2025年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う毎年恒例の特集記事「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はCPU編だ。2024年を振り返ってみると、激流に揉まれたIntelと、急成長を遂げたAMDという構図だったわけだが、2025年はどうなるだろうか? 見えてきた両社の製品計画から、展望してみたい。
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2025年のIntel CPU - まずはArrow Lakeの拡充、反撃は18A次第?
2024年のIntel CPUは色々大変だった。Process編でも触れたが、本来はArrow Lakeの後に投入予定だったLunar Lakeを、Arrow Lakeに先立って投入する事になった。これはMicrosoftがCopilot+ PCというブランドというかキャンペーンを打つことを決め、これにQualcommが飛びついた事で、Intel/AMD共にその対抗製品を投入せざるを得なくなった。
ただIntelはこのタイミングに間に合う様に、Arrow Lakeベースの製品を投入する事が出来なかった。そもそも2023年6月に行われたプレス向けセミナーの際のロードマップがこれである(記事はこちら)。Lunar Lakeは"Future Lake Client"扱いで2025年後半になっているし、Arrow Lakeもまだこの時点ではIntel 20Aで製造という話だった。ただ水面下の話をすると、2023年9月頃にはArrow LakeはU SKUのみがIntel 3で、それ以外は全部TSMCのN3Bになる事が決まっており、更に同じころにLunar Lakeの前倒しも決定した。要するにここから製品ロードマップの大幅組み換えが発生したことになる。多分この少し前あたりで、MicrosoftからCopilot+ PCの構想が伝えられ、それに合わせるべくロードマップを入れ替えた格好だろう。逆に言うと1年かそこらで良く全部組み換えできたな、と思わざるを得ない。当初からTSMC N3が想定されていた(以前のロードマップでも、Intel 20Aと一緒に"External"の文言が躍っていた)Arrow LakeはともかくLunar LakeはIntel 20Aのみだった筈で、物理設計のやり直しはさぞかし大変だったと思われる。というか、この時点でそもそもLunar Lakeが元のLunar Lakeと同じものだったのかどうか、もちょっと怪しい。IO TileとかSoC Tile、GPU Tileなどは元々のLunar Lakeと同じだったのだろうが、CPU TileはArrow Lake用のものを持ってきたのでは? と思わざるを得ない部分が幾つかある。
さてそのLunar Lakeは2024年6月のCOMPUTEXなどで様々なアナウンスが行われ、それにあわせてPress Meetingまで開催されたが、出荷は2024年9月の事。そして2024年10月にはArrow Lakeが出荷されることになった。正直Copilot+ PCの盛り上がり方を見ていると、別に無理してLunar Lakeを出荷する必要は無かったのではないかと思わなくも無いが、これは後知恵というべきかもしれない。
これと並行して2024年初頭から話題が出始め、2024年4月末あたりから大騒ぎになり始め、6月に最初のパッチが登場。9月末にやっと根本的な問題の特定と、それに対応するための解決法が示されたのがRaptor Lakeの不具合問題。対策せず利用していると壊れる例もあるらしい、というのは流石にシビアすぎる問題であり、最終的に不具合を起した製品の無償交換&製品の保証期間を5年に延長、という形で収束する事になったが、この問題の現象解決に駆り出されたIntel社内の品質保証部門とか検証部門のワークロードは物凄かったと聞く。そうでなくてもLunar LakeやArrow Lakeなどに加え、Xeon 6やGaudi 3など新製品が多く、こうした品質保証部門や検証部門は大忙しだった上に、業績不振で人員削減が進められる中でのこの出来事は、当事者にとっては災難以外の何物でもなかっただろう。
まぁそんなIntelのCPUであるが、2025年はまだ比較的平穏に進むのかな? と考えている。まずDesktop & Mobileであるが、これはArrow LakeのSKUが増えるだけとみられる。2025年1月6日から開催されるCES 2025でIntelは複数のイベントを開催予定である。まず1月6日の8時30分(現地時間)から基調講演が行われることになっており、ここでArrow LakeのDesktop向けの追加SKU(K無しのモデル)に加え、ひょっとするとIntel ProcessorブランドでもいくつかSKUが追加されるかもしれない。ただこちらはArrow LakeではなくRaptor Lake Refreshベースになるものと思われる。Arrow Lakeは、Intel Processorブランドで販売するにはまだ製造原価が高すぎるのと、LGA1851のマザーボードもまだ高価過ぎてIntel Processor向けには適さないのがその理由である。既存のIntel Processor 300/300TもRaptor Lakeベースであり、おそらくこの延長で多少動作周波数などを変更したものが投入される程度だろう。
一方Mobile向けであるが、Desktop向けと併せて2025年のCESで発表されることになると思われる。ただしここで発表されるArrow Lake-H/HKとArrow Lake-Pは何れもCopilot+ PC対応とはならない。これはNPUのスペックがCopilot+ PCの要件を満たさないためである。NPUが搭載されているのはSoC Tileなのでこれを作り直せば可能...なのだが、Arrow LakeのSoC TileはTSMC N6での製造で、このままだと動作周波数を引き上げると消費電力が大きく増えるし、NPUの規模を大型化するとダイサイズが肥大化する。ではプロセスをTSMCのN5とかN3に、というのはSoC Tileの本来の目的(I/Oなどを集約)を考えると得策ではない。本質的にはLunar Lakeの様に、Compute Tileの方にNPUを移動させないとNPU性能の大幅な引き上げは無理であり、これを考えるとArrow Lake世代でのNPU性能向上は放棄したのだろう。まぁこれは致し方ないところだ。
これに続く製品であるが、恐らく2025年第3~第4四半期頃にArrow Lakeの後継製品が出てくるが、これは大幅な変更がないであろうArrow Lake Refreshになる模様だ。このArrow Lake Refreshでは、P-Coreの方はほぼ据え置きで若干動作周波数が上がる程度だが、E-Coreの方は最大構成で32coreとかいうSKUも用意されるらしい。これは現状のArrow LakeがハイエンドのCore Ultra 9 285KであってもP-Core×8+E-Core×16の合計24Thread相当しかなく、このままではRyzen 9 9950Xの16core/32Threadに及ばないためで、合計40Thread動作が可能な新しいCPU Tileが用意されることになるという話である。多分性能という意味でもP-Core×8+E-Core×24の合計32Threadでは微妙に及ばないか良くて同等程度なので、打ち破るにはもっと物理コアが必要であり、だからといってP-Core×16+E-Core×16だとダイサイズが極端に大きくなる。Photo01は実際にシミュレーションしてみたものだが、P-Core×16+E-Core×16だと元のダイサイズの56.9%増しになるのに対し、P-Core×8+E-Core×32だと34%増しで済む。多分これはIntelとしても苦渋の選択だったのだろう。
続いてなのか、その前になるのかは微妙(Intel 18A次第)だが、発表されるのがLunar Lakeの後継となるPanther Lakeである。どうやら当面はV SKU(旧U SKU)とその他が異なる、というラインナップが継続されるらしい。これは当然Copilot+ PCの要件を満たすもので、恐らくNPUの性能は軽く倍増位を狙うものと思われる。P-CoreはLion Coveの改良型であるCougar Cove、E-CoreはDarkmontに刷新されるほか、Meteor Lakeと同じくLP E-CoreがSoC Tileに搭載される模様で、P-Core×4+E-Core×8+LP E-Core×2という構成になると伝えられているが、どこまでこれが正確なのかは良く判らない。逆に言えば、このPanther Lakeが登場するまでの間は、Arrow LakeとLunar Lakeが共存することになる。Panther Lakeは順番から言えばCore Ultra Series 3になる筈だ。Panther Lakeがプロセスの遅れなどの要因で2026年にズレ込まない事を祈るのみだ。
なお2026年にはArrow Lakeの後継としてNova Lakeと呼ばれるシリーズが予定されているらしいが、このあたりになるとまだロードマップがかなり変わりそうなので、確度は低いと考えて欲しい。
最後にServer向けについて。既にXeon 6向けにSierra ForestベースでFCLGA4710のXeon 6700Eがまず投入され、これに続きGranite RapidsベースでFCLGA7529のXeon 6900Pも既に発売された。なかなか市場に出回らないのは、Intel 3で巨大なTileを生産する事の難しさもあって、供給が足りていないという事なのかもしれないが、Intel ArkによればXeon 6700Eは2024年第2四半期に、Xeon 6900Pは2024年第3四半期に出荷開始となっているので、あとは2025年の話となる。
その2025年であるが、今度はFCLGA4710でGranite RapidsベースのXeon 6700P/6500P/6300PとXeon 6 SoC、それとFCLGA7529でSierra ForestベースのXeon 6900Eが第1四半期中に投入されることが既に予告されている(Photo02)。おそらくはこちらもCES 2025の基調講演でまず発表され、3月までには出荷開始になるものと思われる。ちなみに上ではサラッとFPLGA4710と書いたが、実はローエンド向けは別のパッケージがある事が2024年8月のHot Chip 2024で公開されている(Photo03)。8chのメモリを利用できる製品は横幅56.5mmであるが、これとは別に横幅を50mmに縮めた省パッケージ版も存在する、という話である。こちらは4chメモリのみのサポートである。恐らくは組み込み向け用途などで、少しでもボードサイズを小さくしたいというニーズに向けた対策と思われる。そんな訳で実際はFCLGA4710以外にもう一つパッケージがある事に留意されたい。
さてその次の製品の話であるが、Intel 18Aを利用するClearwater Forestが既に控えているのはIntelもアナウンス済である。ForestシリーズということでこれはE-Coreをベースにしたもので、恐らくPanther Lakeと同じくDarkmontコアベースになるものと思われる。こちらは運が良ければ2025年第4四半期位には投入されるかもしれないが、Client向けより検証などの時間が余分にかかる事を考えると、2025年中はアナウンスのみで、製品出荷は2026年にズレ込んでも不思議ではない。また今になっても不明なのがP-Coreベース、つまりGranite Rapidsの後継製品である。実は以前からDiamond Rapidsという後継製品がロードマップに上がっていたが、この中身は筆者が知るだけで2回変わっている。恐らくはCougar Coveベースの製品で、IntelのTurin対抗で128コア位の構成になりそうではあるのだが、これに関してはIntel自身が一切ロードマップの形で示していないので、何とも言い難い。恐らくはIntel 18Aベースだと思うのだが、2025年中に出て来るかどうかも怪しいところで、Clearwater Forest同様に2026年投入となるかもしれない。
2025年のAMD CPU - Zen 6はまだ来ない? 3D V-Cacheモデルは有望
Intelに比べると大きな出来事も無かったというか、ほぼ予定通りに製品が投入されたのが2024年のAMD CPUというところか。小さいところでは、Ryzen 9000シリーズの投入が1週間遅れたのだが、これは製品出荷直前になってヒートスプレッダの印刷が間違っている事が発覚した(本来はRyzen "7" 9700Xが正しい)のでこの修正が必要だったとか、2024年8月9日にAMDも脆弱性対策のためにMicrocodeのUpdateを公開したとか、その程度の出来事しか無かった。こうした事もあり、2024年第3四半期には
Unit Share | Revenue Share | |
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Server | 24.2% | 33.9% |
Desktop | 28.7% | 27.3% |
Mobile | 22.3% | 19.2% |
Client合計 | 23.9% | 21.7% |
CPU合計 | 24.0% | 26.5% |
といったシェアを獲得できたとしている。特に利益幅の大きなServerマーケットでUnit Share 24%/Revenue Share 34%を獲得できたのは、AMDにとって財務状況の好転に非常に大きな原動力になっている。
そんなAMD、2024年はZen 5コア及びZen 5cコアをDesktop、Mobile及びServerの全セグメントに展開した年であり、Desktop向けにはRyzen 9000シリーズ、Mobile向けにはRyzen AI 300シリーズ、サーバー向けにはEPYC 9005シリーズがそれぞれ投入された。またこれと並行してZen 4コアにRNDA3 GPUを組み合わせたRyzen 8000 Mobileやデスクトップ向けのRyzen 8000Gシリーズ(なぜかそのRyzen 8000GシリーズからGPUを無効化させたRyzen 8000Fシリーズなんていう製品まで追加された)などが提供されている。
また2024年1月には、前世代のSocket AM4向けにRyzen 7 5700/5700X3DとかRyzen 5 5500GT/5600GTを追加するといった具合にAM4向けの延命策も提供するなど、幅広いラインナップを提供している。次に説明する様に、まだDDR4とDDR5のCrossoverが実現しておらず、最近はちょっと価格差が縮まってきた(一部逆転もある)が、まだDDR4の方がやや割安である。しかもマザーボードもかなり価格がこなれてきており、システム全体の価格で考えるとIntel Processorなどのバリュー向け製品に対して性能と価格の両面で十分競争力がある。AM4を事実上のバリュー向けとし、メインストリームをAM5にシフトするという形でラインナップを増やした格好だ。
さてそんなAMDの2025年で。現時点ではまだCESでの発表内容ははっきりしないが、恐らくはMobile向けのRyzen AI 300シリーズのRefreshになるものと思われる。まだZen 6を実装するには早いし、RDNA4の搭載も時期尚早、TSMC N3Eへの移行もまだ間に合わないとなれば、多少スペックのUpdateといったところではないかと考えられる。むしろCESの目玉はRadeonになりそうだが、これはGPUの所で説明する。
現状AMDがZen 5世代でまだ提供していないものは? というと、まずはX無しの普及帯モデルである。現状はRyzen 9 9900X/9950XとRyzen 7 9700X、Ryzen 5 9600Xの4SKUのみであり、これはCESのタイミングで発表、2025年第1四半期中に発売開始という感じかと思われる。
2つ目は3D V-Cacheモデルの拡充である。現状発売されているのはRyzen 7 9800X3Dのみだが、トップエンドのRyzen 9 9950X向けなどにも提供されてゆくものと思われる。こちらは2025年第1四半期末~2025年第2四半期に掛けて展開されてゆく事になるだろう。
3つ目がZen 5世代のThreadripperである。現状はコンシューマ向けのRyzen Threadripper 7000シリーズと、ワークステーション向けのRyzen Threadripper Pro 7000WXシリーズの2つがラインナップされており、恐らくはRyzen 9000シリーズでもこれを継承する事になりそうだ(もっともコンシューマ向けのRyzen Threadripper 7000シリーズは予想したほどに売れていない、という話もチラっと耳にしたので、あるいはRyzen Threadripper 9000シリーズは出ない可能性もあるが)。こちらは早ければ5月のCOMPUTEX TAIPEI 2025(例年だと6月だが、今年は5月20日~23日に開催される)に合わせて発表かもしれないが、Ryzen Threadripper 7000X/Ryzen Threadripper Pro 7000WXシリーズが2023年11月の発表だった事を考えると、第3~第4四半期までズレる可能性もある。
問題はDesktop向けである。当初はZen 6が比較的早い時期(2025年後半)に投入される、などという観測もあったのだが、最新の情報では2026年になるとされている。実際過去の投入時期を一覧にしてみると
- Zen 2017年3月
- Zen+ 2018年4月(13mo.)
- Zen 2 2019年7月(15mo.)
- Zen 3 2020年11月(14mo.)
- Zen 4 2022年9月(22mo.)
- Zen 5 2024年7月(22mo.)
といった具合であんまり規則性が無い。平均すると17.2か月、ほぼ1年半毎に更新といった感じで、これを当てはめるとZen 6 Ryzenは2026年1月か2月に登場という事になる。現状プロセスも不明であるが、Desktop及びServer向けのCCDはN3Eを使うのは間違いないところであり、問題はMonolithic系のMobile向けがN2に行くのか、N3Pあたりで留めておくのか判らないところだ。加えて言えば、N3とかN2だとそろそろMobile向けもChipletの方がコスト的に見合いそうな雰囲気になってきている。
そんな訳で現状Zen 6については余り情報が無いのだが
- Zen 6はMorpheus、Zen 6cはMonarchというコード名。
- CCDあたり16coreに拡充される。ただしCCXが16coreになるのか、それとも8core CCXで1つのCCDに2つのCCXになるのかは不明。
- 3nm及び2nmプロセスでの製造を予定
- Zen 5世代と比較して10%のIPC向上
なんて話の他、IoDが3nmに移行するという話も伝わってきているが、正直これはかなり眉唾ものだと思っている(N5、あるいはN4Cあたりへの移行はあり得ない話ではないとは思うが)。
ではMobileは? というと、RDNA 4を搭載したStrix Pointの後継製品に関しては、これも当分見送りになる模様だ。ただし現在12coreのCPUを16coreに強化したStirx HaloがStrix Pointの上位製品として投入されるらしい。またGaming Mobile向けに現在はRyzen 8045シリーズ(Dragon Range)が提供されているが、この上位製品としてZen 5コアを利用したFire Rangeも投入されるらしい。Hawk PointことRyzen 8040シリーズは、引き続き2025年も提供され続ける模様だ。
そんな訳で全体的にはあまり大きな動きはなさそうなのが2025年のConsumer向けCPUである。競合であるIntelも2026年まではArrow Lake/Arrow Lake Refreshで凌ぐ事になるので、現状のZen 5ベースなら競争力があるし、N3Eの逼迫具合を見れば今年1年はあまり動きようがない、というのが正直なところかもしれない。
Server向けのEPYCに関しても、あまり大きな動きは無いだろう。可能性としては、低コスト向けのEPYC 4004シリーズの後継としてEPYC 4005シリーズが投入されても不思議ではないし、また通信業界向けのSienaことEPYC 8004シリーズの後継としてEPYC 8005シリーズが投入されるかもしれない。また3D V-Cache搭載EPYCのSKUは後追いで追加されることになるだろう。
可能性としてもう一つあり得るのは、EPYC 9V64Hの系列を標準製品化することだ。これは何か? というと、2024年11月19日から開催されたMicrosoft Igniteで公開された、現状はMicrosoft向けの専用チップである。実は以前からInstinct MI300X/MI300Aとは別に、MI300Cという名前が湧いていた。Instinct MI300シリーズの場合
- MI300X: GCD×8+IOD×4+HBM3E×8
- MI300A: GCD×6+CCD+4×IOD×4+8 HBM3E×8
な訳だが、MI300Cは
- MI300A:CCD×12+IOD×4+HBM3E×8
という構成になる。
ちょっと判りにくいので、図1に示してみた。元々Instinct MI300シリーズは
- GCD×2+IOD+HBM3E×2(GPU Block)
- CCD×3+IOD+HBM3E×2(CPU Block)
という2種類のコンポーネントがあり、これを4つ組み合わせる形である。だから可能性としては
- GPU Block×4
- GPU Block×3+CPU Block×1
- GPU Block×2+CPU Block×2
- GPU Block×1+CPU Block×3
- CPU Block×4
の5種類があるわけだが、全部並べてもニーズがあるとは限らない。現状ではAI向けにはGPU Block×4をInstinct MI300Xとして、GPUを使うHPC向けにGPU Block×3+CPU Block×1をInstinct MI300Aとしてそれぞれ提供している訳だが、特にHPCの分野ではGPUに適さず、かつメモリ帯域が重要といったアプリケーションが少なくない。こうした用途向けに、従来のEPYCでも3D V-Cacheを搭載し、更にコア数を減らすことで、コアあたりで利用できるキャッシュ容量と帯域を増やしたモデル(例えばEPYC 9384X)があるが、Instinct MI300CはCPU Block×4とすることで、HBM3Eメモリを内蔵する高速なEPYCが簡単に構成可能である。MicrosoftはこのInstinct MI300Cを同社のAzure HBv5インスタンスに利用する事をIgniteで発表した訳だが、このAzure HBv5に関する説明によれば、Instinct MI300Cを4つで一つのノードを構成しており、ノードあたりのメモリ帯域は7TB、コア数352(SMTは無効化)、メモリ容量400GBが利用できるとしている。
HBMを汎用プロセッサで利用したい、というニーズは科学技術計算の分野では結構多い。そもそも富岳がHBMを採用したのもそうした理由だし、2023年に京都大学で運用開始されたCamphor 3がIntelのXeon Maxで構成されているのも同じ理由だ。
こうしたHPC向けにInstinct MI300Cはかなり「刺さる」構成に思えるが、先に書いたように現状はMicrosoft向けのみのカスタムCPUとして提供されている。そこで2024年12月にAMDが日本でAdvancing AI & HPC 2024 Japanイベントを開催した折に、Samuel Naffziger氏に「MI300CをHPC向けの汎用製品としてラインナップする可能性は?」と尋ねたところ「顧客のデマンドがあれば考える(が、今のところ明示的な計画は無い)」との返事であった。AMDとしても、ある程度の数量が出るのでなければ標準品として提供するのはためらう所だろう(プラットフォームの互換性が無いのが大きな問題ではある:Microsoftの場合は、その辺をMicrosoft自身が責任を持つから可能なのだが)。とはいえ、Instinct MI300Cが新たにラインナップに加わる可能性が無いとは言えないだろう。