漫画家・羽海野チカによる大ヒット漫画『3月のライオン』。将棋界を舞台に、プロ棋士である1人の高校生・桐山零が、壮絶な過去を持ちながらも周囲の人間との関係を深め、成長していく。個性豊かなプロ棋士達、零と交流を深める下町の川本家の姉妹たち、零の育ての親である棋士・幸田家の家族など、それぞれのキャラクターの背景や思惑がより合わさった人間ドラマが2部作として映画化され、前編・後編が公開中だ。
前回は神木隆之介と有村架純というキーパーソンについて語ってもらったが、今回伺ったのは全体のキャスティング。どの作品であっても「誰が役を演じるか」は大きな話題を呼ぶが、同作は発表されるやいなや"神キャスティング"と呼ばれた。実際のキャスティング現場では、一体どんな力学が働いているのだろうか。
キャスティングの複合アングル
――そもそも、今回のキャスティングはどのように決まっていったのでしょうか?
当然私だけが決めるわけではなく、現場を仕切るプロデューサーからはスケジュールやその現場にきっちりハマる人がいいという要求もあって、僕は単なる映画ファンなので夢のようなキャストを思い描くわけです(笑)。そこをうまくすり合わせた上で、監督の意見が軸となってくる。監督がこの物語の血流をどのように作り、どう撮るかを重点に、現実的で物理的なスケジュール、金、夢、と様々な要素が合わさって結実していくわけですから、5つくらいのアングルでキャスティングを行うわけですね。
――今回のキャスティングが原作イメージに合いながらも、予想を上回っていったのは、何が良かったと思いますか?
時間をものすごく贅沢に使ったことでしょうか。2012年に神木さんが決まって、撮影まで4年、公開まで5年かかってるわけですが、それまで何をしていたかというと、脚本に3年くらいかけているんです。脚本を入念に作る過程の中で、「このキャラはこの人がいいよね」というのが、ポツリポツリと出て来ました。脚本を熟考する中で、キャストイメージも練りに練る。そうなると、最初は「これだ」と思っていた方でも、3年後に印象が変わっているということも起こります(笑)。
神木さんは最初から揺るがなかったんですが、他の共演する俳優さんって、ある程度脚本ができてからお願いしに行くものなんですよ。脚本を外部の人に読んでもらえるところまでくれば、キャスティングに入れる。そこまで来た段階ですぐに決まったのが、島田開八段役の佐々木蔵之介さんでしたね。
ファンの中でも「島田八段は佐々木蔵之介がイメージだ」と噂されていましたが、羽海野チカ先生に聞くと、面白いんですよ。もともと、島田八段の造形は「佐々木蔵之介さんの頭蓋骨を参考にしました」とおっしゃっていて(笑)。前編のクライマックスはある意味島田が主役になるところもありますし、ぴったりだったと思います。
――ちなみに、谷島さんが「このキャスティングは良かった!」と思う人はどなたでしたか。
メインどころは角が立つので外すと(笑)、山崎順慶役の奥野瑛太さん。原作では結構な役ですし、彼を誰にするかはいろんな人に会ってみて考えたんですよね。奥野さんは、『SR サイタマノラッパー』(MIGHTY役)でしょう! 普通とはちょっと違う個性、やっぱり面白いですよね。これから役の幅がもっと広がると思いますよ。
安井学役の甲本雅裕さんもすごかった。思いっきり零の感情をかき乱して、露骨に揺らすじゃないですか。だからと言って嫌な役じゃなくて、一人の人間が終わる瞬間の怖さ、怯えをすごく表している。技術のある方で、「バイプレイヤー」とはこういう人のことを言うんでしょうね。
あとは原作ファンにはお馴染みのスミス(三角龍雪役/中村倫也)と松本(松本一砂役/尾上寛之)。原作では主役クラスのイイ役ですよね。この2人も実際に会って決めさせてもらったんですよ。2人とも本当に、なんて言うかなぁ、チャーミング!
■谷島正之
1967年生まれ、東京都出身。『西の魔女が死んだ』(08)、『戦慄迷宮3D』(09)、 『ラビット・ホラー3D』(11)、ヴェネチア映画祭コンペティション出品作『鉄男 THE BULLET MAN』(10)、『くるみ割り人形』(14)、『リアル鬼ごっこ』(15)など、清水崇、塚本晋也、園子温、増田セバスチャン、白石和彌らと話題作を製作。共同製作として蜷川実花監督の『さくらん』(07)と『ヘルタースケルター』(12)がある。著書に『3D世紀 驚異!立体映画の100年と映像新世紀』(ボーンデジタル)がある。
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