漫画家・羽海野チカによる大ヒット漫画『3月のライオン』。将棋界を舞台に、プロ棋士である1人の高校生・桐山零が、壮絶な過去を持ちながらも周囲の人間との関係を深め、成長していく。個性豊かなプロ棋士達、零と交流を深める下町の川本家の姉妹たち、零の育ての親である棋士・幸田家の家族など、それぞれのキャラクターの背景や思惑がより合わさった人間ドラマが2部作として映画化され、すでに前編が3月より上映中、後編も4月22日より公開となる。

主な舞台となる川本家、そして将棋の対戦の場はスタジオにセットを組むのではなく、実際に人が住んでいる家を使うなどロケーションにこだわった同作。交渉の手間などもかかる上に撮影にも制限がかかるが、それでもこだわったのには理由があった。

その場にある歴史も要素に

――注目してほしい部分としてロケーションや、小道具まわりを挙げられていました。やはりセットとは違うものでしょうか。

ロケーションは本当に注目してほしいですね。零の部屋とか、川本家の3姉妹の家とか、ものすごくこだわって探して、奇跡的に見つかった。どんなに面白い物件があっても、撮影できるかというとそうではなくて、ちゃんと交渉していかなければいけないわけで。快く貸して下ったからこそ、撮影として成り立つわけで。

今回はすごく難しい物件が多かったですが、制作部のスタッフがいい物件を探してくれたおかげで、僕たちも思う存分撮影ができました。もちろんセットで全部作ることもできるんだけど、その家には柱の傷があったりと、暮らしてきた人たちの汗が染み込んでいる。その場にある歴史も映画のプラスアルファの要素になっていく。

それが、力のある原作に向き合う時に、僕たちが現場で見つけてきた映画ならではの武器になっていけると思います。本当にこの子たちいたんじゃないか、前から暮らしていたんじゃないかと、想像できる空間になるんですよ。将棋会館も実際に使用させていただくことで、その歴史の力を借りるという点もありました。

――新人王決定戦や後編の対局など、ユニークな場所での対局もありましたね。

将棋も簡単に言えば、和室で向き合って指し合うだけですから、棋士のコンディションに影響が出るような屋外は好まれないんですが、それぞれの場所にふさわしい品格や場を探し出してきて、映像の時にただの四角四面にならないように工夫しました。一人一人、指し方にも個性が出ると思うし、こだわっているし、音自体も細かく。いろいろやっていますので。

――そういったロケーションへのこだわりも、やはり原作をより三次元にする際の試みだったのでしょうか。

やはりこれだけの原作だと、比べられて見られてしまうと思うんです。「原作と違うよね」って。本当は真っ白い気持ちで両方見てもらえるのが一番嬉しいんですが、そういうところからどう離れてもらえるのか、どうやって没入させようかなという試みは大事になってきます。時間を忘れて観てもらいたい、素直に映画と向き合ってもらえると嬉しいなと思って。そのためにいろいろな工夫をしてはいるので。伝わるといいなと思うんですよね。

■大友啓史
1966年生まれ。岩手県出身。1990年にNHK入局、1997年から2年間L.A.に留学し、ハリウッドで脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、NHK連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01~04)、『ハゲタカ』(07)、NHK大河ドラマ『龍馬伝』(10)などの演出、映画『ハゲタカ』(09)の監督を務める。 2011年にNHKを退局し、株式会社大友啓史事務所を設立。『るろうに剣心』(12)、『プラチナデータ』(13)を手掛ける。2部作連続公開した『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)が2014年度の実写邦画NO.1ヒットを達成すると共に、ファンタジア国際映画祭観客賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞、日本アカデミー賞話題賞など国内外の賞を獲得し、世界的にその名を知られる。近作は『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『ミュージアム』(16)など。

(C)2017映画「3月のライオン」製作委員会