宮城県加美農業高等学校は、NTT東日本およびNTT e-Drone Technologyの協力のもと、国産農業ドローンを使ったスマート農業に関する授業やドローンによる農薬散布実演などを2024年7月に実施。今回はあらためて当時の様子を関係者に振り返ってもらった。

  • (写真後列左より)宮城県加美農業高等学校 実習講師の遠藤正志氏、宮城県加美農業高等学校 農業科 科長の佐伯友也氏、NTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当 チーフの菊地浩紀氏、NTT e-Drone Technology サービス推進部 普及部門 担当部長の佐々木達也氏、(写真前列)ドローン実習に参加した宮城県加美農業高等学校の3年生

加美農業高校は、「地域とともに農業界の次代を創造する人材を育成する」という学校教育目標のもと、全国屈指の広さを誇る校地をフィールドにICTの活用や探究的な学びを通じ、将来にわたって農業スペシャリストとして活躍できる人材の育成を目指している。

一方、NTT東日本は、地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業をビジョンに、高品質で安定した通信サービスの提供やICTの活用を通じ、地域の課題解決に取り組んでいる。その一環として「(加美農業高校がある)色麻町役場にドローンの活用について提案していた」ことが今回行われた連携のきっかけになったと、NTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当 チーフの菊地浩紀氏は振り返る。

  • NTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当 チーフの菊地浩紀氏

一方、加美農業高校では、例年、ラジヘリ(ラジコンヘリコプター)を使った防除作業を夏場に行っていたが、色麻町役場からNTT東日本の提案を聞き、「学校のほうでも、スマート農業や最新の農業技術を授業の中に取り込んでいきたいという話をしていたところだったので、夏場の防除にドローンの活用を取り入れさせていただくことになりました」と、実習を行った経緯を説明する加美農業高校 農業科 科長の佐伯友也氏。

  • 加美農業高校 農業科 科長の佐伯友也氏

もともとNTT東日本が色麻町にドローンの提案を行ったのは、同町に限らず、全国的に農業人口の高齢化が進んでいる中、ドローンを導入することによって、稲作地帯の作業効率の向上を目指すことが目的だった。「実際、あまりなじみのない農家が多く、受け入れ体制を構築するのはなかなか困難」という現状において、「それならば、これからの農業を担う子どもたちに、そういった先進的な技術や知識を取り入れることで、今後の発展を目指したい」との想いから、農薬散布の実演だけでなく、ドローンの種類や様々な活用方法など知識的なことも取り入れた授業が行われた。

「NTT東日本さんと農業がリンクするイメージがまったくなかったので、最初にお話を聞いたときは驚きが大きかった」という加美農業高校 実習講師の遠藤正志氏。実際に実習においてドローンを見た際も、そのコンパクトなサイズ感に驚いたと同時に、「ラジヘリの場合は、薬剤散布の際に、けっこうドリフトしたりすることもあるので、あまり生徒たちを連れて見に行くことが難しかったのですが、ドローンはコンパクトなこともあって、安全を確保しながら、作業風景を見せることができる」と、教育現場ならではの見解を示す。また、「モニターを通して、散布している様子を実際に見ることができるのもドローンの大きな特徴で、的確に作業が行われているのを見るだけでも大きな刺激になった」とドローンの印象を振り返る。

  • 加美農業高校 実習講師の遠藤正志氏

「もともと農薬散布用ドローンの日本における市場は、7~8割が中国のメーカーに占められていた」というNTT e-Drone Technology サービス推進部 普及部門 担当部長の佐々木達也氏。こうした現状から、サプライチェーンやセキュリティの観点から同社においても4年前から農業用ドローンの開発・製造が進められている。今回の実習で使用された「AC101connent」についても、日本の農家に選ばれるために、ヒアリングを重ねることで、日本の農業現場に適した設計が行われている。

  • NTT e-Drone Technology サービス推進部 普及部門 担当部長の佐々木達也氏

「日本の場合、圃場が分散していて、かなり離れた場所に点在して所有している農家さんが多く、見渡す限り自分の田んぼですという方は非常に少ないのが特徴。そのため、作業を行う場合も、機材を移動させるだけでも一苦労で、手間が掛かるだけでなく、農薬散布の適期を逃してしまうことも珍しくありません」と日本の現状を指摘。「AC101connent」がコンパクトさを重視した設計になっているは、「そういった環境では、持ち運びが容易であることが重要。さらに、コンパクトにすることにより、ひとつのバッテリーで長く飛べる、つまり長く散布できるのも大きなメリットとなります」と佐々木氏は付け加える。

なお、従来から使用されているラジヘリとの違いについて、「作業効率が全然違う」という佐伯先生。ラジヘリ以上に短い時間で農薬を散布できることに驚きを覚えたという。また、ラジヘリは農協への委託となるため、なかなか散布のタイミングを合わせられないのが悩みのひとつとなっているが、ドローンが導入されれば、そのあたりの課題解決にも繋がることに期待を寄せる。

「実際のところ、中山間地域や大規模に整備された圃場であれば、ラジヘリのほうが散布効率は良いかもしれない」というNTT e-Drone Technologyの佐々木氏だが、「日本の多くの圃場は、形がイレギュラーであったり、近くに林や森があることが多いので、小回りの効くドローンのほうが効率がよい」と話す。「ドローンを操縦するとなると、不安を抱える方も少なくないと思うのですが、ゆっくり離着陸させたり、ゆっくりフライトさせたりしても問題がないように、エンドユーザー目線で開発・製造をしています」と自信を覗かせる。

■実習に参加した生徒の意見は?

7月に行われたドローンに農薬散布の実習には、加美農業高校で稲作を学ぶ3年生と2年生、さらに農業機械科の生徒が参加。ここでは、実習に参加した同校3年生の大場政光さん、角田直優さん、早坂透眞さん、佐藤永遠さんの4人に、当時の感想を振り返ってもらった。

  • 自分たちが生産した農産物を手にする加美農業高校の3年生

「スマート農業の活用という課題研究で、ドローンについてもある程度は学んでいた」という生徒たち。中には実際にドローンを趣味として所有しているという生徒もいるなど、実習以前からドローンに対する興味・関心は高かったが、実習の話を聞いた際は、「実際に何ができるかまでは調べられていなかったので、(実習が行われることに)驚いたのと同時に、非常に楽しみでもありました」と当時を振り返る。

そして、実際の実習では「想像以上の機動力」や「動噴(動力噴霧器)でよりも1/7の時間で散布できる効率性」を体感し、「ドローンを使うことによって、燃料、人員、そして時間も削減できるので、スマート農業の実現には非常に貴重な存在」であることを認識。低コストであることに加えて、その安全性についても高く評価する。

ドローンの活用をはじめとするスマート農業について、高校卒業後に就農を予定している生徒は、「積極的に取り入れていきたい」と目を輝かしつつ、高齢者が多い現状においても、「高いところの作業などでは、はしごの昇り降りなど危ないこともけっこう多いのですが、スマート農業であれば、スマートフォン1台で水の管理などができるので、安全面でも大きな意味がある」と話す。「現在は物価の高騰などもありますが、機材の価格がもっと下がれば、導入のハードルも下がるのではないか」と今後の展開に期待を寄せた。

  • 加美農業高校で生産された農産物。手前中央はドローンによって農薬散布が行われた米を原料とした「DRAWN麺」

■高校だけでなく町全体の課題として

「今回、これからの農業を背負っていく生徒たちに、ドローンの魅力を伝えられたことは非常に大きい」という遠藤先生だが、「実際に今、農業をされている方々へ魅力を伝え、認知度を高めていくことが喫緊の課題」と指摘する。

佐伯先生も「取り入れてみたいという方も多い一方で、なかなか受け入れられないというハードルもある。その差を縮めていく取り組みを、地域の方々と連携しながら、学校現場から広めていくことが求められている」と、学校が地域との橋渡しのような存在になる必要性を言及。「これから農業を担っていく生徒たちは、すでに新しい技術が身近にあり、それを活用していこうという意識もあるので、実はあまり問題がない。一方で、長年農業に携わってきた方の固定概念をいかに変えていけるか。時間は掛かるかもしれませんが、そこが重要だと思っています」と、現在の農業が抱える課題を示す。

実際今回も、学校現場だけでなく、地域を巻き込んでの実習が計画はされていたが、「なかなかタイミングをあわせるのが難しく、周知を含めて、うまく広げられなかった」と振り返る。「実際にドローンでの作業を見せれば、作業効率の良さなど、そのメリットや魅力を感じさせることはできるはず」と前置きしつつ、「農家の方を納得させるためには、機材コストや操作するための資格など、見えていない部分のほうが重要になる」と佐伯先生。「我々もそこをしっかり見据えて、農家の方が納得できるような仕組みを作らなければならない」と今後の課題を示す。

「年配の方にとって、ドローンの操縦は非常に高いハードルを感じさせる」というNTT e-Drone Technologyの佐々木氏。「若い方にドローンを使った農業のDX化や省力化を学んでいただきたいですし、逆に若い人たちが高齢者の農家の方たちの代わりに、ドローンを使った農薬散布を行うといった世界が、色麻町を中心にできあがっていくかもしれない」と、新たな展開に期待を寄せる。その上で、「たとえば、加美農業高校の生徒さんが在学中にドローンの操縦資格を取得できるような仕組みが作れれば、夏休み期間中などに近隣の農家さんの農薬散布を代行して、バイト代なんかを貰うといった取り組みもできる。そうなれば、生徒さんにとっても、地域の方にとってもWin-Winな関係が築けるのではないか」との腹案を提示。

また、稲作だけでなく、畑作や酪農、林業などにもドローンが活躍できる場は広げられると続け、その中のひとつとして、鳥獣害対策についても言及。「農薬散布用のタンクの代わりに、鳥獣害を防ぐための忌避装置をつけたドローンを飛ばすことで、圃場に野生動物などが入ってこないようにする取り組みを用意している」という佐々木氏は、鳥獣害対策のために生徒たちがドローンを活用することも、地域に対する大きな貢献になることを示した。

生徒にドローンの資格を取得させるにはコストの問題がハードルになる。「そこをいかにクリアするかが大きな課題であり、さらには、実際に取得した後、その資格をうまく活用できる流れも作る必要がある」と問題を整理しつつ、「佐々木さんのおっしゃったバイトの話もその一つになると思いますが、資格を取ることが地域貢献に繋がるなど、取得から活用方法までの流れをうまく作ることができれば、積極的に取得を勧められる」と、学校側も前向きな姿勢を見せた。

最後に、今後はNTT東日本およびNTT e-Drone Technologyと連携しながら、学校現場での実習を重ねていきたいという佐伯先生。「今回携わったのは、稲作中心に学んでいる生徒だけでしたが、ドローンには様々な用途があるので、学校内でも呼びかけを行い、賛同できる生徒や先生方を増やし、学校というフィールドと生徒という力をドローンに繋げながら、地域も巻き込んだ活動を次年度以降は取り組んでいきたい」との展望を明かす。

NTT東日本の菊地氏も「NTT東日本としても、地域ぐるみで課題解決や地域活性に繋げていきたい」と同意。「今後はドローンに限らず、農業が抱える課題解決や省力化、生産性の向上に寄与できるような取り組むを一緒に進めていきたい」との意向を示した。

  • 厳しい冬を迎える加美農業高校