今月で運用を終える「ドクターイエロー」こと923形T4編成について、引退後はリニア・鉄道館で保存されるのではないかと報じられた。現在、リニア・鉄道館に展示している「ダンゴ鼻」の「ドクターイエロー」は石川県の「トレインパーク白山」に移転するという。ただし、この件に関してJR東海もJR西日本も正式発表していない。人気の過熱に対する警戒が背景にあるかもしれない。
報道の発端は922形の白山市移転
「ドクターイエロー」の保存に関する報道を追ってみると、2024年11月27日に北國・富山新聞が「ドクターイエローこと922形がトレインパーク白山(白山市立高速鉄道ビジターセンター)に常設展示される」と報じた。ここでいう「922形」は、1979年に製造され、2005年に引退したT3編成。引退後は博多総合車両所で保管され、2011年に開館したリニア・鉄道館で保存展示されている。
JR東海の施設で展示されている922形T3編成がJR西日本の保有車両であることは意外に思うかもしれないが、2009年に「JR東海博物館(仮称)」の展示概要が発表された際、資料に明記されていた。「JR東海博物館(仮称)」は後に「リニア・鉄道館」を正式名称に採用している。
リニア・鉄道館に展示されている車両はほとんどJR東海保有車両だが、他にも超電導リニア車両「MLX01-1」は鉄道総合技術研究所(鉄道総研)から、蒸気機関車C62形17号機は東山総合公園から、蒸気動車キハ6400形は明治村から、キハ181系はJR四国から、国鉄バス第1号車は鉄道博物館から、それぞれ貸与または譲渡されている。
922形T3編成に関する報道によると、「トレインパーク白山」を運営する石川県白山市は、922形を施設の正面広場に迎えるという。広場の改修や車両の設置に必要なレールの敷設等の費用として、1,000万円を補正予算に組み込んだ。市の担当者による「白山に来れば、いつでも『幸せの新幹線』を見ることができる」というコメントも紹介しており、かなり確度の高い情報といえる。
「トレインパーク白山」は北陸新幹線敦賀延伸に合わせ、2024年3月に開業した。年間来訪者目標は18万人とされ、開業から8カ月後の2024年11月に達成したとのこと。地図と航空写真、そして「正面」というキーワードから、展示場所は施設の西側にある広場だと思われる。事業費が1,000万円となると、車両を覆う屋根は付かないと思われる。せっかくリニア・鉄道館で屋内保存されていた車両が野ざらしになるとは残念。ぜひ屋根を付けてほしい。
923形はリニア・鉄道館の穴埋め?
923形T4編成については、2024年12月14日に中日新聞が報じている。「ドクターイエロー」の引退に向けたイベントとコラボ商品を紹介した後、「名古屋市港区のリニア・鉄道館での保存が検討されている」と付記された。922形T3編成の移転により、リニア・鉄道館に保存スペースができるからという。2024年12月24日の読売新聞では、「JR東海がリニア・鉄道館で車両の一部を保存・展示する方針を固めた」と報じられた。おそらく独自に関係者と接触して確定した情報だろう。
しかし、2025年1月5日の朝日新聞は、「リニア・鉄道館には、1月末に引退するT4編成を展示することが検討されている」と報じている。また「検討」に戻ってしまった。
一連の報道について、JR東海の広報に問い合わせたところ、「各記事によって多くの問い合わせをいただいているものの、正式に決まったことではない」とのことだった。そうは言っても、話は進んでいるのだろう。企業の広報は確定した情報しか出さない。もともと「ドクターイエロー」は運行日程も秘匿された車両であり、ミステリーな部分の多い車両である。JR東海というより、リニア・鉄道館の展示物追加の形で、いずれ正式発表されると思われる。そもそも新聞記事にスクープされ、企業側が「正式発表したものではない」と表明しつつ、実際はその通りになったという事例は多い。これは鉄道事業者に限らず、自動車業界や金融業界でもよくある話だ。
922形T3編成をJR西日本に返却すれば、リニア・鉄道館に空きができる。そこに何を入れるか。ちょうど923形T4編成が引退するから、リニア・鉄道館で展示しよう。これは容易に想像できるシナリオである。あるいは、先にJR東海が923形T4編成のリニア・鉄道館入りを決め、JR西日本に922形T3編成の処遇を検討してもらい、白山市に引き取ってもらったという深読みもできる。つまり、923形T4編成の保存が先で、報道の順序が逆かもしれない。
しかし、筆者としては、922形T3編成を追い出しても、リニア・鉄道館の空きスペースは1両分だけになるところが気になる。923形T4編成の保存車は先頭車1両だけでいいのか。「ドクターイエロー」は7両1セットで機能する車両であり、各車両に役割がある。その内容はすべて後世に伝え、研修材料にすべきではないか。
そう考えたとき、923形T4編成はむしろ浜松工場で編成まるごと保存したほうが良いのではないかと思った。浜松工場には余地が多く、7両編成でも収容可能だろう。毎年開催される見学イベント「JR東海 浜松工場へGO」においても、「ドクターイエロー」はメインコンテンツであった。来年のイベントから「ドクターイエロー」が消えてしまうのは惜しい。
リニア・鉄道館にはもうひとつ、保存してもらいたい車両がある。キハ85系だ。非電化区間向けの特急形気動車で、高山本線経由の特急「ひだ」、紀勢本線経由の特急「南紀」などで活躍した。キハ85系は2023年に引退したが、一部車両が譲渡され、KTR8500形として京都丹後鉄道で活躍している。後継車両はハイブリッドのHC85系になったから、キハ85系はJR東海にとって最後の特急形気動車となる。加えて、まだ引退していない車両だが振子式特急形電車の383系も残してほしい。
「ドクターイエロー」こと923形T4編成は、浜松工場で編成まるごと保存してほしい。正式発表されていない今だからこそ、どうか再検討していただきたい。