日産自動車は「R32型スカイラインGT-R」(BNR32)を電動化したコンセプトモデル「R32 EV」を「東京オートサロン2025」(1月10日~12日、幕張メッセ)に出展する。今でも大人気のR32 GT-Rは電気自動車(EV)になってどう変わったのか。報道陣向けの事前公開で詳細を確認してきた。
やっちゃえ、日産! 名車が電動化で復活
「R32 GT-R」を運転する楽しさを30年後、100年後の人たちになんとしても残したい。そんな思いを元に、R32に魅了された日産の技術者が有志と共に作り上げたのが「R32 EV」だ。
チームリーダーとなった日産の平工良三パワートレインエキスパートリーダーによると、このクルマは単純なガソリン車のEVコンバージョンではなく、R32の走りの楽しさをとことん追求し、EVでどこまで再現できるかに挑戦した1台であるとのこと。「やっちゃえ、日産」精神を体現した、いわば「クルマのデジタルリマスター版」だ。
R32 GT-Rの電動化は商品化を目指すプロジェクトというよりも、若いエンジニアと一緒に“楽しい車とは何か”を探求し、日産の技術を磨くためのものだという。
「リーフ」のモーターをダブルで搭載?
ここからはR32 EVの車両概要を見ていこう。
ボディサイズは全長4,545mm、全幅1,755mm、全高1,340mmでベースモデルと同じ。一方、電動化によりボディ重量は1,794kgと300kgほど重くなっている。
搭載するパワートレインは最高出力160kW、最大トルク340Nmを発生する「リーフ」用のモーターを前後に2基搭載する2モーター4WD方式。パワーウェイトレシオをR32 GT-Rと合わせるため、モーターの出力・トルクをチューニングし、システム最大で240kW(約326PS、ベースのRB26DETT型は280PS)の馬力を前後輪に配分する仕組みを採用した。
バッテリーはリーフ NISMO RC02 ロングレンジバージョン用をリアシート部分に搭載。このため、乗車定員は2人となっている。バッテリーは62kWhと大容量で、航続距離は未テスト状態ではあるものの「200~300kmはいけそう」とのことだった。
ボンネットを開けてみると、前後長の長い直列6気筒エンジンの代わりに搭載したフロントモーターや補機類がとてもコンパクトで、モーター後方には結構な隙間があいているのに気がつく。
エクステリアでは重量増とパワーアップに対応した18インチのR35用ブレーキとキャリパー、さらにそのサイズに合わせて再現したR32のオリジナル5本スポークデザイン特注ホイールが目を引く。装着するタイヤはブリヂストンの「ポテンザRE-71RS」(245/40R18)だ。
リアの左下をのぞくと、エンジン排気用の太いエキゾーストがなかったり、底面が平面化されていたりして、EVモデルであることがわかる。ちらりと見えるサスペンションも、リンク荷重が変わったことに合わせてバネ設定などの小変更を行なっている。
オリジナルの雰囲気が濃厚に残るインテリア
「SKYLINE」のロゴが入った車内後部のバッテリー搭載部分を除けば、前2座のインテリアはオリジナルの雰囲気を上手に残している。とはいっても、元の部品はそれほど残していないそうで、シートは元の形状や材質をできるだけ忠実に再現するようレカロ社にオーダーした特注品だ。ステアリングもパドル付きに作り直した。
シフトノブは形状と材質がオリジナルとほぼ同じに見えるAT用。シフトパターンはメーター上に表示されている。そのメーターについては、元の部品を使用して再現するという話もあったそうだが、今回はセンターコンソール部も含めて当時のアナログメーターを正確に表示できる液晶メーターを採用している。
モーターをスタートさせるには、メーターナセル左上にあるFM/AM切り替えスイッチを押すか、パドルシフトを3秒間両引きするかの2つの方法がある(OFFも同じ方法)。空ぶかしもOKとのことなので2ペダルのアクセルを強めに踏んでみると、シート背後のスピーカーが発するRB26DETTの「ブォン」というサウンドと共に、タコメーターの赤い針がレッドゾーンに向かって一気に上昇する。さらにちょっとした振動まで伝えてくるので、“らしい”雰囲気が十分に楽しめるのだ。東京オートサロンの会場でも試せるらしい。
平工氏によると、今回の計画を発表した当初は、SNSだけでなく社内からも「貴重なR32 GT-Rになんてことをしてくれるんだ!」という厳しい声があったそう。しかし、日産としてはすばらしいヘリテージアセット(歴史遺産)をたくさん持っていて、それを残す方法の一案としてやっていきたい(それも“部活動”で)し、この技術が今後、いろんなところで応用できたら、というように覚悟を決めて周囲を説得したのだという。ぜひ会場で実車をご覧あれ。