「更年期障害」というと女性特有のものといったイメージがあるかもしれませんが、更年期障害は男性にも起こります。中高年になってから、病気ではないのに「何となく不調を感じる」「突然のほてりや発汗がある」などの症状が続いた場合、それは男性更年期のトラブルかもしれません。
今回は、男性更年期障害について、女性更年期障害との違いや、改善するために大切な生活習慣などを解説します。
■男性更年期障害とは
男性更年期障害の症状はさまざまあり、ほてりや動悸などの「身体症状」、強い不安を感じる、気分が沈むなどの「精神症状」、性欲減退などの「性機能症状」がみられます。男性更年期障害は、加齢やストレスに伴って男性ホルモン(テストステロン)が減少することで引き起こされ、医学的には「LOH(ロー)症候群」「加齢性腺機能低下症」とも呼ばれています。
テストステロンが減少する主な原因は加齢ですが、近年では、生活習慣や環境もテストステロンの分泌量を左右することが明らかになっています。また、糖尿病や肥満症、メタボリックシンドロームなど生活習慣病との関連もわかっており、テストステロンが少ない人はこれらの病気にかかりやすいとも言われています。
男性の更年期障害は一般的に40代から徐々に増えてくると言われていますが、男性ホルモンが減少する速さや度合い、時期は個人差が大きいため、40歳代以降のどの年代でも起こる可能性があります。
■男性更年期障害の症状
男性の更年期障害の症状は人によって異なりますが、大きく「身体症状」「精神症状」「性機能症状」の3つに分けられます。具体的には、それぞれどのような症状がみられるのでしょうか。
<身体症状>
疲れやすい、関節症・筋肉痛、筋肉量の減少、発汗・ほてり、頭痛、肩こり、腰痛、手足の冷え、太りやすい、頻尿、骨がもろくなる、動悸、めまい、吐き気、手足のしびれやこわばり など
<精神症状>
イライラしやすい、不安を感じる、パニック状態になる、気分が沈む(うつ状態)、不眠、以前より興味・意欲がわきにくい、集中力・記憶力の低下、仕事のパフォーマンスが落ちる など
<性機能症状>
勃起障害(ED)、性欲の減退 など
この中でも特に、不眠や疲労感、気分が沈むなどの症状は、男性更年期障害なのかうつ病なのか見極めが難しいことがあります。重度のうつ病の場合は判断がしやすいですが、症状が軽い場合、両者の区別がつきづらいことが多いようです。
ただし、希死念慮(死にたいと思うこと)などがある場合、すぐに精神科専門医を受診することが大切です。
■女性更年期障害と男性更年期障害の違い
男性にもみられる更年期障害ですが、女性と比べるとどのような違いがあるのでしょうか。女性の更年期障害は、閉経を境に女性ホルモンが急激に減少することで起こり、症状も急に現れます。そのため、女性の更年期障害は比較的認識されやすく、診断や治療が確立しています。
一方、男性には女性の閉経のようなはっきりとした節目はありません。男性ホルモンの減少は20代から始まり徐々に進行しますので、症状も徐々に現れるという特徴があります。そのため、男性の更年期障害は、加齢による身体機能の衰えなのか、更年期障害による不調なのか、区別がつきづらいと言えます。
さらに、男性の更年期障害は女性と比べて身体症状よりも精神症状の方が多くみられることも特徴の一つです。どのような男性が更年期障害を発症しやすいのかはまだはっきりしていませんが、神経質でまじめ、責任感や競争心の強い人は発症しやすい傾向にあると言われています。
ただし日本では、男性の更年期障害の研究が始まってから20年程度しか経っておらず、その全貌は明らかになっていないのが現状です。
■改善するために大切な生活習慣は?
男性の更年期障害は加齢やストレスによる男性ホルモンの減少が原因であり、防ぐのは難しいのが実情です。しかし、普段の生活習慣の見直しを心がけるだけで、男性ホルモンの維持が期待できます。男性ホルモンは男性特有の筋肉や性機能だけに働くのではなく、認知機能や血管の健康にも関係しているため、それを維持することは中高年男性の健康のカギとなります。
生活習慣の改善としては、以下のような点を意識しましょう。
・規則正しい生活を送る
・充分な睡眠、休養をとる
・ストレスを溜め込まない
・栄養バランスに配慮した食事をとる
・適度な運動で適正体重をキープする
・ビタミンD、亜鉛を含むサプリメントを摂取する
・喫煙を避ける
食事については、テストステロンの産生を増やす食べ物(にんじん、たまねぎなど)や、たんぱく質(肉、卵、乳製品など)を積極的にとりましょう。
これらの生活習慣を意識しても症状が良くならない場合、症状に応じた薬物療法が行われることがあります。その他の治療法としては、「ホルモン療法(アンドロゲン補充療法(ART))」があり、日本においては、「テストステロン製剤」と呼ばれる治療薬を定期的に筋肉に注射する方法が保険適用となっています。
最後に更年期障害の予防法や症状を和らげる方法に関して、泌尿器科の専門医に聞いてみました。
男性ホルモンの95%以上は精巣由来であり、残りは主に副腎において生成されます。テストステロンは20歳台でピークを迎え、50歳以降は年に1%ずつ低下すると報告されています。最近では年齢よりも併存疾患・肥満・生活習慣が、よりテストステロンの低下に影響を与えるとのエビデンスが明らかにされてきています。これは、上記の生活習慣の改善がテストステロン低下の予防にもつながることを意味しています。
治療法としては【1】アンドロゲン補充療法、【2】PDE5阻害薬(シルフィナデル、タダラフィル)、【3】漢方(当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸)などがあります。男性更年期障害の診断と治療のプロセスにおいては、泌尿器科と精神科をはじめとする多くの科との協力が重要な役割を有していると思われます。