第10期叡王戦(主催:株式会社不二家)は本戦トーナメントが開幕。1月8日(水)には藤井聡太竜王・名人―増田康宏八段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、角換わり腰掛け銀のねじり合いから抜け出した藤井竜王・名人が111手で勝利。挑戦に向けてあと3勝としています。

1年ぶりの顔合わせ

2月に開幕する棋王戦五番勝負で戦う二人。直近では1年前の朝日杯本戦で対戦があり、その際は角換わり腰掛け銀から上部に逃げ出した増田玉をうまく寄せた藤井竜王・名人が勝利していました。1年ぶりの対決となった本局は同様の戦型に進んだのち後手の増田八段が変化。6筋の位を取って好位置に角を据えたのは、先手の駒組みに制約を与えて穏やかな展開に持ち込む狙いです。

戦機が熟すと見るや先手の藤井竜王・名人は積極的に仕掛けに踏み切ります。追われた飛車を敵玉そばの狭いところに回り込んだのが決断の一手で、飛車と角銀の二枚換えに持ち込むことで優位を手にしました。自陣に王手で飛車を打ち込まれても大丈夫というのが優れた大局観で、直後に守りの銀打ちの好手が出ていつのまにか攻めに専念できる形です。

そして描かれた「藤井曲線」

戦力不足にあえぐ増田八段は入玉に望みを託して粘りますが、藤井竜王・名人は左辺に作った二枚馬を巧みに活用して攻めをつなぎます。敵玉そばに手掛かりがない状況から気づけば数手で寄せの包囲網が完成する様子にファンからは「手厚い…」「美しい寄せを堪能」の声が上がりました。終局時刻は16時52分、最後は自玉の寄りを認めた増田八段が投了。

一局を振り返ると後手番らしく変化球を見せた増田八段に対し、藤井竜王・名人が妥協なき攻めでこれを打ち返した格好。敗れた増田八段ですが「久々の藤井竜王・名人との対局で角換わりを経験できてよかった」と五番勝負に向けて前を向きました。勝った藤井竜王・名人は叡王復位に向け一歩前進。2回戦では木村一基九段―戸辺誠七段戦の勝者と対戦します。

水留啓(将棋情報局)

  • 新会館での初対局となった藤井竜王・名人は「きれいになった対局場で集中して対局に臨めた」との感想(写真は第37期竜王戦七番勝負第6局のもの 提供:日本将棋連盟)

    新会館での初対局となった藤井竜王・名人は「きれいになった対局場で集中して対局に臨めた」との感想(写真は第37期竜王戦七番勝負第6局のもの 提供:日本将棋連盟)