2025年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う毎年恒例の特集記事「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はStorage編だ。
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NAND Flash
NAND Flashの記憶容量増加の勢いは若干鈍化したか? という感じではあるのだが、それでも2024年は各社から大容量3D NAND Flashが発表された。Samsungは2024年4月に第9世代のTLC V-NANDの量産開始を発表。同年10月にはQLCの量産も開始した。この第9世代V-NANDは290層であり、更に2025年には430層の第10世代の量産を予定している事も明らかにしている。
SK Hynixは2024年11月、321層積層の量産開始を発表。容量1Tbitとされる。
Micronは2024年6月、276層となる第9世代NANDと、これを利用したData Center向けSSDの量産開始をアナウンス。TLCで1Gbitの容量である。2024年7月末には、同じく第9世代NANDを利用したコンシューマ向けSSDの出荷開始も発表している。
Kioxiaは2024年7月、第8世代BiCS Flashのサンプル出荷を発表している。218層ながらQLCで2Tbit、Read/Write性能を強化したTLC版は1Tbitの容量を持つ。ちなみに2024年8月に開催されたFMS(the Future of Memory and Storage) 2024では、この2Tbit QLCと1Tbit TLCは構造が大分異なっている事も明らかになっている。
という訳で、主要なメーカーは2024年中に1ダイあたり1Tbitの容量を既に実現している。今年は恐らくSK Hynixに続き、その他のメーカーも300層を突破するかもしれない(SK Hynixは400層を実現するとしている)。
もっとも、300層を超えたからといってすぐに容量が倍になる訳でもないし、価格が大幅に下がるわけでもない。というか主要なメーカーがダイ1枚で1Tbitを実現した時点で、これを8枚積層するだけで1TBのNAND Flashの完成である。ということは、表裏に実装するならM.2の2210サイズですら2TBのNVMe SSDが実現できる訳で、2280サイズなら片面最大4つまでチップを積層出来るから、現在のデマンドを考えると短期的には十分といったところだろう。
むしろ問題は本格的にPCIe Gen5 x4への移行が進むことで、帯域が足りなくなる事だ。例えばPHISONのPS5026-E26、爆熱でご存じの、世界初のPCIe Gen5 x4対応NVMe SSD Controllerであるが、こちらのスペックは
Sequential Read 最大14,000MB/s
Sequential Write 最大12,000MB/s
4K Random Read 最大1,500KIOPS
4K Random Write 最大2,000KIOPS
を誇るが、これを実現するためには8chのFlash I/Fの全部にNAND Flashを接続する必要がある。ちなみに最大構成における動作中の消費電力は実に11.2W。そりゃファン付きのヒートシンクが必要になる訳である。
で、この後継というか爆熱を改善したのがPS5031-E31Tで、プロセスをTSMCの12nmから7nmに微細化したことで消費電力を減らしたのだが、同時にFlash I/Fが4chに減らされており、結果
Sequential Read 最大10,600MB/s
Sequential Write 最大9,600MB/s
4K Random Read 最大1,500KIOPS
4K Random Write 最大2,200KIOPS
とピーク性能が下がっているのが判る(ちなみに消費電力は現状公開されていない)。爆熱の改善のためにプロセスだけでなく動作周波数も下げた&回路規模を小さくした様で、結果として性能も下がっている訳だ。PHISON以外にもコンシューマ向けPCIe Gen5 x4のコントローラは2024年中に出て来ており、2025年は本格的にこうした製品が展開されてゆく事が期待されるが、この際にはNAND I/FのChannel数も重要であり、恐らく高速性を売りにする製品は8ch構成を取ることになるだろう。つまりM.2 2280サイズで表裏にそれぞれNAND Flashが4チップづつ搭載される構成だ。
問題はこの8チップの容量である。先に書いたように現在では1チップで1TBが可能になっているが、これをそのまま搭載すると8TBで、当然製品価格も相応に跳ね上がる(あとPS5026-E26は最大4TBなので、1TBチップを繋いでも半分無駄になる)。なので実際には128GB~512GBのチップを8つ繋いで1TB~4TB構成とするのが商品構成上理に適っている。
こうした事を考えると、やはり2025年もメインストリーム向けは1TB~2TBあたりで、ちょっち高価格なのが4TBといった状況のまま変わらない事が考えられる。ただ2025年後半になると、8TB製品もぼちぼち出てくるかもしれない。
ちなみに価格がどこまでこなれるか、は予測が難しい。長期的に見ればbit単価が下がる方向に行くのは間違いないのだが、それは年単位の話であって2025年中の変動までは見通せない。Google先生に聞いてみたところこういう返事が返ってきた(Photo01)。
HDD
NAND Flashに押されて消える消えると言いつつ未だに健在なのがHDD。
理由はいくつかあって、一つは容量単価。昨年も触れたが、未だにNAND FlashはHDDを凌ぐ容量単価を実現出来ていない。昨年同様ちょっと価格を見てみたい。表1は1月3日現在のAmazonにおけるSeagate IronWolf Proと、同じSeagateのFireCuda 530Rを比較したものだが、容量単価は比較にならないのが判る。勿論SSDの方はもっと安い製品(例えばSamsung 990 Pro)もあって、こっちだと2TBだと同等まで落ちてるが、そもそもHDDの方は2TBなんぞ割高極まりない訳で、容量を大きくすると\4,200/TBあたりまで落ちているが、SSDは当然こんな域には達しない。
もう一つの理由は容量の絶対値である。2024年のハイライトは、熱アシスト方式がついに実用になった事だ。Seagateは2024年1月に、東芝は2024年5月に、WDは2024年10月に、それぞれ30TBクラス製品の発表を行った。2024年中はサンプル出荷が殆どであり、また当初はEnterprise向けということでリテールではなくサーバー/ストレージベンダーへの提供がメインであるが、2025年中にはこれがリテールまで降りてくることも予想される。というか既に20TBクラスのHDDは普通に買える(IronWolf Proも24TBまでAmazonに並んでいる)。この容量をNVMe SSDで実現しようとすると、例えばこういうものに4TB SSDを大量に装着する事になる。確かに馬鹿っ速にはなるだろうが、コストの方もうなぎ上りである。
ちなみに熱アシストの方式は、Seagateと東芝がHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording:熱アシスト磁気記録方式)、WDはMAMR(Microwave Assisted Magnetic Recording:マイクロ波アシスト磁気記録方式)となっているが、どちらにしてもプラッタ1枚あたり3TBを実現。各社ともこの先プラッタあたり5TBあたりまでは視野に入っているとしており、ドライブあたり50TB時代が見えてきたことになる。既にNANDの側は積層数の伸びが次第に鈍化、多値化もデータの保持能力などを考えるとQLCが現在の限界であり、その先のPLC(Penta Level Cell:5bit/Cell)はまだ研究段階に留まる。というかQLCをPLCにしても、25%しか容量が増えないというあたりは、あまり助けにはならない事は明白である。
なので引き続きHDDはPCに欠かせないコンポーネントであり続けるだろう。昨年も触れたが、動画の記録が一般的になりつつあるが、カメラの高性能化もあって必要となる容量は増える一方である。個人的な話で言えば、2024年10月にSSTRに参加したのだが、その際の行程をInsta360 One RSで記録した。この動画ファイルの容量が2日分で1TB弱である。1080pで撮影してこれだから、最近の360°カメラ(Insta360 X4に結構心惹かれている)なんぞだと2TBでは効かないだろう。編集中に作業用SSDに移すのはアリだと思うが、常時SSDに保存するのはちょっと論外かと思う。