ソニー・ホンダモビリティが、米国カリフォルニア州で2025年内に発売するEV「AFEELA 1」(アフィーラ ワン)をCESで公開しました。同社の代表取締役社長兼COOである川西泉氏が、日本からイベントに集まった記者によるグループンタビューに応じ、新しいAFEELAの展望を語りました。
AFEELAはインテリジェンスにこだわり抜いたEV
2022年9月に創立したソニー・ホンダモビリティ(以下:SHM)は、2023年1月のCESで初めて「AFEELA」を発表しました。新しいAFEELA 1は、いよいよ最終仕様の完成形に近づいたモデルです。価格は、通常版の「AFEELA 1 Origin」が89,900米ドル(約1422万円)から、上位の「AFEELA 1 Signature」が102,900米ドル(約1627万円)からとなります。
車体の見た目が大きく変わったポイントは、ルーフの中央にLiDARを格納するボックスと、その左右に新しくセンシングカメラを内蔵するボックスが載ったこと。上位のSignatureと通常版のOriginは車体とホイールの大きさが異なり、それぞれOriginの方がわずかにコンパクトです。カラーバリエーションも、Signatureは「Tidal Gray」「Calm White」と「Core Black」の3色展開ですが、OriginはCore Blackの1色のみです。
昨今は通信機能のほか、スマホやパソコンのようなオペレーティングシステム(OS)を載せて、さまざまな機能をソフトウェアで自動制御したり、スマホのようにアプリを追加する感覚で安全で快適なドライブを実現する新機能を追加できる「SDV」(Software Defined Vehicle)が注目されています。AFEELA 1もSDVですが、他社のSDVと大きく異なる点は「インテリジェンスにこだわり抜いていること」だと川西氏は語ります。
AFEELA 1に乗車して「Hey AFEELA」と話しかけると、独自の対話型AIエージェント「AFEELA Personal Agent」が起動します。AIエージェントはEVの設定を指南してくれたり、道が渋滞した時には「雑談」を交わしながら楽しませてくれます。「AFEELA 1のインテリジェンス」を象徴する音声操作は、マイクロソフトのMicrosoft Azure OpenAI Serviceをベースに開発。その振る舞いはクラウドをベースとしていますが、通信がつながりにくい場所では、ドアの開閉など車の制御に関する音声操作がエッジ側でこなせるように設計されています。
AFEELAのAIエージェントについては、オーナーに合わせた「パーソナライゼーションがどこまでできるか」をSHMのエンジニアリングチームは突き詰めてきました。なかには「雑談する機能」も含まれますが、ほかにも車内にあるさまざまなセンサーがオーナーの粗っぽい運転を検知すると安全運転を指摘してくれたり、オーナーの好きなものや行動パターンをEVがある程度覚えて、心地よいドライブの行動計画を提案するサービスなどが検討されています。
ここには、ソニーがたくさんの家電やソフトウェアのユーザーインターフェースをデザインしながら得た幅広い知見が活かされています。
先進技術でドライバーの満足度を高める
AFEELAのモバイルアプリには、EVのデジタルキーとして機能したり、車両の前方に搭載する「Media Bar」の表示を自由にカスタマイズできる機能があります。川西氏は「オーナーが自動車の中にいない時間にも、AFEELAのさまざまなサービスを楽しめることが大事」と語ります。そのために、AFEELAアプリもローンチに向けてさまざまな準備が進められています。
CESでソニーが開催したプレスカンファレンスでは、壇上に立ったソニー・ホンダモビリティの代表取締役会長兼CEOである水野泰秀氏が、スマホに話しかけてAFEELA 1を操縦するデモンストレーションを披露しました。川西氏によると、同様の機能は「技術的には実現可能」なのだそうですが、恐らくはさまざまな法規があるため、発売時に実現することは難しそうです。
ただ、川西氏の中では、例えばオーナーがAFEELA 1と離れている場所から通信経由でコミュニケーションを交わしたり、EVやオーナーの住まいの防犯対策のようなスマートホーム機器を載せることについては「前向きに考えている」とも付け加えています。
AFEELA 1の室内では、高精細な映像コンテンツを視聴したり、360 Reality Audioとドルビーアトモスに対応するイマーシブオーディオ再生が楽しめます。SHMは、アニメ配信サービスを中心に多彩なアニメ関連のビジネスを世界展開するアメリカのCrunchyroll(クランチロール)と、2024年9月にパートナーシップを組みました。筆者は、高級EVであるAFEELAに憧れる世代と、クランチロールでアニメ作品を楽しむ世代がなんとなくミスマッチするように思いました。
川西氏は「小さな子どもがいるファミリーにAFEELA 1でアニメを楽しんでほしい」と、クランチロールとのコラボの意図を説いています。むしろ、アメリカにも筆者のような“アニメ好きな大人”がたくさんいるようで、川西氏は「AFEELA 1とクランチロールのマッチングの良さ」も侮るべからず、と強調していました。
EVユーザーが充電中の「待ち時間」を有意義に過ごせるように、映画やゲームなどのエンターテインメント機能を充実させることはプラス方向の取り組みである、と川西氏は前を向きます。そして、将来は映画やゲームだけでなく、「車でしか楽しめないエンターテインメント」を揃えることにも力を入れるそうです。
家族が車内でもより静かな環境でエンターテインメントにのめり込めるよう、AFEELA 1にはエンジン音や風切り音、走行中のロードノイズを低減することを目的とした独自のアクティブ・ノイズキャンセリング機能が搭載されます。
車外に向けて配置したマイクを活用し、低音と中音それぞれの音域に分布するノイズを丁寧に消します。バックグラウンドでは、SHM独自のアルゴリズムにより、それぞれのノイズ成分だけを機械学習によって消す処理を行います。今後、試乗の機会が訪れた際にはぜひ試してみようと思いました。
快適さと安全性のバランスを重視した
AFEELA 1は、自動運転支援機能の「レベル2/2+」を達成しています。川西氏は「技術的可能性については、今後レベル4を目指したい」とコメント。
AFEELA 1には、LiDARでスキャニングした車外の様子を、ゲームエンジンのUnreal Engineでビジュアル化してインフォテインメントディスプレイに表示するユニークな機能があります。本来はEVの安全走行を支援するために搭載されたセンサーを、エンターテインメントにも活用したソニーらしい事例です。
対角5K解像度の高精細なインフォテインメントに立体3Dマップを表示する機能もあります。今回、筆者はAFEELA 1の試乗体験もしていますが、マップデータはまだ2D表示のままでした。汎用のマップデータをベースに、SHMが独自に演出を加えた便利で華やかな3Dマップビューが組み込まれます。
充電規格は互換性を高めるため、テスラが独自に開発した急速充電規格「NACS」(North American Charging Standard)をAFEELA 1にも採用しました。
AFEELA 1は、アメリカの中でも最もEVの普及を積極的に進めてきたカリフォルニア州から販売をスタートします。2025年後半には、カリフォルニア州のトーランス市とフリーモント市にAFEELAブランドの拠点となる「AFEELA Studio & Delivery Hub」をオープンします。
2026年内には日本でも納車開始、価格はどうなる?
AFEELA 1は、ソフトウェアアップデートによりさまざまな機能を追加できるSDVです。追加機能の提供については、「今はまだ世間にEVや自動運転の体験が醸成されていないため、ソフトウェアアップデートによる追加機能についてはオーナーから別途料金をいただくことを考えていない。まずは、すべてのオーナーにフルサイズでAFEELA 1の可能性を存分に体験してもらいたい」と川西氏は説明します。
SHMは2026年内に、北米で製造したAFEELA 1を日本に逆輸入する形で納車を開始する予定です。そもそも、CESで公開されたAFEELA 1も最終仕様の車両ではありませんが、日本向けのAFEELA 1はもっと細かな仕様が変わる可能性もあります。AFEELAを体験できるコンセプトスペースの設置などについては、川西氏はコメントを控えました。
SHMでは、AFEELA 1の米国での販売台数目標も公表していませんが、川西氏は「たくさん売らないと商売にならないような設定にはしていない」と述べています。日本発売時の価格も気になるところですが「米国でAFEELA 1を販売する価格は、あくまでアメリカでの値段を提示したもの」であると川西氏は念を押します。できる限り身近な価格帯に収まることを期待しましょう。
AFEELA 1が発表されたばかりでまだ気が早い質問かもしれませんが、「1」の次には「2」があるのでしょうか。川西氏は「次のモデルもプランニングはしている」と答えました。参考までに、ソニーは2022年のCESで、自社開発によるEVのコンセプトモデル「Vision-S」のSUVタイプを試作して展示しています。いよいよ走り出したAFEELAの展開がとても楽しみです。