な人たちの自己啓発的アドバイスではなく、我々パンピーがリアリティをもって参考にできる人たちから話をうかがっていきます。

今回は「タイで子どもに勉強を教える26歳の女性」にインタビューしました。筆者とは互いに就活生だったとき、知り合いました。まだタイで働いていますが退職は決まっていて、帰国後の進路を考えています。

現職と退職理由

--まずは職業と職歴を教えてください

タイのバンコクで現地にいる日本人の小中学生に国語と社会を教えて2年です。

--特殊な経歴ですが、なぜ現職を辞めるんですか

職場環境がよくないからです(笑)。閉鎖的な感じがあり、新人育成の考えがなく、ここにいてもしょうがないと思うからです。新卒就活に失敗した結果、海外にいきたいという気持ちが先行してここに来て、いろいろと思います。

--仕事のなかでやりたいことはできていたんですか

タイには来たくて来ました。

仕事内容でいえば、教育について深く知りたいと思い、小中学生を対象として教えることを決めました。でも実際にやってみると、子どもに対する教育ではなく、学問を教えたかったんだと感じました。日本語教員資格や教員免許状があると優遇されますが、日本で教員をしても同じで、子どもに接することに耐えられないと無理な仕事です(笑)

--職場環境が好ましくなく、やりたいことも微妙に違うと気付いたことが理由ですね。逆に得たものはありますか?

英語やタイ語を使う日常なので、語学に対して寛容というか、積極的になれました。しっかりした勉強はしていませんがトリリンガルを名乗るのに抵抗はありません。

タイでの生活と仕事について

--突っ込んだことを訊きますが、収入はどれくらいありますか

タイ通貨で約5万バーツ(日本円で17万円くらい)です。タイの大学新卒者で平均1万5,000バーツなのでもらっているほうですが、日本人の現地採用者では平均的だと思います。

屋台は安くあがりますが、レストランなどに行くと日本と変わらない値段だったりするので、お金が貯まるかというと……。

--それでも不自由なく生活はできているわけですね。ちなみに家族からの反対はありましたか

親は「東南アジアのなかでは働きやすく、暮らしやすい。歴史的差別もなく、親日国なので安心だ」と言ってくれました。間違いとは思いません。

--実際に生活をしてみて、どうですか

海外暮らしに憧れてはいたものの、旅行と住むことは全然違うと1年目に学びました。逆に日本の異常性も優れた点もよく見えます。

例えば日本の飲食店などの接客はもっとテキトーでいいと思います。お客さんもそこまで丁寧にされることに慣れず、寛容でいてほしいです。表面上は笑っていますが不満を抱いている人が多いので、そこは諸外国を見習うべきです。日本は何事でもサービス過剰。もちろん良いところでもありますが……。

--確かに特にサービス業などで日本は特殊な部類になるんでしょうね。日常生活はやっぱり仕事に関わりますか?

海外での現地採用に興味がある人の場合、その国が好きでいられるかが仕事を続ける上での一番のコツです。まずは旅行で見学をし、人材会社などで話を聞くのがいいです。あと、現地人と同等に働く会社はともかく、日本人だらけの会社は結局日本人社会に絡めとられるので注意です。海外とはいえ、田舎の狭い社会で暮らしている気にすらなります。

タイで働いて見える将来について

--話は少し変わって、仕事をするうえで将来などに不安を感じたことはありましたか

自分よりも長くタイで働いている人たちをみて、現地採用だとキャリアアップが望めないことに気付いてから不安に思うようになりました。

転職に関しては、日本には海外経験を良い経験とする会社と、遊びの延長と捉える会社があるそうなので不安もあります。少なくとも語学は生かして仕事がしたいです。

タイで働くに至るまでの就活について

--あらためてなぜタイで先生をすることになったのか知りたいのですが、就活はどのようなものでしたか

無能さん(筆者のこと)と同じで、2011年、震災の年に新卒就活をしました。

もともと教職をとっていて、震災の影響で大手企業の受験時期が軒並み延期になったため、その間に教育実習を受けました。また、大学院受験も考えていました。多くを平行してしまったことや、『大手病※』にかかっていたことで、結局うまくいかずに既卒になりました。それから海外求人サイトをみて、今の職に就いています。

(※大手病:就活生が大手企業しか受けないと意固地になっている状態)

--順風満帆ではない就活を経験した人間として、就活生にアドバイスするとしたら何でしょうか

無能さんが書いた『凡人面接戦略』(中経出版)を読め、ということです。

「アピールポイントがない就活生がどうやって複数内定をとるか」が現役就活生とほぼ同じ視点で書かれた本ですが、そこにある「やるべきこと」をやらず、「やってはいけないこと」をやったのが既卒になった原因だと今は思います。

私は自分の好きなものを扱っている大企業ばかりを受けました。大学生は自分の実力を高く見積もる傾向があり、そういうのは一度叩き潰されないとわかりにくいものです。

自分に実力があると思う人も『凡人内定戦略』を読んで、それでも考えが変わらなければ、鋼の心で進めばいいと思います。成功することもあるでしょうし、ぶっつぶされれば嫌でも考えは変わります。

--はからずも拙作をご紹介いただいてしまい、ヤラセが疑われてしまいますね

もう1つ、伝えたいのは、キャリアビジョンは新卒1~3年の間で変わりやすいことです。

新卒のときは「一生勤める会社を探す」という大きな気持ちになりますが、会社は生き物で、抗えない問題があったり、一緒に働く人はもちろん、異動や職務によっても意欲が増減します。

特に女性は、バリキャリ志向の人でも、家庭を重視したくなるかもしれません。

私の場合は「男性並に働く!」と考えていたのが、たった3年足らずで「女性として家庭がほしい、自分の体力や子どものことを考えてストレスを減らして働く」と思うようになりました。

大学生の頃は20代後半の自分すら想像できませんが、「社会」とやらに出て会社勤めをすると60歳くらいの人までいるので、自分はこうなりたい、こうなりたくない、みたいなものが見えてきます。

ぜひ、この道だけとは決めず、柔軟に対応してほしいです。

(後編は10月27日掲載予定)

※画像は本文とは関係ありません


武野光
平成2年生まれ。「TOEIC未受験」「サークル未所属」「友達の数が片手未満」といった状況から就職活動に挑み、その体験から得た教訓をつづったブログ『無能の就活。』が大きな反響に。現在はサラリーマンと兼業で作家活動を行う。著書に『凡人内定戦略』『凡人面接戦略』(中経出版)、『就活あるある ~内定する人しない人~』(主婦と生活社)など。マイナビ2016でも、マンガ『キミ! さいよー』(石原まこちん/小学館)内で、一言コラム平成ベビーの就活用語辞典掲載