漫画家・羽海野チカによる大ヒット漫画『3月のライオン』。将棋界を舞台に、プロ棋士である1人の高校生・桐山零が、壮絶な過去を持ちながらも周囲の人間との関係を深め、成長していく。個性豊かなプロ棋士達、零と交流を深める下町の川本家の姉妹たち、零の育ての親である棋士・幸田家の家族など、それぞれのキャラクターの背景や思惑がより合わさった人間ドラマが2部作として映画化され、前編・後編が公開中だ。
作中では零(神木隆之介)をほっとさせるような役割で登場した高橋一生と、逆に異彩を放っていた加瀬亮。2人について、キャスティングの裏側を聞いた。
誰よりも「人間」だった加瀬亮
――現在大ブレイク中の高橋一生さんも、学校パートで零を励ます林田高志先生役として出演されていますよね。
高橋さんは林田先生にぴったりでしたよね。そしたら1年後の今、色気男子っていうんですか、ブレイクしていました。もともと『MM9-MONSTER MAGNITUDE-(エム・エム・ナイン)』とか『怪奇大家族』とか、マニアックな高橋さんが大好きでした。まさか、こんなことになるとは(笑)。林田先生の役はみんなやりたがってくれて、某役者さんもわざわざ「やりたい」と言ってくれていたんです。
――1番最初に決まったのが神木さんというお話でしたが、逆に最後に決まった役はありますか?
宗谷冬司役については苦労しましたね。最も難しい役どころ。会議ではまあ、色々の個性が、色々な方角から出てきましたよ(笑)。役そのものの立ち位置を徹底的にシュミレーションして。どんな個性か、どんな人間か、そして将棋をどう思っているのか、とかね。延々と……。
最終的には、加瀬亮さんと監督が直接会って決まりました。加瀬さんが、宗谷という役について「普通以外の何者でもありません、という役だと思うんですよね」と言っていましたね。その言葉に、大友監督がビビッドに反応しました。監督が「人間以上に人なんだね」と言ったんですよ。ちょっと禅問答の様な。神がかっていないところが、むしろまわりからより浮き上がってくる、極端に言うと、そんな恐ろしい存在なのか、と。
もっとも地に足のついていないキャラクターを、どう三次元として実体化させるかという時に、加瀬さんの「より人間的、より普通、より何も纏ってないように行きたいんです」という言葉でピンときたんじゃないでしょうか。会ってすぐに「加瀬亮でいこう!」と監督は言っていました。
――作中では神様みたいなイメージでもあると思うんですが、それを「人間」と捉えていたのはかなり意外でした。
加瀬さんは「他の役者が、どんどん"演技"して欲しい」と言っていました。そうすることによって、自分がどんどん"普通"になるからと。目立たなくなることにより、宗谷が神のごとく浮かびあがってくる。その作戦が成功したんだと思います。その演技だけを断片的に見たら何でもない、虚飾のない、普通なところが、すごい演技者なんでしょうね。脚本を読んで、自分がどこに立てばいいのかが多分わかっているんじゃないかと思います。
ぜひ後編で注目して欲しいんですけど、加瀬さんがふっと座っている時に、全然存在感がないんです。大友監督が「すごいよね、風景に同化してる。風景の1つになってるよ」と驚いていたけど、それだけ何も発していない、無の境地にいるんです。恐ろしいですよ、あのラスト……(笑)。
■谷島正之
1967年生まれ、東京都出身。『西の魔女が死んだ』(08)、『戦慄迷宮3D』(09)、 『ラビット・ホラー3D』(11)、ヴェネチア映画祭コンペティション出品作『鉄男 THE BULLET MAN』(10)、『くるみ割り人形』(14)、『リアル鬼ごっこ』(15)など、清水崇、塚本晋也、園子温、増田セバスチャン、白石和彌らと話題作を製作。共同製作として蜷川実花監督の『さくらん』(07)と『ヘルタースケルター』(12)がある。著書に『3D世紀 驚異!立体映画の100年と映像新世紀』(ボーンデジタル)がある。
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