2025年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う毎年恒例の特集記事「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はChipset編だ。
昨年は"Chipset&NPU編"だった訳だが、NPUがChipsetからCPU側に移行するのと、2025年は余り大きな話が無いので、今回はChipsetに話を絞りたい。
◆関連記事リンク (2025年1月1日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - プロセス編「TSMC」 (2025年1月2日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - プロセス編「Samsung」「Intel」 (2025年1月3日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - CPU編「Intel」「AMD」 (2025年1月4日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - GPU編「NVIDIA」「AMD」「Intel」 (2025年1月5日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - Memory編 (2025年1月6日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - Storage編 (2025年1月7日掲載) PCテクノロジートレンド 2025 - Chipset編 |
---|
***
2025年のIntel Chipset - 間もなくIntel 800シリーズの普及版
2024年10月にArrow LakeベースのCore Ultra Series 2が発売された際に、一緒に発売されたのがZ890チップセット(Photo01)。
プラットフォームそのものが従来のLGA1700からLGA1851になってしまったので機械的な互換性はそもそもないのだが、ある意味当然ながら前世代と電気的な違いは割と少ない。なので技術的に言えば、Intel 600/700シリーズチップセットにArrow Lakeを繋ぐような変態マザーボードを作る事は可能かもしれないが、それをする意味があまりない様に思われる。まぁ多分マザーボードベンダー各社は800シリーズで製品ラインナップを一新するだろう。
さてそのIntel 800シリーズは現状Z890のみだが、これは発表されているCPUがKないしKF SKUのみに限られているからで、2025年に無印やK/T SKUが追加されると、OC動作を前提にしたZ890はオーバースペックであり、当然低コスト向けが出てくることになる。
現在聞こえてきている話(≠Intel公式情報)ではローエンドのB810、メインストリーム向けのB860、Business Client向けのQ870、それとWorkstation/Server向けにW880/W890が用意される(他にMobile向けにWM880とWM870が用意される:前者はMobile Workstation、後者はGaming Mobileなどを含むハイエンドモバイル向け)とされている。
さてこの仕様を現在判っている範囲でまとめたのが表1である。CPUとの接続は、H810/B860のみDMI Gen4 x4だが、他はx8。DMI Gen5はまだ当分来ない事になっているようだ。
Processor Overclock/Memory Overclockが出来る製品はZ890以外にGaming Mobile向けのHM870と、ワークステーション向けのW890に限られるのは当然であろう。
またH810を除くと、全製品が2DPC(2 DIMM Per Channel)をサポートする。もっともCAMM2が普及するとあまり意味が無くなりそうではあるが。ECCサポートは当然ワークステーション向けのみである。
PCIe周りも、H810/B860のみがややグレードを落とされているが、そもそもDMIがこの2製品のみx4だから無暗にPCHのレーン数を増やしても性能が上がらないだけである。むしろ気になるのはH810/B860(とW890)のみ、CPU側のPCIe 4.0×4レーンが無効化されているのが気になるところだ。
なおIntel 700シリーズとの差として、PCIe 3.0レーンが完全に排除され、全部PCIe 4.0になった事が挙げられる。ひょっとしてH810とかはまだPCIe 3.0が残るかと思ったが、幸いそうした事は無かった。
あとはおおむね見る通りの構成で、それほど違和感がある項目は無い。まぁ順当なところだろう。おそらくこちらはK/KF以外のSKUのArrow Lakeの発表に合わせて同時発表され、マザーボードベンダー各社もこれを採用した製品の出荷を開始するものと思われる。
問題はこの次である。CPUの所で説明したように、2025年中にArrow Lake Refreshが出るとすると、これに向けてIntel 900シリーズチップセットが用意されることになる筈だが、どこで差別化を図るのかが難しい。恐らく現状はDDR5-6400までのサポートになっているのがDDR5-7200までサポートするとか、Overclockの対応幅を広げるなどの小変更に留まる事になるかと想像される。丁度Intel 600シリーズと700シリーズに大きな差が無く、BIOS UpdateでRaptor Lake Refreshまで動作してしまったため、Intel 600シリーズと700シリーズが混在していたLGA 1700のマザーボード事情と同じような状況が再び繰り返されるかもしれない。
2025年のAMD Chipset - Zen 6が伸びたなら、今年は動きなし?
もっと変更がないのがこちらAMD。CPU編で説明したように、CESではX無しSKUが公開されると思われるが、あとは3D V-Cache搭載モデルの拡充とZen 5ベースThreadripper、それとCPU編では触れ忘れたがRyzen 8000Gの後継モデルである。この中でチップセットの更新がありそうなのはZen 5ベースのThreadripperのみで、後は現在のAM5チップセットで十分対応できるし、そもそも更新の必要性が薄い。またZen 6ベースのDesktop CPUの刷新が恐らく2026年まで伸びるとなると、タイミング的にも新しいチップセットを導入するのは難しい。
そもそも現状のAM5プラットフォームでIntelに比べて欠けているのは
- DDR5-6400以上の対応、及びCU-DIMM/CSODIMM、CAMM2への対応
- Thunderbolt 4/USB4の内蔵
だが、前者はチップセットというよりはCPU側の問題であって、これはFirmware/Microcodeの刷新などで可能になる。まぁValidationの結果としてマザーボードそのものに手を入れなければならない可能性はあるが、チップセットそのものを刷新する必要は無い。
一方後者はポリシー的にチップセットに入れるつもりは無いようで、Discreteのコントローラで十分と考えている様だ。まぁその考え方は筆者にも理解できる。
なので、例えば今年のCOMPUTEXなどで新しいAM5対応のマザーボードが投入される可能性はあるが、新しいAM5向けチップセットが導入されるという可能性は低いと思われるし、実際話はさっぱり聞かない。
むしろ何かあるとすればThreadripper向けであり、現在のWRX80/TRX40とは互換性が無いから、ここは新しいものが投入されることになるかと思われる。ご存じの通りThreadripperは言わばEPYCのサブセットであり、なのでWRX80の後継機種は12ch DDR5、TRX40の後継機種は6ch DDR5という事になりそうだが、この辺は具体的なThreadripperのダイの構成次第の所があるので、案外TRX40後継は(マザーボードの小型化のために)DDR5は4chで据え置きの可能性も否定はできない。
AMDは2027年までAM5プラットフォームの維持を明言しているので、その意味ではあんまり大きな変更はチップセット側には考えられにくい。少なくとも2025年は現在の600シリーズと800シリーズのまま行くだろうと思われる。