2025年2月に解体が予定されている10階建てのビルを、一棟まるごと活用したアートイベントが、1月9日から始まりました。舞台は渋谷・恵比寿・代官山の中間地点に位置する、1986年に竣工した賃貸マンション「セゾン代官山」。東京建物が保有するこのビルが解体されるまでの空白期間を“ビルの終活”と銘打ち、1・2階がデジタルアート・ギャラリーに、3階以上の住居区画は全50室がすべて個室のアート空間となった“アートマンション”へと大変貌。ドアを開けるまで何が見られるのかわからない期待+いざ開けた時にそこで出会う驚き×50室……控えめに言って、SUGEEEEE!
国内外のトップアーティストや新進気鋭の注目アーティストたちが集結し、ペイントやデジタルサイネージなどの技法を用いた装飾を施した、前代未聞の“ビルの終活”イベントとは一体……?
解体予定のビルまるごとアート空間に‐「アートゴールデン街 by NoxGallery x Superchief x Brillia」
そもそも東京建物が“ビル終活”というキーワードを打ち出した背景には、高度経済成長期の建設ラッシュで誕生した建物の多くが、築年数が経過し、一斉に更新時期に突入しているという事情があります。国土交通省の調査発表によると、建物、とりわけ鉄筋コンクリート系住宅の“平均寿命”は68年。もちろんこれはあくまでも目安の数字で、管理状況や適切なメンテナンスによって、長寿命化させることは可能ではあるそうですが、建物の老朽化の問題はいまや日本全国で同時的に進行中。
さらに、関係者との合意形成が難航したり、周辺との一体的な開発のために意図的に解体計画を延期したり、はたまた昨今は建築費の高騰や人手不足などで“解体待ち”のままとなっているケースも。こうした解体予定ビルの空白期間は、所有者にとって賃貸収入を生まないだけでなく、周辺エリアの人流の低下、にぎわいの喪失など、さまざまな損失をもたらすことに。
そんな解体待ちの空白期間を、どうにか利活用できないか。2018年からアート活動の支援に力を入れてきたという同社が、日本初のNFTギャラリーを運営するエフ工芸とタッグを組んで実現したのが、この「アートゴールデン街 by NoxGallery x Superchief x Brillia」です。イベント名の「アートゴールデン街」は、作家や映画監督、アーティストなどクリエイティブな個人が集まる文化の中心地、新宿ゴールデン街から名付けられました。
ライブ感が半端ない、リピート必至の鑑賞体験
そもそもアーティストに、ビルの一室を提供して自由に創作活動してくださいという機会はまずなく、「それを東京でやるというのは、世界中のアーティストにとって魅力的なこと」だと、この企画を持ち込んだエフ工芸の藤井唯勝さん。世界中で日本のポップカルチャーが注目されているなか、東京のど真ん中の渋谷でこの企画を実現することに勝算を感じたそう。
「同じようなレイアウトの部屋、しかもドアを閉められる“クローズドな世界”でアートを表現するのは、こういう機会しかない。大きな美術館やギャラリーはあれど、ひと部屋ひと部屋にトイレや収納、お風呂まである空間で表現するのは、アーティストにとっても面白い経験」だといいます。
取材をした初日(1月9日)の時点では、“絶賛制作中”の部屋も多く、ほぼ手つかずの状態の壁にペンキを塗っていたり、最後の仕上げにふらりと部屋に入ってくるアーティストの姿も。ペンキ塗りたて、スプレーかけたての匂いがあちこちに充満し、ライブ感がとにかく半端ない。なにせ50室もあるので、1度にすべての部屋を見てまわるのには相当なパワーが必要なうえ、作品の制作過程に至近距離で立ち会える経験もそうはない。次に訪れたときにまた何か新しいものに出会えることは間違いなく、この鑑賞体験はリピート必至!
ちなみにマンション共有部分は、映画「JOKER」など、数々のハリウッド作品の背景美術を担当したシーニックアーティスト(背景美術家)のAMANDA HAGYさんが、各階ごとにまったく異なる世界観を創り出すという贅沢さ。ゴールデン街にインスパイアされたフロアに始まり、グラフィティ、サイバーパンク、デコトラと、階ごとに景色がガラリと変わるのもとにかく刺激的。
ふと、この空間が2月には解体されることに思い至ると、はかないしもったいない。けれど、たくさんの人たちの記憶とさまざまな形で記録に残る、ビルにとっては“最高のフィナーレ”といえるでしょう。
解体前の10階建マンション50室をジャックする、壮大にもほどがあるイベント「アートゴールデン街」は1月28日まで、解体予定のマンション「セゾン代官山」で開催です。
■information
「アートゴールデン街 by NoxGallery x Superchief x Brillia」
会場:セゾン代官山
期間:1月9日~1月28日
料金:1DAYチケット(1,000円)ほか ※公式HP確認要