世界最大のITエレクトロニクスショー「CES」のプレビューイベント「CES Unveiled」が米国時間の1月5日にラスベガスで開催されました。日本から出展したテック企業のユニークな展示の内容と製品をレポートします。
多種多様な「AIロボット」を実現するJizaiの開発キット
AIロボットを開発するための先端技術とプラットフォームを提供する「Jizai」(ジザイ)は、自社の看板プロダクトとして開発を進めているカスタマイズ可能な汎用AIロボット「Mi-Mo」(ミーモ)を出展。内蔵するカメラで人の姿を認識して、6本の脚を動かしながら移動できる独立型のAIロボットです。
今回出展したミーモはChatGPTを搭載し、会話によるコミュニケーションにも対応します。ミーモはJizaiオリジナルのロボットですが、同時にJizaiの本業である「AIロボット開発のためのプラットフォーム提供」を周知させるためのリファレンスモデルでもあります。同社のプラットフォームは、ロボットが搭載するAIモデルやハードウェアの形を、採用するパートナーが用途に応じて自由に選べるコンセプトとしています。このように仕様を決めた背景について、同社のテックリード(技術主任)である大嶋悠司氏は「AIエンジニアリングの知見をお持ちの開発者が、まったく別の知見と経験が求められるロボットの開発にも手を伸ばしやすくするため」であると説明します。
Jizaiでは、最終的にミーモをデベロッパのための開発キットとして商品化することを計画中です。2025年内にはサービスを導入したいと大嶋氏は展望を語ります。同社は、今回が初めてのCES出展となるそうですが、Unveiledのイベントでも大いに脚光を浴びていました。ミーモをベースにしたロボットが誕生する日はそう遠くないかもしれません。
転んでも痛くない「人を守る床材」
マジックシールズは、静岡県浜松市に拠点を構えるスタートアップです。代表取締役CEOの下村明司氏は、もともとヤマハ発動機に勤めながらレーシング用バイクの開発に携わっていました。レーサーを転倒時の衝撃から守るためのテクノロジーを開発していたことがきっかけで生まれた“人を守る床材”が、同社の製品「ころやわ」です。
一般的なフローリング床の約2倍の衝撃吸収性を有するという「ころやわ」は、ふつうの歩行時の加圧によっては形を変えず、人が床の上で転倒した時などに形を変えて衝撃を吸収する特殊な素材により作られています。一般的なエラストマー素材をベースにしていますが、その形状やデザインが技術の特徴。床材として快適な歩行を実現しながら、お年寄りや子どもが万が一転倒した時に衝撃を低減します。
国内では、2024年5月1日時点で、600以上の医療機関や福祉施設が「ころやわ」を導入しています。CESでは、海外向けに製品名を「SHINOBI FLOOR」として、米国など7カ国に本格進出を目指しています。下村氏が「ころやわの着想を、忍者が使っていたといわれる水蜘蛛(ミズグモ)から得たこと」から、海外向けのネーミングを決めたといいます。
同社では「ころやわ」をベースに、転倒などを検知できるセンサーを内蔵した新製品も開発中です。高齢者がウェルビーイングを保てる社会に欠かせないプロダクトとして注目されると思います。
MIXIの会話AIロボット、次世代機がアメリカでも好評
MIXIは昨年の10月に発表し、公式ストアで予約販売を開始した会話AIロボットの新モデル「Romi Lacatanモデル」を今回のCESに出展します。
初代のRomiとの大きな違いは、内蔵するカメラで人物の顔を認識できるだけでなく、人物の服装、料理、景色なども分かる視覚機能が充実したことです。思い出を育む「長期記憶」の機能も実装します。担当者の長岡輝氏は「Romiシリーズに搭載するAIモデルとチップセットの両方が進化したことで、2020年6月に先行販売した初代のモデルから大きな進化を遂げることができた」と話しています。
今年のCES Unveiledでは、同社のほかにもたくさんの出展社が個性的な会話型ロボットを展示していました。それぞれに見栄えすることもあり、多くの来場者がロボット系の展示に注目していたように見えました。関連する技術が成熟してきたこともあり「今度こそロボットが来る!」という機運が米国のエレクトロニクス市場で高まっているのだと思います。
NTTドコモの「フィールテック」がCESに進出
NTTドコモも今年のCESに参加します。遠くにあるモノをよりリアルに感じられる“フィールテック”のプロジェクトを展示します。
プレビューイベントの会場では、振動素子を内蔵するハンドヘルドのデバイスを持ちながら、タブレットで再生されている映画の音声に合わせて、デバイスが振動する様子を体感できる没入型視聴のデモンストレーションを体験しました。
7日から始まるCESの本会期中には、別のプロトタイプモデルを使って「引っ張る力」を再現する展示を披露するそうです。
同社は、2024年に世界最大のITモバイルの展示会「Mobile World Congress」でフィールテックを海外に向けて紹介しています。今回のCES Unveiledのイベントでも、多くの引き合いを得たようです。今後は2025年の大阪万博で同様の展示を行い、2026年内を目標に何らかの形でフィールテックをローンチすることを目指しているといいます。
記憶定着をサポートする学習アプリ「モノグサ」
リクルートのグループ会社でオンラインコーチングの「スタディサプリ」の事業を担当していた竹内孝太朗氏が立ち上げたスタートアップ、Monoxer(モノグサ)もCES Unveiledにブースを出展していました。
同社が手がけるサービスが、会社の名前と同じ「Monoxer」(モノグサ)という記憶定着をサポートする学習アプリです。ちょうどよいレベルの問題を、よいタイミングと分量を見計らいながら出題すると「確実に記憶定着の状態まで到達する」ことに着目して開発されたアプリが、現在はさまざまな学校や企業に、学問のため、あるいは社員研修の用途などに採用されています。出題のAIアルゴリズムは同社が独自に開発しており、さまざまな用途に向けてカスタマイズができる仕組みも整っています。
Monoxerの開発により得た知見を活かして、同社は新たに幼児・小学生向けの家庭学習アプリ「Monoxer Junior」の提供を始めました。子ども向けのアプリはゲーム感覚で学べるようにユーザーインターフェースなどを工夫しています。独自のクイズ生成アルゴリズムに関しては、複数の特許が取得できているといいます。
ユーザーインターフェースを各国の言語に対応することで「海外進出も可能」という決断から、今回初めてCESに出展したそう。国や文化によっても異なる学習スタイルにMonoxerのテクノロジーがどのようにフィットするのか、反響が楽しみです。