2025年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う毎年恒例の特集記事「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はMemory編だ。
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DDR
まずMain MemoryであるDDR5。DRAM Exchangeの2024年末の比較(Photo01)で言うと、DDR5 16GがSession Averageで$4.686、同様にDDR4 16Gが$3.246で、大分価格差が近づいてきた感がある。ちなみにこれはSpot Priceであるが、2024年12月29日付のContract PriceではDDR5の8GB SO-DIMMがAverage $25.20、DDR4だと$18.50でPremierは更に少ない(36.2%)。PC Parts Pickerのメモリ価格追跡によれば、DDR4-3200 2×16GBの値段は$60程度(Photo02)、DDR5-4800は$70程度(Photo03)になっており、かなり価格が接近してきた。既に高価格のDRAMはより高速なDDR5-5200とかにDDR5-5600などに移行しており、OC動作でない定格のDDR5-4800に関しては同容量のDDR4-3200とそれほど価格差が無くなってきた。恐らく2025年の中旬頃までには完全にDDR5のPremierが無くなり、以後はむしろDDR4の方が高価格になるBit Crossが発生するものと思われる。
そんなDDR5であるが、DRAMベンダートップ3社(Samsung、SK Hynix、Micron)は既に10nm世代でかなり先行している。
Samsungは12nmプロセスで10.7GbpsのLPDDR5Xの開発を2024年4月に完了し、同6月にはそのLPDDR5X-10700がMediaTekのCertificationにパスした事を発表した、同8月には量産を開始している。10月には第5世代の10nmプロセス(11nm?10nm?)を利用したGDDR7 40Gbpsの開発に成功した事を発表している。第5世代に関してはもう少し先(まずは利幅の大きいGDDR7とかLPDDR5X/LPDDR6、HBM3E/HBM4などに振り分けるだろう)だが、12nmに関しては2025年以降のDDR5の主力プロセスになると思われる。
SK Hynixも2024年8月29日に、10nmの第6世代となる1c nmプロセスを利用したDDR5の開発完了をアナウンスしており、2025年には量産に入るものとみられる。
Micronはまだ広島工場で開発中であるEUVを利用した1γnmプロセスの開発完了のアナウンスが無い(元々2026年以降の生産予定となっている)ので、今年は引き続き1βnmプロセスでの製品投入となるが、それでも既にDDR5-6400のサンプル出荷を開始中(例えばこれ)であり、今年量産に入るのは間違いない。
そんな訳でDRAMメーカートップ3社は、2025年中にDDR5-6400の量産に入るのは確実かと思われる。
問題はむしろClient側にある。端的に言えば、現在のDIMMのままだとDDR5-6400をどこまで安定して利用できるかちょっと怪しくなっているためだ。要するに信号速度が速すぎるという話である。実はこれに関する対策は既にJEDECで議論になっており、既に解決策も標準化されている。こちら2024年のCOMPUTEXレポートで書いたCAMM2、及びCU-DIMM/CSODIMMである。CAMM2及びCU-DIMM/CSODIMMのメリットはレポートに書いた通りで
- CAMM2 : 省スペースで実装できる。またメモリコントローラとDIMMの配線が最小化されるので、転送速度を引き上げた時の信号の安定性が従来型のDIMMスロットより高めやすい。さらにDIMMそのものの設置がマザーボードと並行になるため、表面/裏面にヒートスプレッダを接続しやすく、冷却が容易になるのでOC動作がしやすくなる。
- CU-DIMM/CSO-DIMM : OC動作には向かないが、従来型の配線であっても安定して信号転送が可能になる。
といったところだ。加えると、CAMM2にはもう一つメリットがある。Photo04は(CAMM2のMechanical Specificationが何故か公開されていないのでLPCAMM2のものだが)、JEDECのPS-007(LPDDR5 CAMM2 Connector Performance Standard)として公開されているLPCAMM2の接点部の仕様に筆者が色を付けたものである。CAMM2もこれは同じなのだが、信号を囲むようにGNDが配されており、信号同士の干渉がGNDのお陰で減る効果が期待できる。またGND部は当然金属なので、熱伝導率が高い。なのでDIMMの熱を基板側に逃がしやすい効果も期待できる。
デメリットは従来のDIMMと機械的/電気的互換性が全くないので買い直しになることである。またCAMM2は原則128bitのPoint-to-Pointになるので、システムに1枚だけの装着になる。筆者の様に、転送速度を下げて(DDR5-4800のDIMMとDDR5-5200のDIMMを2枚づつ混在させたうえで、DDR5-4400駆動で利用している。要するに速度より容量を取った格好だ。何で混在しているかというと、単に手持ちのDDR5 DIMMでベンチマークに適さなくなったものを流用しているという話である)使うユーザーにはちょっと不便ではある。
CU-DIMM/CSO-DIMMはチャネルあたり2枚挿しが可能であり、また機械的形状はDDR5 DIMMと同じくMO-329が利用されるので、既存のDDR5 DIMMスロットにそのまま装着できる。電気的にも互換というか、CU-DIMMそのものは本来ホスト側には依存しない(DIMMの上にClock Driverを追加するだけで、これは本来ホストからTransparentな存在になっている「筈」)ので、既存のDDR5対応CPUなら理屈上は動作する筈なのだが、SPD周りの変更がある関係で、実際にはCPU側のFirmware Updateが必要になるかもしれない(BIOS Update程度で済む可能性もあるが)。あとCU-DIMM/CSODIMMの場合はClock Driverが追加になる関係で、その分コストが上がる事が避けられない。またOC動作を行う場合に、メモリチップより先にClock Driverがボトルネックになって動作周波数を上げられない可能性も考えられる。
2024年のCOMPUTEXではCAMM2対応のマザーボードがIntel向けに多数発表されており、いくつかの製品は2024年中に発売予定という話だったが、現時点で発売されている製品が無い辺りは、多少予定が後ろにずれてしまったようだ。一方CU-DIMMはショップの店頭に大量に在庫があるという状況では無いが、一応購入可能(例:Crucialの16GB DDR5-6400)であり、Arrow Lake+Z890マザーボードの組み合わせでは動作保証が行われているものもある。2025年はこうした製品が次第に増えて来るかと思われる。
ちなみにAMDプラットフォームに関しては今のところ動きが見えないが、後述するMRDIMMなどと異なりCAMM2もCU-DIMM/CSODIMMもJEDEC標準として既に公開されている規格なので、2025年中には何らかの形で対応が明らかになるかと思われる。もっとも、特にCU-DIMM/CSO-DIMMについてはDDR5-6400以上を安定して使うための技術であり、現状サポートされているDDR5-6000までの範囲で言えば別にCU-DIMM/CSODIMMの必要性が薄いという事情もあるだけに、2026年のZen 6世代まで見送りになっても不思議ではない。
最後に次の世代であるDDR6の話だが、早ければ2025年前半に仕様化が完了する可能性はある。ただある程度のところまでは詰めているが、まだ細かい点で揉めているという話もチラっと耳にしたので、標準化が完了するのは2026年にズレ込む可能性もある。まぁ仕様が出て来ても、実際の検証用ハードウェア(ホスト側とメモリ側の両方)が出てくるのは2026年、そこからユーザー検証などを経て最初に製品が出てくるのは2027年以降(2028年?)と目される。AMDがAM5 Platformを最低でも2027年まで継続する、としている事を考えると、当面DDR6の事は考える必要は無さそうだ。
MRDIMM
MRDIMMは2023年に公開されたサーバー向けの新規格である。COMPUTEX TAIPEI 2023でADATAがサンプルを展示しているのはご紹介したが、その後IntelのGranite Rapidsが正式にMRDIMM(Intelの名称はMCD DIMM)をサポートする事を表明した(Photo05)。もっとも蓋を開けてみたら、MRDIMMをサポートするのはP-CoreベースのGranite Rapidsだけで、E-CoreベースのSierra Forestはノーサポート(Photo06)という不思議な状態ではあるのだが。
このMRDIMM、一応ちゃんとしたJEDECの標準規格ではあるのだが、現状はまだ標準化作業が終わっていない状況であり、それもあって仕様も公開されていないし、AMDは「標準化が終わった規格しかサポートしない」という理由でまだEPYCシリーズでは未サポートである。ただしそもそもJEDECにおけるMRDIMMの標準化作業にはAMDも加わっており、なので標準化が終わった段階で何らかのサポートが行われるものと思われる。ちなみに色々確認しても明快な返事は得られなかったのだが、Genoa世代までのIODはMRDIMMに未対応なのは間違いない。ただ最新のTurin世代ではMRDIMMのサポートが実装され、ただし有効化されていない可能性がある。まぁ実装されているとは言っても検証が済んでいる訳ではないのだろうが。
そんなMRDIMMだが、最大8800MT/secというのは第1世代のMRDIMMであり、第2世代は最大12800MT/sec、第3世代は17600MT/secを狙うという計画になっている。この第2世代向けのチップセットをRambusが2024年10月15日に、Renesasが2024年11月20日にそれぞれ発表している。MRDIMMそのもののサンプル出荷はXeon 6の出荷に先立つ2024年7月にスタートしており、現在は製品も手に入る。
DDR6はまだ実用化には当分時間が掛かるので、それまでの間の繋ぎとしてサーバー向けにはMRDIMMが本格的に使われることになるだろうし、その傾向は2025年に顕著になりそうだ(標準化作業も2025年中に完了の予定である)。
GDDR
既に2024年中にSamsung/SK Hynix/Micronの三社がGDDR7の開発を完了しており、もう顧客(NVIDIA及びAMD)の評価も完了している。恐らく2025年1月のCESで、そのGDDR7を採用するビデオカードが発表されることになるだろう。
GDDR6の世代は当初8Gbps~16Gbpsまでという話で、より帯域が欲しいNVIDIAはMicronと組んでGDDR6Xを開発して21Gbpsまで転送速度を引き上げたが、結局GDDR6そのものがより高速化(例えばSamsungは20Gbps品を量産中で、24Gbps品をサンプル出荷中である)したことで、GDDR6X単に消費電力がGDDR6より大きな独自GDDR6という事になってしまった。
こうした事もあってか、GDDR7世代で独自規格を策定する予定は、今のところNVIDIA/Micronには無いという話である。理由の一つは、既にGDDR7でPAM3変調を使っており、例えばこれをPAM4にしたところでそんなに性能が上がらないうえ、むしろシンボル速度が下がりそうなことだ。Samsungが2024年10月に発表したGDDR7は既に40Gbpsを実現しており、42.5Gbpsまで速度を上げる余地があるとしている。恐らく2025年1月に発表される新GPUに搭載される製品はここまで行かず、30Gbps前後に留まると予想されるが、それでも十分高速である。2025年末辺りには、マイナーバージョンアップで30Gbps台後半の帯域を利用する製品が登場する事が予測される。40Gbpsに到達するのは2026年以降ではないだろうか?
HBM
最後にこちらについて。コンシューマ向けにはもう完全に無縁であるが、AI向けプロセッサやサーバー向けGPUはHBM3eが必須というか、それなしでは実現出来ないほどに需要が高まっており、これに向けてメモリ3社はHBM3eの増産に向けて舵を切っている。
ことNVIDIA向けに関してはSK Hynixが圧倒的なシェアを握っており、これを巻き返すべくSamsungとMicronが躍起になっている、というのが2025年初頭の状況であるが、2025年後半にはもう少しシェアを戻したいとSamsung/Micronは考えている様だ。もっともうまく行くかどうかは微妙なところではあるのだが。
その辺もあってか、3社ともHBM4に向けての準備に余念がない。HBM4は一般には2026年頃に標準化が完了すると言われているが、SK Hynixは2025年中にHBM4の量産を開始するとしている。ただ2024年12月には、SK HynixがHBM4のコントローラを当初予定していた5nm(TSMC N5)から3nm(TSMC N3E)に変更すると報じられたが、これが事実だとするとどう考えても2025年中の量産には間に合わない。恐らく2026年の量産(サンプル出荷が2025年中)という感じになるのではないかと思われる。