9日、香取慎吾主演ドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系、毎週木曜22:00~)がスタートする。放送前に話題を集めていたのは、香取がこれまでのイメージとは異なる「日本一の最低男」を演じること。
実際、過去作を振り返ると、『西遊記』(フジ)の孫悟空、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(TBS)の両津勘吉、映画『NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE』の服部カンゾウなど、「強烈なキャラクターのイメージが強い」という人が少なくないだろう。
しかし、香取にはラブストーリーで月9ドラマの主演を務めた過去があり、しかも業界内では「隠れた名作」という評価もあるのが、2009年1月期の『薔薇のない花屋』(フジ ※FODで第1・2話配信中)。17年前に放送された当作はどんなところが支持されていたのか。さらに、令和の現在につながるものはあるのか。ドラマ解説者の木村隆志が掘り下げていく。
愛の障壁や枷に注力する野島脚本
真っ先にふれなければいけないのは、野島伸司の脚本であること。
野島と言えば、93年の『高校教師』、94年の『人間・失格~たとえばぼくが死んだら』、95年の『未成年』、98年の『聖者の行進』(すべてTBS)。さらに企画・原案として関わった94年・95年の『家なき子』(日本テレビ)も含め、時に“野島ワールド”と言われた「過激な設定や展開で引きつける脚本家」というイメージの人が多いのではないか。
その93年から98年のインパクトが強すぎるため知らない人も多いが、もともと野島は純度の高いラブストーリーの名手。連ドラデビュー作となった88年の『君が嘘をついた』を筆頭に、90年の『すてきな片想い』、91年の『101回目のプロポーズ』(すべてフジ)まではピュアなラブストーリーの担い手だった。
その後の野島は過激路線を経て、21世紀に入るとラブストーリーに戻り、時折ホームドラマを交えながら現在に至っている。その中でもラブストーリーであり、ホームドラマとしても高純度だったのが当作。これまで野島はカップルにしろ、家族にしろ、愛を描くときは必ずそれに立ちはだかる“障壁や枷(かせ)”に最大級の力を注いできた。
つまり野島は「愛に立ちふさがる“障壁や枷”をいかに描くか」にこだわった脚本家なのだが、当作で用意したのは、シビアかつトリッキーな設定。第1話冒頭から、花屋を営む主人公・汐見英治(香取慎吾)のもとに「盲目の女性・白戸美桜(竹内結子)が現れる」「謎の病院長・安西輝夫(三浦友和)がなぜか英治への復讐をたくらむ」「一人親として育てる娘・雫(八木優希)が目出し帽のような頭巾をかぶる」というシーンの連続に驚かされた。
しかし、第1話終盤でいきなりその設定を覆すような衝撃の事実が視聴者に明かされる。衝撃的な展開は90年代から続く野島らしいところだが、この明かされた事実が回を追うごとにラブストーリーとしての純粋さにつながり、視聴者に切なさを感じさせていった。
ネタバレを避けるためにこれ以上は書かないが、その事実を知った上で当事者たちがどんな心境になり、どんな選択をしていくのか。英治と美桜、さらに英治に花の知識を授ける菱田桂子(池内淳子)なども含め、目の前の人を思うがゆえの言動に引き込まれていく。