世界最大のITエレクトロニクスショー「CES」がアメリカのラスベガスで2025年1月7日(現地時間)から開催されます。現地時間の5日と6日には、リゾートホテルのマンダレイ・ベイでメディア向けのプレビューイベント「CES Unveiled」を開催。CESを主催するCTA(全米民生技術協会)のスポークスパーソンであるブライアン・コミスキー氏に、今年のCESで注目すべきテーマを聞きました。海外企業の面白い展示の内容とともにレポートします。
人を助ける「AIエージェント」に注目が集まる
コミスキー氏はCTAで、エレクトロニクス市場のトレンドに関連する調査・分析を専門に扱うアナリストとして活躍するキーパーソン。2025年CESの見どころは「生成AIがエレクトロニクス市場にもたらすインパクト」に注目してほしいとコミスキー氏は呼びかけています。
「2024年のCESでは、生成AIとエレクトロニクスの融合が本格的に始まったことを皆さんに証明しました。あれから1年が経ち、生成AIのテクノロジーはユーザーの生活とより深くつながり、さらに個人に最適化されたサービスを提供する段階にまでレベルアップしています。AIは、ユーザーからの質問にただ答えるだけでなく、ビジネスや日々の生活を自律的に支援する『AIエージェント』になりつつあります。その最先端の形が今年のCESに集まるだろうと私も期待しています」
今年は、CES Unveiled会場のいたるところで、人型ロボットが来場者と会話を交わしたり、颯爽と動き回る様子が目に飛び込んできました。「より人間らしいレベルで表現し、考えることができるようになるロボット」も、コミスキー氏が今年のCESで注目すべきテーマに挙げています。
今から10年前のCESでは、4Kテレビやインターネットにつながるスマート生活家電があふれていました。筆者が知る限り、近年ではこのようなコンシューマ向け生活家電の展示が少なくなった代わりに、自動車と自動運転に関連するテクノロジーやヘルステック、産業関連に先端テクノロジーを活かしたサービスの存在感が増したように見えます。今年は、デルタ航空のエド・バスティアンCEOがCESの開催期間中に基調講演を行い、安全な飛行制御を行うためにAIを活用する同社の先端テクノロジーを披露する予定です。
2025年のCESでは、ソニーが協賛する特別展示スペース「CES Creator Space」が初めて誕生します。イベントのメイン会場のひとつであるラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)のホールの一角が、世界各国のクリエイターが先端のテクノロジーを活用して制作したコンテンツの展示会場、あるいはネットワーキングのためのスペースになります。コミスキー氏は「従来のエレクトロニクスのプロダクトやサービスから最先端のAIやロボティクスまで広くカバーしながら、クリエイターによる創作の成果までが一箇所に集まるCES」をさらに活気あふれるショーにしたいと語りました。
毎日鏡を見るだけで健康チェックができる
CES Unveiledにも、海外と日本のユニークな出展社が数多く参加していました。このレポートでは、海外企業の面白い展示をいくつかピックアップします。
台湾のG1 Intelligent Technologiesは、人間の顔画像を認識して、心拍など生体情報を正確に検出する独自のアルゴリズム「FaceHeart」を開発するソフトウェアエンジニアリングの企業です。今年のCES Unveiledには、同社の技術を組み込んだスマートミラー(姿鏡)とスマホアプリのリファレンスモデルを展示しました。
同社の技術は、一般的なデバイスのカメラを使ってユーザーの顔画像を30~40秒前後スキャンするだけで、正確な生体情報を取得できるところにあるといいます。心拍モニターのような機能は、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスに内蔵されているパターンを多く見かけますが、G1 Intelligent Technologiesでは「姿鏡やスマホのように、日常生活でより多くの人々が毎日使っているデバイスや家具に心拍計測の機能を組み込むことによって、もっと気軽に健康管理ができる環境を提供したい」というコンセプトから、今回のリファレンスモデルを制作したそうです。
残念ながら、同社がスマートミラーやスマホアプリを独自のプロダクトやサービスとして展開する予定はないといいますが、代わりにFaceHeartのSDKを外部のデベロッパに提供しています。CESにも過去数年出展していることから、FaceHeartに興味を持ち、パートナーとして名乗りを挙げる相手が増えているそうです。面白い製品が近々出てくることを期待しましょう。
iPhoneがスマートロボットになる!
TANGIBLE FUTUREは、中国の深圳(シンセン)に拠点を構えるAIロボットのスタートアップです。CESには、最新プロダクトである「LOOI」(ローイ)を出展します。本機はスマホを活用するコミュニケーションロボットです。
ローイは、車輪を搭載する自走方式のロボットがベース。本体のワイヤレス充電コネクターにiPhoneやAndroidスマホを装着してアプリを起動すると、スマホがロボットの「顔」のようになります。ローイは、音声入力や画面のタッチ操作に対応しながら、ユーザーとコミュニケーションが交わせます。チャットのAIモデルにはOpenAIのChat GPTを採用しています。
同社は、キックスターターからローイを商品化しました。現在は、同社の直販サイトなどを通じて世界中から注文できるそうです。価格は169ドル(約26,000円)。CEOのGray Zhang氏は「多くの人が気軽にAIロボットを楽しめるようにローイを作った」と語っています。ベースのロボットにオモチャっぽさがなく、作りもかなりしっかりとしていました。会話の日本語対応がまだできていないそうですが、英語では流ちょうに受け答えしていました。アメリカでかなり人気を集めそうです。
Apple WatchでiPhoneを「マウス操作」
筆者は、昨年のCES Unveiledレポートでフィンランドのスタートアップ「Doublepoint」(ダブルポイント)が開発した「Wowmouse」(ワウマウス)を紹介しました。今年、同社はCES UnveiledでWowmouseの大きなアップデートを発表し、待望のApple Watchバージョンが誕生します。
Wowmouseは「スマートウォッチによるジェスチャー操作をパソコンのマウスのように扱えるようなアプリ」です。グーグルのWear OSで先行対応していたアプリが、1月5日からApple Watch対応版がApp Storeで公開されました。Wear OSバージョンのデモを見る限り、Apple Watchを装着した手首を動かしながら、スマホの画面上でマウスのポインターを操作して、指先のタップ操作でアイコンを選択できる操作感が画期的です。
筆者も、App StoreからwatchOS版アプリをApple Watch Series 10に入れてみました。ところが、残念ながらタップ操作が認識されず、ジェスチャー操作のガイド画面が表示されるところで頓挫してしまいます。同社はCESの本会場にも出展しているので、またブースを訪れることができたら状況を伝えてみたいと思います。
続いての記事では、CES Unveiledに出展した日本企業の展示をまとめてレポートしたいと思います。