どうも! eスポーツライターの小川翔太です。

「我が県をeスポーツの聖地に!」

ここ最近、よく耳にするようになった言葉です。

かねてより群馬県、神奈川県をはじめとした関東圏の自治体では、積極的に「地方創生×eスポーツ」が推進されてきましたが、2024年には兵庫県で関西初の「自治体が主催する高校生eスポーツ大会」が開催され、2025年には北海道札幌でeスポーツ『エーペックスレジェンズ』の大規模世界大会が日本初開催されるなど、その流れは全国規模に拡大しています。

まさに「地方創生×eスポーツ」は戦国時代に突入したといえるでしょう。

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地域創生=「若年層の“奪い合い”」という誤解を解く

本記事のタイトルで「若年層の“奪い合い”」と記したのは、この文言に興味を持った読者の誤解を解きたかったからです。

もちろん、地方の少子高齢化は深刻化しており、地方創生がその解決の一端を担っているのは間違いありません。ただし、それが全てではありません。

地方創生が目指しているのは「地域の活性化」です。

「地域の活性化」とは、「県内GDPの向上」「人口増加」などの定量的なものから「地域の企業や住民が活気付く」「県外から注目が集まる」などの定性的なものまでさまざまです。

eスポーツイベントの開催は「地域の活性化」に多くの面で貢献します。

たとえば、eスポーツイベントの開催には、地元企業の協力が必要不可欠なため、自ずと企業同士が手を取り合います。横須賀市が2024年9月1日に開催した「第5回 YOKOSUKA e-Sports CUP」は、市内だけで15以上の企業や団体が協賛しており、食品メーカーから自動車学校まで、さまざまな企業が手を取り合う機会になりました。

また、eスポーツイベントでの集客は、観光産業と強く結びつき、観戦者の消費活動が地域経済を活性化させます。2024年12月28日に開催された「とちぎeスポーツフェスタ 2024」はその好例でしょう。同イベントは県内外から約9,000人が来場したことで、相当の経済効果を生みだしています。

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    「とちぎeスポーツフェスタ2024」は来場者数9,000人の大盛況

トップダウン型の群馬県、ボトムアップ型の横須賀市

ここで具体的な地方自治体の取り組みについて、2つだけ紹介させてください。

「地方創生×eスポーツ」という点で共通するものの、その成り立ちの背景やアプローチは異なります。今回、紹介するのは群馬県(トップダウン型)と神奈川県(ボトムアップ型)です。

群馬県eスポーツ・クリエイティブ推進課(トップダウン型)

群馬県は、11年連続の人口減少と過疎化・少子高齢化が課題の都道府県です。

群馬県知事の山本一太知事が「eスポーツの集客力の高さと若者への訴求力の大きさに着目した」ことをきっかけに、2020年、全国の自治体で唯一の「eスポーツ」と名の付く専門部署「eスポーツ・新コンテンツ創出課」(現:eスポーツ・クリエイティブ推進課)が設置されました。

同年から実施された「U19eスポーツ選手権」をはじめとする、数々のeスポーツ関連の取り組みは、ほかの地方自治体からも注目されており、「地方創生×eスポーツ」の先駆者的な存在です。

2019年に設立された、群馬県eスポーツ連合の存在も大きく、知事の一声をきっかけに、トップダウンで力強く推進されているのが群馬県といえるでしょう。

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    第5回目の開催となる「U19eスポーツ選手権 2024」(群馬県)

横須賀市「Yokosuka e-Sports Project」(ボトムアップ型)

同じく、神奈川県横須賀市も2014年に「日本で最も人口減が進む都市」と称され、人口流出に課題を抱える市です。

2019年に発足された「Yokosuka e-Sports Project」は唐突に始まったものではなく、かねてより実施されていた、サブカルチャー×地方創生の取り組みが前身となっています。

横須賀市では、2011年から、アニメの聖地巡礼×スタンプラリー、位置情報ゲーム×体験ツアーなど、サブカルチャーを地域活性に用いた施策が盛んでした。イベントに協賛、協力してくれるPCメーカーやゲーム運営会社など、2011年からの関係性が「地方創生×eスポーツ」にも引き継がれています。

イベント開催のほか、横須賀市の高校へのゲーミングPCの貸与、地域のコミュニティスペースの支援、37団体が参画する産学民官プロジェクトなど、横須賀市内のコミュニティに寄り添った地域密着型の施策が特徴です。

熱心な職員たちの自発的な活動によって、ボトムアップ型で推進されているのが横須賀市といえるでしょう。

自治体が「戦うべき」3つの相手とは

表題で「戦国時代に突入」と記したように「地方創生×eスポーツ」は「戦い」です。

では「地方創生×eスポーツ」を推進する地方自治体は、何と戦うことになるのでしょうか。3つ列挙します。

1:地方はキーマンが変わらない

「地方創生×eスポーツ」の目的が「地域の活性化」である以上、地元企業・団体の協力は不可欠です。

その点において、ネックとなるのが、固定化された地域コミュニティによる権威の硬直化です。

地方は都心と比べて、人材の流動性が低いので、地域内のキーマンが変わりません。また、企業や団体の数にも限りがあるので、「営業リストを作って、手当たり次第にテレアポ」などといった、営業先が潤沢にある場合の戦略は通用しません。

それどころか、特定のキーマンにそっぽを向かれるだけで「地方創生×eスポーツ」の道が永遠に閉ざされる危険性もあります。

「何を言うか」ではなく「誰が言うか」で物事が進む側面も強く、関係性構築に時間と労力を費やさなければなりません。

ただでさえ「eスポーツ」という理解を得づらいコンテンツを扱う以上、地方自治体の職員たちは、変わらないキーマンと粘り強く交渉する「戦い」をすることになります。

2:自治体→企業への主体性の移譲

地方自治体の担当者さんに話を聞くと、皆さん共通して「自分たちの使命は、地域の理解者を増やしていくこと、関係者同士をつなぐことである」とお話をされます。

地方自治体にできるのは「あくまで最初のきっかけ作りである」ということを、皆さん理解されているようです。

地方自治体が旗振りを続けている限りは「地域の活性化」を達成したとは言えません。「eスポーツで地域を盛り上げよう」という主体性が、地域の企業に移譲されなければ「地方創生×eスポーツ」は持続可能な状態になったとは言えないのです。

主体性の移譲が失敗すると、やがてはプロジェクトの形骸化を招き、頓挫するだけでなく、企業間のトラブルにも発展しかねません。そうなると「地方創生×eスポーツ」が永久的に再起不能に陥る可能性があります。

群馬県のようなトップダウン型の課題は、地域の関係者たちに「当事者」になってもらうことといえるでしょう。

3:継続の最大の敵は「部署異動」

前述のとおり「地方創生×eスポーツ」には「持続可能性」が求められます。その持続の妨げとなるのは「協賛してくれる企業がなくなる」「集客や収益の状況が悪くなる」だけではありません。

役所にはつきものの、部署異動も1つの敵と言えるでしょう。

横須賀市のようなボトムアップ型で推進されている自治体ほど、その構造上、部署異動の影響を受けやすく、「eスポーツに理解と熱意のある職員たち」が異動してしまうと、途端に推進力を失いかねません。

担当者間での継承もままならないと、築き上げてきた地域団体との関係性の悪化を招きます。ノウハウの継承、俗人性の排除は、地域創生と同時並行で進める必要のある「戦い」なのです。

「eスポーツ」の未来は「地方創生」に掛かっている

ここ最近は「eスポーツはスポーツなのか」という議論も沈静化してきたように思えます。これには世間のeスポーツへの理解の広まりを感じる反面、eスポーツが一般的な興行スポーツには、遠く及ばないという現実を叩きつけてきます。

アビームコンサルティングによると、スポーツビジネスが成立するためには「行政」「スポーツ推進企業」「コンテンツホルダー」「スタジアム・アリーナ」「メディア」の5つの要素が必要だとされており、筆者はこれはeスポーツビジネスにおいても同様であると考えています。

「地方創生×eスポーツ」が戦国時代となり、各地方自治体による競争が熾烈化することは、(eスポーツ業界における)上記5つのうち「行政」「スポーツ推進企業」の協力を強めることにつながります。

「地方創生×eスポーツ」の動向を見ることは、eスポーツビジネスの成否そのものを見ることといえるでしょう。