ホイールブランドのトップランナーとして、技術革新に挑み続けてきたBBS。東京オートサロン2025では、10年以上開発を続けていた新素材のFORTEGA(フォルテガ)を使った新製品が発表された。プレスカンファレンスに登壇したBBSジャパン代表取締役社長・新田孝之氏はフォルテガの紹介に入る前に、これまでBBSが歩んできた革新と挑戦の歴史について語った。
「当社は自動車向け鍛造ホイールを専門に作っており、その歴史は1980年代までさかのぼります。85年、当時まだ珍しかったメッシュデザインの1ピースホイールの開発・製造に世界で初めて成功し、同年の米国SEMAショーでRGが技術革新大賞を受賞しました。その後、市販とレース用アルミ鍛造ホイールを提供し続けてきました。特に90年代、ル・マン24時間レースでポルシェチームが連戦連勝を重ねたレーシングホイールのデザインを基にしたアルミ鍛造2ピースのLMを94年に発売。昨年の東京オートサロンではLMの発売30周年の記念イベントを開催しました。2022年にはアメリカンモータースポーツの最高峰・NASCAR向けに全チーム共通規格・ワンメイクのBBSアルミ鍛造ホイールの供給がスタートしています」
BBSが鍛造アルミホイールを供給する以前、NASCARではスチール(鉄)ホイールが使われていた。マシン同士が320㎞/h超のハイスピードで激しくぶつかり合うこともある過酷極まるレースではホイールに掛かる負荷がとても大きく、それに耐える強度を備えたスチールホイールが使われてきたが、BBSではメッシュ部のスポーク高を極めて厚く設定し、激しいバトルに耐える十分な強度を備えたNASCAR用鍛造アルミホイール「RE1948」を開発し、ワンメイク供給を開始。2024年でいったん3年間の供給契約が終了したが、引き続き2025年から3年の契約がスタートしている。
アルミで鍛造技術を磨き続けてきたBBSは、1992年にフェラーリ社からの要請を受けて世界初のF1用マグネシウム鍛造ホイールを開発。当時のマグネシウムホイールは鋳造が主流で、耐久性と重量がネックだった。こうした課題を鍛造で解消するという、難易度の高いオーダーがフェラーリF1チームから求められたが、当時のドイツと日本のメンバーが協力し合って開発に成功。以降、F1ではマグネシウム鍛造ホイールがスタンダードになり、ピーク時は全10チーム中、7チームでBBSホイールが採用された。F1においてBBSの名を有名にしたのは2000年代半ば、帝王シューマッハがBBSホイールを履いたフェラーリで5連覇したのは記憶に新しい。NASCARと同様、2022年からF1でもワンメイク供給を開始している。
市販ホイールに用いられる素材については、マグネシウムに加えて超超ジュラルミンを使った細身のスポークが特徴のRI-Dを2011年に業界で初めて開発・発売。現在でもRI-DはBBSを象徴する革新的な製品として市場で根強い支持を集める。このように、BBSは約50年にわたる歴史のなかでさまざまな素材にチャレンジしてきた。その最新作が新素材フォルテガを使ったホイールだ。
フォルテガはBBSジャパンが独自開発したアルミ系の合金素材。従来のアルミニウム、ジュラルミン、マグネシウムと比較すると、マグネシウムが圧倒的に軽く、ジュラルミンやアルミ、フォルテガに比べて30%以上密度が低い。マグネシウムはとても軽くできるのが特徴で、圧倒的な軽さが求められるF1のようなレーシングカー、あるいは市販向けのクルマでもGT3規格のようなモータースポーツにも使えるような欧州のハイパフォーマンスカーなどに採用される。
ジュラルミンの特徴は強度。物理特性としては「引っ張り強度」が他の素材に比べて圧倒的に高い=壊れにくいのが特徴。他の素材に比べて圧倒的にスポークを細くできることから、RI-Dはシャープで細身のスポークを実現できた。意匠性にも富み、高級プレミアムスポーツカーを中心に採用されている。
一方でフォルテガの特徴は剛性の高さ。具体的な剛性の働きとしては力がかかったときに「曲がりにくい」、「形状を保持しやすい」など。例えば、はやりの大口径ホイールや、バッテリーEV、SUVのような車高が高く、車重の重いクルマはホイールに掛かる荷重が大きくなるので、その分ホイールがしなりやすくなる。こうした状況でも車体姿勢を保持しやすく、コーナリングがスムーズになる……のがフォルテガのメリットだ。
新素材フォルテガを使った商品名は「FL」。BBSの製品はアルファベット2~3文字で表記するのが通例で、それに倣ってフォルテガの語源であるラテン語のforte(フォルテ)=強いと、lega(レガ)=合金の頭文字からFLと命名した。
第一弾はポルシェ タイカン4S用で、サイズは21×9.5インセット53(47万8500円/1本)、21×11.5インセット50(49万5000円/1本)。カラーはセレナイトブラウンだ。正式発売は4月1日からだが、1月10日から初回生産50台分限定で先行受注がスタートし、デリバリーは8月上旬ごろを予定する。
ポルシェ タイカン4S用を皮切りに、他車種にもサイズ、マッチングを図りながら拡充予定。東京オートサロンのブースではタイカンのほかにカラーの異なるFLを履かせたBMW iX3とレクサスRXを展示した。
「フォルテガは一昨年と昨年の東京オートサロンで開発中であることを明かしましたが、今回ようやく製品として紹介できるまでには苦労の連続で、素材の開発から含めると10年以上を費やしました。長年の苦労を乗り越え、ようやくイノベイティブな製品を消費者の皆様にお届けできることは、ものづくりに携わるメーカーにとってはとても大きな喜びです。フォルテガという新しい素材に対して、成分を変えたり、組み合せを変えたりしながら試行錯誤して取り組んできた開発メンバーや、とても硬い素材なので加工する、仕上げをする、磨くといった製造のプロセスにおいてもさまざまな新しいチャレンジがありました。それらの高いハードルを乗り越えてようやくここに1本の革新を届けることができることは、当社にとって非常に大きな喜びでもありますし、この1本の革新という言葉を2025年のBBSのテーマ、キャッチフレーズに掲げています」
新田社長は熱のこもったプレゼンテーションを「BBSの革新と挑戦はこれで終わるわけではなく、FLに続く新しい商品、新しい素材、新しいデザインへのチャレンジをこれからも続けています」と締めくくった。
BBSが扱うアルミニウム、マグネシウム、フォルテガ、超超ジュラルミンの代表的なホイールを展示。2022年からワンメイク供給する18インチF1ホイール、フォルテガ鍛造1ピースホイール「FL」、超超ジュラルミン鍛造1ピースホイール「RI-D」、アルミニウム鍛造ホイール、ハイエース用ホイール「RT-X」、SUVの足元をスタイリッシュに魅せる「RN」「RE-X」は新色マットグレイ、ロングセラーの「FI-R」「LM」「SUPER-RS」がブースを彩った。
<文と写真=湯目由明>