昨年放送のNHK大河ドラマ『光る君へ』で藤原道長役を好演した俳優の柄本佑が、初の著書となるフォトブック『柄本佑1stフォトブック「1(いち)」』(受注受付中/講談社)を発売。海外での評価も高い写真家の森山大道氏と荒木経惟氏が撮影した柄本のさまざまな姿が映し出されている。2003年に俳優デビューしてから数々の作品に出演し、円熟味が増している柄本にインタビューし、今の俳優業への思いや今後について話を聞いた。
『光る君へ』の藤原道長役を演じ切り、俳優として大仕事を果たした柄本だが、今の俳優業への思いを尋ねると、「絶望しているところなんです」と想定外の言葉が飛び出した。父である柄本明の朗読劇『今は昔、栄養映画館』を観劇し、圧倒されたのだという。
「つい昨日のことなのですが、父の朗読劇を見に行ったんです。朗読劇を見るのは初めてで、劇場に入るときに3000円を払って、椅子に座って本を読んでいる俳優さんを見るのに3000円かと思ったんですけど、まあ面白くて。手前味噌になりますが、柄本明という人のすごさに触れてしまって、絶望したばかりです。3000円払いましたが、倍の6000円は取って大丈夫だなと。とてつもないものを見たなという感じで、一緒に見に行った人と喫茶店に行ったんですけど、2人とも食らってしまって、『今見たのは何だったんだろうね』と」
そして、改めて原点に立ち返るきっかけになったと語る。
「師匠でもある父の朗読劇を見て、今は、四の五の言わず、真面目にやりますという気持ちです。良いとか悪いとか言う前に、根本的にやらなきゃいけないことがあるよねと。それが何なのかということも含めて、また探していきたいという思いですが、一つ一つの作品や役としっかり向き合って、セリフ一言一言を大事にしていくという、原点に戻ったような気がしています」
『光る君へ』と同じく、吉高由里子と柄本が共演し、大石静氏が脚本を手掛けた日本テレビ系ドラマ『知らなくていいコト』(20)では、尾高由一郎役を演じた柄本の色気にハマる視聴者が続出。『光る君へ』でも道長役の柄本の色気がたびたび話題を呼んだ。
「大石先生から『来週もまた道長くんに会いたいと思ってもらわなきゃダメなんだからね』と言われて、『そうですよね』と(笑)。それを指針にしていましたが、自分1人でやっていることではなく、吉高さんに引き出していただいたところが大きいですし、監督の演出や、照明、メイク、衣装など皆さんに助けられながら道長像が作られ、『知らなくていいコト』もそうだったと思います。なので、そう言っていただくと、チームとしての力というか、みんなでやってきたことが間違いではなかったのかなと思えてうれしいですし、いいチームだったなと思います」
年齢や経験を重ね、柄本自身も色気のある大人の男性へと成長を遂げ、それが役に魅力にもつながっているように感じるが、本人は「どうなんでしょう」と笑いつつ、「若い頃は取材であまりしゃべらなかったのが、この歳になってみると、意外と僕はおしゃべりなんだなと思ったり、そういった変化はあります」と語る。
そして、若い頃の態度について、「尖っているとか言いますけど、結局は自意識過剰なんですよね」と振り返り、次第に自分が楽でいられる状態にたどり着いたという。
「甘えもあるし、人見知りというのもあって、そういったことを全開に出していた時期がありましたが、ある時から変わりました。根っこの部分は変えようがなく、そこが変わらなければ、おしゃべりであろうと無口であってもどっちでもいいのかなと思ったら、自分が楽にいられるところを探そうとなって。そして、せっかくならマイナスな方向より楽しい方がいいよねという思考になり、気づいたらおしゃべりになっていました(笑)」